雄大な自然と、神楽などの伝統芸能が息づく北広島町。チャレンジデー2012では、町内の3地域が参加した。校庭の芝生化や町民運動会の実施などに加えて、ケーブルテレビでのオリジナル体操の放映や合宿誘致など、運動やスポーツに関するさまざまな施策で、町民の健康づくりを目指している。
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
雄大な自然と、神楽などの伝統芸能が息づく北広島町。チャレンジデー2012では、町内の3地域が参加した。校庭の芝生化や町民運動会の実施などに加えて、ケーブルテレビでのオリジナル体操の放映や合宿誘致など、運動やスポーツに関するさまざまな施策で、町民の健康づくりを目指している。
渡邉 今回は、北広島町で開催される3地域のチャレンジデーを回らせていただきました。北広島は初めてなのですが、海抜が高く非常に風光明媚な町ですね。交通の結節点ということもあり、アクセスの良さも実感しました。
竹下 ありがとうございます。北広島は、古くから山陽と山陰を結ぶ中継地として栄えた土地です。雄大な自然に恵まれ、今も伝統芸能が盛んで、四季を通じて多くの観光客が足を運んでくださいます。
渡邉 郷土芸能の神楽は毎月のように公演されるとか。
竹下 月一の舞いとして、定期公演を行っています。この町には神楽団が63団体もあって、活動も非常に活発です。神楽はどこの土地にもありますが、ここまで盛んなところは他にないんじゃないかと。
渡邉 一つのまちに63の神楽団というのは他に類を見ないのでは。そういったものを一つの芯にして、またコミュニティの結びつきも強くなるのでしょうね。
竹下 一時期は、若者の都会流出で神楽も存亡の危機にありました。でも、その後にそれまでの殻を打ち破った近代的な神楽が出てきたんです。スピード感のある「新舞」と呼ばれる神楽で、最初の頃は批判の声も多かったのですが、次第に地域外の若い人たちからも支持されるようになって。そんな風に大きく変遷しながら、各地の町内でまた盛んに行われるようになりました。
渡邉 なるほど。やはり神楽という一つの伝統芸能を通じた地域の結びつきがある。そのような良質なコミュニティは、スポーツ政策にもうまく応用できそうに思うのですが。
竹下 スポーツ振興という観点から戦略的に神楽を、というような具体的な取り組みはないのですが、田舎のまちですからスポーツ推進委員と神楽の団員はほとんど重なっています。「舞う」ということは身体を動かすことですから、そういう意味では、神楽が盛んに行われることでスポーツにもつながっているかもしれませんね。
渡邉 私は、このまちの風土として「みんなが集まって何かを起こそう」という気運があるように感じます。稲作文化や伝統芸能もそうですし、スポーツにも似たようなエッセンスがあるのではないでしょうか。
竹下 そうですね。もう一つ、ユネスコの文化遺産に登録された壬生の花田植という伝統行事もあるのですが、ご存知でしょうか。豪華絢爛な飾り牛が代掻きをした後、そろいの着物で着飾った早乙女がお囃子に合わせて苗を植えるという行事で、毎年6月に田園絵巻さながらの風景が繰り広げられます。
神楽にしてもこの花田植にしても、なぜかこのまちには昔ながらの文化が原型をとどめて受け継がれている。みんなで文化を守り残していく、そういう地域風土のあるまちですから、その結束力をスポーツに生かすこともできるかもしれませんね。
渡邉 考えてみると、神楽や田植というのは日常生活での運動、つまりフィジカルアクティビティになるようにも思います。伝統芸能というまちの強みをうまくスポーツ化して全国に発信する、そんなユニークな取り組みができればおもしろいかもしれませんね。
渡邉 北広島は、エコタウンを目指してさまざまなプロジェクトに取り組んでいらっしゃいますね。
竹下 まず役場の庁舎全体が太陽光発電の施設になっています。この建物の完成が平成13年ですから、かなり早い時期からクリーンエネルギーに着目していました。この他、バイオマスタウン構想や新エネルギー構想など、いろいろな可能性を模索している段階ではありますが、今後の事業化を目指して積極的に取り組んでいます。特に、まちの面積の83%が森林ということもあり、木質系のバイオマス発電は本格的に始動させたいと考えています。
渡邉 そのようなエコタウンのプロジェクトを住民の立場から考えると、車の代わりに自転車や徒歩での移動を増やす、といった取り組みもあるように思います。これはスポーツにもつながるので、エコタウン構想とスポーツ政策を結びつけることも可能かもしれませんね。
竹下 なるほど。住民の健康づくりという観点に立つと、その取り組みがエコにつながる可能性もあるということですね。それをまち全体として推進していくと。
渡邉 町長の言葉を発信源としてまちにムーブメントを起こせば、運動の実施率も高まると思います。ひいては、それが健康づくり、健康長寿のまちといった未来像にもつながるのではないでしょうか。
竹下 そうですね。そういった取り組みなら、エコとスポーツがごく自然に結びつきます。ぜひ町民に呼びかけて実施してみたいですね。
竹下 北広島では、ケーブルテレビを通じて「きたひろしま♥スキッと体操」という体操を広めています。
渡邉 テレビで体操ですか。それはどのような経緯で?
竹下 住民の高齢化率も33%を超え、高齢者の健康づくりは町の大きなテーマになっています。そこで、全世帯普及率が80%を超えるケーブルテレビを使って、家でテレビを見ている人たちにぜひ運動してもらおうと。曲や振り付けは町のオリジナルで、歌詞には町のいいところがたくさん出てくる。この6分間の体操を毎日(月~金)5回放映しています。
渡邉 それは一つの手法ですね。ケーブルテレビをうまく利用するアイデアは、すごくいいと思います。スポーツ政策に力を入れている東京都でも、ホームページで「東京体操」というものを推進しています。北広島はテレビでの放映ですから、さらに効果的ではないでしょうか。
竹下 本格的なスタートはこれからですが、どれだけ多くの人に実践してもらえるか、これはやはり内容次第だろうと思うんですね。いかにやる気にさせるか、というところがポイントだと考えています。そういえば、東京の公園には体操のやり方を書いた小さな立て札があった。体操をやりましょう、と呼びかける細やかな取り組みに感心しましたね。
渡邉 それも、政策実現のための一つの方法ですね。この体操も、総合型スポーツクラブに協力してもらうなど、周知の方法はいろいろ考えられると思います。
竹下 指導員が地域に出向いて体操を教えたり、そういった取り組みはすでに始めています。テレビだけではなく、いろいろな場を活用して繰り返し周知していくことが大切ですね。
渡邉 これを継続して、良い結果につながるといいですね。
竹下 目標は健康づくりですから究極はそうですね。でも、まずは「あれいいね」「わし、あの体操やりよるよ」、そんな風に言ってもらえる身近な体操になるようにと考えています。