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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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若き20代のコーチがイチからつくる!子どもや保護者との丁寧なコミュニケーションで浜松に新風を

誰が子どものスポーツをささえるのか?インタビュー②:
浜松アークスピリッツ(静岡県)石井 悠喜 代表

今回紹介するクラブは静岡県にある浜松アークスピリッツ。若き指導者が新天地で立ち上げたチームの運営は指導者不足や若さゆえに思い悩むこともありながら入会待ちの人気ぶり。教育的視点を重視した子どもとの接し方や周囲のチームとの交流についてお話いただきました。

インタビュー内容の詳細は、「報告書:20232024シリーズセミナー 誰が子どものスポーツをささえるのか?」にまとめております。

インタビュー内容(取材日:2024713日、19日)

1.運営体制

―― チームの概要を教えてください。

浜松アークスピリッツ

正式なクラブ設立時期は2024年4月で、現時点でのメンバー人数は15名、 会費(月額)は7,300円です。
現在、対外試合はしていませんが、2025年春頃から始めようかと思っています。浜北太陽野球スポーツ少年団さんなど浜松市内のコミュニティがあるので、その辺りで試合依頼をかけていこうかなと思っているところです。ゆくゆくは練馬アークスJr.ベースボールクラブとも試合ができるのではないかなと思っています。

―― 石井様は現在も練馬アークスJr.ベースボールクラブで指導していることから、一緒に合宿もしましたよね。いかがでしたか?

よかったと思います。チームカラーも違いますし、都会と地方でコラボレーションができるのは、子どもたちにとってもすごく刺激があって楽しかったようです。ゆくゆくは試合も実現させていきたいですね。

―― スタッフの体制はどのようになっていますか?

現在、7名のスタッフがいて、謝金もお支払いしています。横浜や浜松で知り合った方のほか、静岡県野球連盟に属するアスレティックトレーナーは、浜松アークスピリッツが連盟に入っていないことを理解した上で協力してくれています。基本的には私ひとりで指導しています。スタッフは日曜日だけ、2ヵ月に1回程度など、各自が参加できるときに来ていただいています。

―― 定期的に来てくれる指導者を見つけるのは難しいのでしょうか?

浜松アークスピリッツでは理念がしっかりあるので、野球だけを本気で教えたい方だとミスマッチが起きてしまうのです。そこのハードルが高いかなと感じています。SNSでも募集をかけていますが、応募はありません。そもそも絶対数として指導者は足りていないので、もし来てくださってもチーム方針とミスマッチだと厳しく、2段階で困るのですよね。地域の違いもありますが、私が浜松に来てまだ日が浅いこともあり、どうしても地域とのつながりが希薄な部分もあるかなと思っています。理想的な指導者の人数は、4人です。今、会員が15名ですが、入会待ちがあと15人いるため、30名をみる場合は4名程度の指導者がいると、希望者全員を受け入れられるかなと思います。

―― 練馬アークスJr.ベースボールクラブとは異なるチームの特徴・方針などがあれば教えてください。

浜松アークスピリッツ

私はもともと教員志望でしたので、教育的視点も重視しています。練習前に宿題の時間を設けたり、夏休みに勉強会を開催したりもしています。子どもたちへの声がけも「やることやらないで、やりたいことだけやるのは違うよね?」というスタンスでいます。楽しくやるためにはどういうことが必要なのかという問いかけは結構してますね。
両チームとも野球ノートを提出していますが、浜松アークスピリッツの提出率は約9割です。どちらのチームも子どもが書きたいと思うような声掛けや仕組み作りを意識しています。たとえば提出と引き換えにもらえるシールがたまったら、野球グッズがもらえるなどです。月末に野球ノートを回収して、私は1人1人にかなりの分量のコメントを返すようにしています。野球ノートをみると、私自身では気づかない発見もありますし、理解度合いも子どもごとにわかり、日々の練習や指導に反映するようにしています。私も含め大人って教えすぎてしまうのですよね。でも、野球ノートをみると、ひとつしか学んだことを書いてないのです。だから、教えるとき、ひとつのことに絞って難しく言いすぎないことを意識しています。たとえばキャッチボールするときは、「今日のキャッチボールはいつも意識していることひとつだけでいいから、それを意識してやってみよう」と伝えています。

浜松アークスピリッツ

2. 静岡県内の他チームとの交流について

―― 浜北太陽野球スポーツ少年団の竹内様や県内のほかのチームとは、どのように関係を築かれましたか?

もともと浜松市内の他のチームは知ってはいましたが、住み分けをする意味で私からコンタクトしないほうがいいかなと思っていました。ただ、ありがたいことにほかのチームからLINEでご連絡をいただきました。浜北太陽野球スポーツ少年団の竹内さんからもLINEをいただいて、繋がってみたらたくさんの連盟非加盟のチームとさらにつながった感じです。
やはり困ったときに相談できる人やチームがいるのはありがたいですし、すでに練習場所探しでは竹内さんからは多大な協力をいただき、とても助かりました。
自分から働きかけたのは掛川市のチームですね。同じ静岡県内で距離的にもバッティングしないと思ったので、よい関係が築けたらいいかなと思い、連絡して練習に参加させていただきました。

―― 今後、つながりができたチームと何か考えている取り組みはありますか?

静岡県全体で新しいリーグ戦をつくることを考えています。この先同じような考えのチーム同士が集まって話し合いするような機会もあると思います。静岡市で知り合いが同じようなコンセプトのチームをやっているので、そうしたチームにも声をかけていきたいですね。

浜松アークスピリッツ

3. 保護者との関わりについて

―― これまで保護者対応で困ったことはありましたか?

設立当初に活動内容や声がけについて疑問を投げかけられたり、意見をいただいたりすることはありました。みなさん熱心でお子様を思うゆえなのですよね。そうした保護者とはお互いに長文でLINEのやりとりをすることもありましたが、その家庭のお子様は現在も続けてくださっていますので、信頼してもらえたのかなと思っています。
同じような理念で活動されているチームと浜松アークスピリッツで大きく違う点が、私の年齢が圧倒的に若いことです。周囲は経験のある方で、自分自身にお子さんがいる方も多いです。保護者にしても人生の先輩方が多いですし、私自身は子育て経験もないので、そこが保護者対応の難しさかなと感じることもあります。一方で、浜松に来てくれてありがたいと言ってくださる方もいますし、若さゆえに応援したいし助けたくなると言ってくださる方も今はとても多いです。

―― 練習のときに来ている保護者をみていると、ネットを動かしたりボールを拾ったり練習の手伝いをされているお父さんもいらっしゃいますよね。石井様としては保護者にもっとサポートに入ってきてほしいという思いはありますか?

練習のサポートに入ってくださるのはすごくありがたいです。どのような関わりが良いかを模索しているところです。
※事後談あり。インタビューの最終部分を参照ください。

浜松アークスピリッツ

4. チームを運営する上での課題

―― チーム運営上の課題があれば教えてください。

圧倒的な指導者不足、これに尽きますね。それが解消されればすべてうまくいくかなと思っています。指導者が足りないと練習が充実しないのです。指導者がいれば、ピッチングやバッティングの練習ももっと充実させられると思います。そして、指導者が増えれば、今入会待ちをしてくれている子どもたち全員を受け入れられるので、チーム運営としても金銭的な余裕が出てくるはずです。
今いろんなところにアプローチをかけていまして、今後は高校や大学の野球部にも指導してくれる人がいないか、探しに行こうかなと考えています。
※事後談あり。インタビューの最終部分を参照ください。

―― チームを運営していく上で、もっと学童野球を取り巻く環境や行政がこうしてくれたら、ということはありますか?

まずは子どもたちが幸せになるような方向で自分が今できることを最大限やっていく、それしかないんじゃないかなと思っています。もう少し自分自身が力をつけて、アークスピリッツが浜松でもある程度大きなチームになってきたときに、さまざまな提案ができるようになりたいです。

(事後談)

<指導者不足について>

2024年11月に練馬アークスJr.ベースボールクラブの中桐氏からの紹介により、社会人野球部の経験があるコーチが参画することとなった。そのため、入会待ちの子どもたちも徐々に入会できるようになってきている。今後も社会人コーチや学生コーチが加わる可能性がある。

<保護者による練習のサポートについて>

保護者にアンケートを実施し、保護者コーチの導入について意見を求めたところ、「今の体制がよい」という声が多かった。この結果を受けて、保護者コーチは設けず、現在の関係性を継続したいと考えている。