健康づくりへの取り組みと課題
市民の健康づくりに「健康の駅」を展開
渡邉: 横手市では、スポーツのまちづくりの土台となる市民の健康づくりの場として「健康の駅よこて」を展開されていますね。
五十嵐: 競技スポーツや見るスポーツも大事ですが、毎日少しずつ体を動かし、継続することが健康づくりには大変いいことだと思っています。
合併前の旧横手市時代から取り組んだ構想なんですが、平成17年度から子どもから高齢者まで個々の身体特性に応じた“健康づくり”を支援する場を「健康の駅よこて」と名づけて、市民の健康づくりに取り組んできました。
「健康の駅」は全市に展開するために、3段階に分け、トレーニングセンターの「大規模駅」は3か所、公民館や学校など「中規模駅」は18か所、町内会館や福祉施設など「小規模駅」は57か所、合計78か所の「健康の駅」を設置しています。因みに、今年度4月~7月末までの総利用者数は1万3,241人ですね。また、ほかにも社会福祉協議会が様々な施設を使って開催している「いきいきサロン」が116か所ありますね。
「大規模駅」には専門の運動指導スタッフが常駐し、筋力トレーニング・マシンやエアロバイクなどの有酸素運動機器、ほかにもさまざまな運動用具を用いた安全で効果的な運動方法をアドバイスしている。地域の身近な場所にある「中・小規模駅」では顔なじみの仲間が集い、「らくらく体操」(イスに座ってできる体操)などの様々なプログラムが用意されています。
運営は市職員のほか、地域スタッフが当たっています。
毎月第4土曜日の「ウォーキングデー」にはみんなが集まり、横手市内のあちこちでウォーキングが行われています。
ウォーキングは手軽な健康づくりとして大変有効であるだけでなく、地域をウォーキングすることで「あいさつ運動」「仲間づくり」「地域の魅力発見」「防犯活動」など、二次的効果も期待されます。何よりも、市民の皆さんが自分にあった生涯スポーツと出会い、健康に生活してもらうことが一番の狙いです。
渡邉: 最近の子どもたちが外で遊ばなくなったのは、時間、空間、仲間という3つの間が無くなったことが要因と言われていますが、これは何も子どもたちに限った話ではなく、高齢者の方も外に出ていただくには時間、空間、仲間が必要だと思います。健康長寿をキーワードにした「健康の駅よこて」は、そうした観点から見ればとても先進的で効果的な取り組みではないでしょうか。
五十嵐: ありがとうございます。昨年度、厚生労働省の「第1回 健康寿命をのばそう! アワード」で健康局長優良賞を受賞いたしました。
我々は特別に凄いことをやっているという意識はなく、どの自治体でも似たような取り組みをしているのでしょうが、横手市は少しづつ拠点の数を増やしながら進化させている点が評価されたのかなと思います。優良賞などを受賞した自治体同士で「ヘルスプロモーション」という位置づけでまちづくりを考える研究会を立ち上げようと動いています。
こうした自治体同士の横のネットワークが広がれば、また新しい施策を生み出せるんじゃないかと思います。
渡邉: 素晴らしいですね。いろんなプログラムやプロモーションがあって、それが一体となって健康長寿、健康づくりに繋がっていくといいですね。
五十嵐: ただ、豪雪地帯なので一番心配なのは冬場ですね。高齢者は降雪時はなかなか外へ出られませんから、冬場の健康管理が課題です。身近な公民館や町内会館など老朽化した施設の再整備をどうするかも課題です。
公共施設の統廃合とアクセスが課題
渡邉: 8自治体が一緒になって重複したり、老朽化したスポーツ・文化施設も出てきますよね。公共施設のファシリティ・マネジメント(FM)は全国の自治体の共通課題になっていますが、横手市の場合はいかがですか。
五十嵐: やはり、頭を抱えています。メンテナンスコストがかさみ、運営コストも重荷になっている老朽施設をどうするか。スクラップ&スクラップばかりでビルドがないわけですよ。住民に身近な場所に分散して配置するのか、または老朽施設を統廃合して大きな施設を1つ造るとなると、市域が広いですから、利用者の足をどうするのかも課題になります。
渡邉: 施設へのアクセスですね。地方は同時に公共交通問題も抱えていますからね。
五十嵐: 今公共機関としてのバスがどんどん廃止に追い込まれています。バスの乗客が少なく、空気を運んでいるような状況でバス会社はお手上げ状態です。市では昨年4月からタクシーを利用したデマンド交通を試行し、今年の10月から本格稼働する予定です。利用率は高いんですが、これだけでは充分ではない。そこで、市が所有する通学バスや福祉バスが40台くらいあるのですが、使われていない時間にそのバスを地域の足として共用活用する方策を研究しています。
チャレンジデーを契機にスポーツへの関心
渡邉: 全市を挙げてチャレンジデーに参加いただきましたが、これをきっかけに市民のスポーツ意識の変化やスポーツによるまちづくりへの動きはございますか。
五十嵐: 競技スポーツで地元の人が華々しく活躍するのはすごいことですし、誇りにつながる。しかし、行政側が優先したいことは、やはり市民の日常的な健康づくりです。イベントは1回やって終わりではなく、イベントをきっかけにすることが重要だと思う。だからチャレンジデーも我々にとって大きなきっかけになるわけです。スポーツ推進委員や体協関係者も地域住民の皆さんとの接点が増えるわけです。
今、横手ではグラウンド・ゴルフがとても盛んですが、他にも学校の体育館を住民のスポーツのために使いたいとの要望も多く、健康に対する住民の熱意はものすごく高まっています。チャレンジデーをきっかけに日常的な活動につながっています。「スポーツ立市よこて宣言」の後、体協に加盟する各団体が積極的にいろんな取り組みをしています。
それに合わせて横手コンベンション協会を設立しました。コンベンション施設はないけれども、今ある小さい施設で様々なイベントに取り組んで、お客さんをお招きするスポーツコンベンションとして位置付けています。
スポーツ振興課では体育会系の合宿誘致以外に、バレーボール、バスケットなどが盛んですから、子どもたちの大会や中学生の東北大会の開催を企画しています。スポーツによるまちづくりですから、そういった切り口からも取り組んでいます。
渡邉: 秋田県はスポーツツーリズムを推進しようということで、県庁組織も観光と文化、スポーツを一体的に一つのセクションで取り組んでいます。横手市の組織的な取り組みはいかがでしょうか。
渡辺: そうですね。横手は郡市一体の合併でしたから、県の出先機関1つに対して市も1つですから、県との連携もとてもやりやすいわけです。ですから、県と横手市で一緒に仕事をしましょうということで、「秋田県の平鹿地域振興局と横手市の機能合体に関する基本協定」を締結し、類似業務の連携や関係部署が同一フロアで執務を行うワンフロア化などを行っています。
秋田県がスポーツを教育委員会という枠から外し、観光文化セクションに入れたことは、大変すばらしいことだと思っています。県がそういう方向だから大変やりやすいですよね。我々も観光に力を入れていますので、組織は一緒になっていませんが、小さい自治体は垣根は低いですから、コンベンションという切り口で一体的に取り組んでいます。
スポーツは夢や希望、勇気、感動を与えことができる
渡邉: 市長は合併前からリーダーとして、市の先頭に立って旗を振り、いろんな施策を展開されてらっしゃるんですけれども、市長ご自身のスポーツのキャリアについてお聞かせ下さい。
五十嵐: 私は、子どもの頃から、体を動かすのが大変好きでしたね。
小学生の時はもう生粋の野球小僧でした。友達と空き地で三角ベースボールを暗くなるまでやったり、中学の時は野球部に所属し、本当に野球ばっかりやっていました。高校は演劇部でしたが、大学時代は好きだったラグビー部で厳しい練習に明け暮れていました。これは人生を変えましたね。
スポーツは何より、心と体を強く逞しくするとともに、集団行動において友達と切磋琢磨する競争心も生まれます。自ずと社会生活に必要なルールやマナーを自然に身につけることができますし、決断力、判断力を養ったりと、さまざまな人間的成長をもたらしてくれる素晴らしいものだと思っています。
そして最大の魅力は、人々に夢や希望、勇気、感動を与えことができるということ。
渡邉: そういったご自身のスポーツ体験がスポーツ推進政策にも影響しているんでしょうね。
横手市のスポーツ振興実施計画(平成23-25年度)ですが、現在、26年度からの次期計画を策定中だとうかがいました。スポーツ立市宣言を経て、スポーツイベント誘致だけでなく、まさに健康づくりという観点からは市民のスポーツ実施率をどのように高めていくかが一番の課題になると思いますが、市長はどのようなお考えをお持ちでしょうか。
五十嵐: まだ足りないなと思いますね。さきほどのアクセスの話も含めて、高齢者の皆さんが日頃から身体を動かし、スポーツに親しんでもらえるようスポーツ振興課だけではなく、健康づくりのセクションも一緒になってプログラムやメニューづくりに取り組む必要があると思います。
渡邉: なるほど。せっかく「健康の駅」や「いきいきサロン」がうまく動いているのですから、そこを伸ばしていくことが効果的ではないでしょうか。
五十嵐: そうですね。「健康の駅」の小規模駅を増やし、コンテンツを充実させることですね。参加しやすい楽しいプログラムが必要ですね。体育館で高齢者の方が気楽にできるプログラムやニュー・スポーツがあればいいなと思いますね。
渡邉: そういった点では笹川スポーツ財団が協力できることがあれば、何なりとおっしゃってください。
最後になりましたが、今後、市長が考えるスポーツによるまちづくりについてお聞かせ下さい。
五十嵐: 人口が間違いなく減っていく時代、この地域は恐らくあと30年足らずで3割近く減ると言われています。少子高齢社会で、いろんな悩みを抱えながらも、この横手の町で住み続けていただくには、やはり心身ともに元気に、ささやかでも目標を持って暮らしていただくことが大事だと思いますね。そのための選択肢を行政が用意することが不可欠だと思います。
地域の皆さんに元気に頑張りましょうと言うときにスポーツは非常に大きな役割を果たせますね。余暇を楽しく過ごすことは生きがいにつながります。特にご高齢の皆さんや、あるいは若い人も競技スポーツだけじゃなく体を動かすことが好きな方も多いですからね。スポーツ環境はまだまだ充分用意できていませんが、スポーツ立市を宣言し、スポーツのまちづくりを進める上で、老若男女が自分の好みに応じて、スポーツができるような環境づくりをどう進めるが大きな課題です。
まずは、少しづつでも絵を描きながら、スポーツのまちづくりを感じ取れるようなものにしていきたい
渡邉: そうですね。今はやはり、誰もが一番体を動かせるのは歩くことですね。ウォーキングでもぶらぶら散歩でもかまわないんですが、そこからだんだんジョギング、ランニングへと進んでいけばいいですね。横手市の「健康の駅」では高齢者向けに定期的に健康体操やウォーキングなどを行っているそうですが、行けば必ず何か運動ができるという場所を高齢者に提供されていることは素晴らしいことですね。この「健康の駅」の今後の展開に大いに期待したいと思います。本日はありがとうございました。