2017.03.16
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2017.03.16
2016年8月21日にリオデジャネイロ・オリンピックが閉幕してから、半年が経過した。
過去のオリンピック・パラリンピックでも、大会終了後、競技施設が有効利用されなかったり、適切な運営、管理が行われず廃墟のようになった例は少なくない。しかし、リオの場合は競技施設が廃墟と化すスピードとスケールが桁違いで、世界のスポーツ関係者に衝撃を与えている。
2016年リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック(以下:2016年リオ大会)のメイン会場として約25億レアル(約900億円)をかけて建設された南部バーラ地区のオリンピック・パークの競技施設は、その後、2017年2月にオリンピック・テニス・センターでビーチバレーの国際イベント「Gigantes da Praia」(ブラジル・アメリカの対抗戦)が行われた以外、全く使用されていない。施設の運営、管理、維持を請け負っていた会社が2016年限りで営業を停止し、リオ市が別の管理会社を募集したが希望者がなく、現在は国(スポーツ省)の管理下にある。しかし、スポーツ省も月に約250万レアル(約9,000万円)の維持費を捻出できず、管理不十分のため廃墟となりつつある。
オリンピックのフェンシングとテコンドー、パラリンピックの柔道の競技会場となった「カリオカ・アレーナ3」は、大会後は全面的に改修されてスポーツ専門校となり、柔道、卓球、バレーボール、バスケットボールなど10競技のトップを目指す次世代のアスリート850人の練習と勉学の場となるはずだった。しかし、こちらも予算不足で2017年2月時点でまだ改修工事が始まっておらず、工事開始の予定すら立っていない。
オリンピックのハンドボールとパラリンピックのゴールボールが行われた「カリオカ・アレーナ4」も、全面改修されて4つの小学校や中学校が設立されるはずだった。しかし、こちらも改修工事はまだ行われていない。以前の記事で紹介したとおり、小学校の完成予定は2017年7~9月であった。
オリンピックの自転車競技(トラック)の会場は、ボクシング、フェンシング、重量挙げ、テコンドーの練習施設に改修されるはずだったが、これもまだ改修工事開始の目途が立っていない。
開会式、閉会式、男女サッカーの競技会場となった「マラカナン・スタジアム」は、所有者であるリオ州がスタジアムを管理する民間の会社を公募し、「コンソルシオ・マラカナン 注)」(マラカナン・コンソーシアム、以下:コンソルシオ)が約1億8,000万レアル(約65億円)で2013年5月より35年間の運営権を獲得していた。また、2014FIFAワールドカップ開催のために約13億レアル(約468億円)をかけて全面改修も行われた。その後、2016年リオ大会開催のため、2016年3月からコンソルシオは同大会組織委員会へスタジアムを貸与していた。しかし、同年9月(大会終了後)に組織委員会がコンソルシオにスタジアムを返還したところ、同大会のために改修された部分が元通りになっておらず、「契約違反」としてコンソルシオ側は受け取りを拒否した。この時点で、組織委員会は約2億レアル(約72億円)の負債を抱えており、スタジアムの改修費用を捻出できないままでいる。この結果、スタジアムの管理者不在の状態が今も続いている。ピッチの芝は枯れて茶色になり、不法侵入者によってスタンドの座席が約7,000席壊されたり、事務所の備品などが盗まれるなどの問題が起きている。また、コンソルシオは、過去3年足らずの間に多額の損失を計上しており、スタジアムの運営権を他の会社に譲渡しようとしている。現在、フランス資本の2つのイベント運営会社が興味を示しているが、2017年2月末の時点では、まだ新しい管理会社は決まっていない。
※注 オデブレヒト社(ブラジルの建築会社)が95%、EBX(リオデジャネイロに本部をおくエンジニアリング企業のグループ)が5%を出資したコンソーシアム
デオドロ地区では、カヌー(スラローム)と自転車競技(BMX)の会場(総面積50万㎡)が巨大な多目的レジャーエリアとなり、地域住民150万人に水泳、バスケットボール、バレーボール、フットサル、マウンテンバイク、ローラースケート、ピクニック、バーベキューなどを楽しむ機会を提供するはずだった。実際に、2016年9月、カヌー会場はプールとして一般に開放された。しかし、プールの管理を任された会社が2016年末で営業を停止し、その後、新たな管理会社が見つかっておらず、以後は閉鎖されたまま。BMXの施設も、管理会社が見つからないため閉鎖されている。
ゴルフ場は、オリンピックのために約1,900万ドル(約21億円)を費やして建設され、大会終了後はブラジル・ゴルフ連盟が運営を委託されている。しかし、ブラジルではゴルフ愛好者が限られており、使用料も高いことから利用者が少なく、利益を出すどころか管理費用も賄えていない。ゴルフ場のグリーンは穴だらけで、野鳥やカピバラなど多くの野生動物が住み着き、池には大きなワニも生息している。
選手村は、17階建ての建物が31棟あり、大会終了後、マンションとして売り出された。販売価格は、78㎡の物件が約86万レアル(約3,100万円)、230㎡の物件が約253万レアル(約9,100万円)だが、2月末までに3,064軒中300軒足らずしか売れておらず、不良債権と化しつつある。販売不振の理由について、「景気が悪いことに加え、価格が相場よりやや高めであること、また2016年リオ大会で選手村をオープンした際に外国選手団から電気系統や配管の不具合、全体的な仕上げの悪さなどについてのクレームが相次いだことなどが響いているのだろう」と、地元の不動産会社は説明している。
2016年リオ大会の競技施設のうち、その後、施設が有効に活用されているか、少なくとも適切に管理されているのは、リオ市が管理するマラカナン地区の「ニウトン・サントス・スタジアム」(オリンピックとパラリンピックの陸上競技とサッカーの競技会場)、フランスのイベント会社「GLイベントス」が管理を委託されている「HSBCアレーナ」(オリンピックの体操競技、パラリンピックの車椅子ラグビーの競技会場)、ブラジル陸軍の敷地内にあってリオ市が管理する「デオドロ競技場」(オリンピックとパラリンピックの馬術、射撃、オリンピックの7人制ラグビー、ホッケー、パラリンピックの7人制サッカーの競技会場)くらいのものである。
このような悲惨な状況を迎えた理由について、2017年1月27日、ブラジルの有力テレビ局「バンデイランテス」のニュース番組「Jornal do Rio」(ジョルナウ・ド・リオ=リオ・ジャーナル)は「Governo do Rio deixa em ruínas o “legado olímpico”」(リオ州政府は、オリンピックのレガシーを廃墟にしてしまった)と報道。リオ州、リオ市、各会場の管理を委託された会社、そして2016年リオ大会組織委員会の能力不足と無責任さを批判した。
これに対し、スポーツ省のレオナルド・ピッシアーニ大臣は、「オリンピック・パラリンピックの施設を競技仕様からレガシー仕様に変更するには、相当な時間がかかるものだ」と釈明している。
※文中、1レアル=約36円/1ドル=約110円で換算
レポート執筆者
沢田 啓明
Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation