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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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2016年リオオリンピック・パラリンピックに向けた準備状況 その2

2015.12.07

2016年リオオリンピック・パラリンピックに向けた準備状況 その2

来年8月5日のリオデジャネイロオリンピック開幕まで、あと約8カ月。一時は遅れが心配された競技施設の建設工事は、今年後半以降、予想以上の急ピッチで進んでいる。

大会組織委員会(以下、組織委員会)の発表によれば、オリンピックとパラリンピックのため新たに建設される競技場のうち、本稿を書いている11月末時点でゴルフ、自転車(マウンテンバイク、BMX)、カヌー(スラローム)の各会場が完成し、メイン会場となるオリンピックパーク(西部バーラ地区)が94%、テニス会場(北部デオドロ地区)が85%出来上がっている。最も建設が遅れているのがフェンシング、近代五種、ラグビーなどが行われるデオドロ・アレーナで、完成度は70%。世界各国へ向けてテレビ放送が行われる国際放送センターもすでに完成し、選手村は97%、メディア関係者が報道を行う国際メディアセンターも91%とあと一息。組織委員会のカルロス・ヌーズマン会長は、「オリンピック開幕までに、すべての施設は完璧に出来上がる。そのことに何の疑念も抱いていない」と自信たっぷりだ。

すでに完成した施設を用いて、今年7月以降、オリンピックのバレーボール、トライアスロン、ボート、乗馬、ヨット、自転車、ビーチバレー、カヌー、射撃、卓球、ホッケー、バドミントンなど16競技、パラリンピックのボッチャのリハーサル大会が行われた。さらに、本年12月から来年5月までにオリンピックのボクシング、テニス、ウエイトリフティング、バスケットボール、柔道、水泳、体操など21競技、パラリンピックの車椅子ラグビー、水泳、陸上など4競技のリハーサル大会が開催される予定。競技施設の建設に関しては、大きな問題はなさそうだ。

不安があるとすれば、セントロからバーラ地区までの地下鉄延長工事、そしてデオドロ地区からバーラ地区まで敷設しているバス高速輸送システムの建設工事だろう。リオデジャネイロは12月から4月まで雨季で、この間、工事のスピードが落ちるのは確実だ。2月上旬にはカーニバルがあり、前後1週間くらいは作業効率がさらに落ちるだろう。また、2014FIFAワールドカップブラジルの際と同様に作業員が待遇改善を求めて大規模なストライキを打つようなことがあれば、これらの工事がオリンピック開幕までに完了しない可能性は高まる。

また、近年の国内経済の停滞を受けて、10月初め、組織委員会は平均10%の経費節減を目指すと発表した。マリオ・アンドラーダ広報担当役員は、「競技の運営には影響を与えないようにするが、ボランティアの数を減らしたり開会式の予算を削るなどの方策を講じて支出を何としても74億レアル(約2,442億円)の予算内に抑えたい」とコメントしている。

たとえば、ボランティアの数はオリンピックが4万5千人、パラリンピックは2万5千人の合計7万人を想定していたが、合計で1万人前後減らす予定。それが実現すればユニフォーム代、食費、交通費などを節約できるわけだが、そのために大会期間中、観客が不便を蒙ることも考えられる。

また、開会式の予算は当初1億3,200万レアル(約44億円)と発表されたが、1,000万レアル(約3億3千万円)程度と約13分の1まで減らすことが検討されている。これは、ロンドン大会の開会式の費用のわずか10分の1。演出を担当する映画監督のフェルナンド・メイレレス氏は「我々の創造性を最大限に発揮し、限られた予算内で最高のセレモニーにしたい」と語っているが、華やかさに欠けた開会式となるおそれがある。

加えて、選手村の各部屋にテレビを設置する予定だったが、公共スペースにしか置かないことも議論されている。その場合、各国選手から苦情が出ることが予想される。

組織委員会は、支出を減らす一方で収入を増やすことも考えている。たとえば、昨年のワールドカップでは、試合の日にチケットを提示すれば地下鉄、鉄道などの公共交通機関を無料で利用できた。当初、リオデジャネイロ市はオリンピック、パラリンピックでも同様の措置を取る意向だったが、通常通りに運賃を徴収することを検討している。

一方で、新たな懸念材料が持ち上がった。テロ対策である。

ブラジルでは、1985年に軍事政権から民政へ移管して以降、深刻な政治的、宗教的、人種的な対立はなく、テロとは無縁だった。しかし、11月13日にパリで発生した同時多発テロ以降、世界中でテロの危険性が一層高まっている。オリンピックとパラリンピックは世界中の人々の大きな関心を集める巨大スポーツ・イベントであり、世界各国から訪れる要人と観光客がテロの標的となる可能性は十分にある。もともと、ブラジルは治安に問題があり、ロンドン大会における警備員の2倍にあたる8万5千人を警備に当てる予定だった。今後、警備員の数をさらに増やしたり警備のための機材購入などで支出が増加する可能性は高い。このことは経費削減と相反するため、他の支出をさらに削る必要がある。大会関係者は、さらなる工夫と努力を求められている。

※文中、1レアル=約33円で換算

レポート執筆者

沢田 啓明

沢田 啓明

Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation