今回紹介するクラブは静岡県にある浜北太陽野球スポーツ少年団。40年以上の歴史あるチームの改革に関するお話です。「できるときにできる人ができることを」「できない世帯を責めるのではなく、やってくれた世帯に感謝をする」という方針を具現化している取り組みを伺いました。
インタビュー内容の詳細は、「報告書:2023-2024シリーズセミナー 誰が子どものスポーツをささえるのか?」にまとめております。
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
今回紹介するクラブは静岡県にある浜北太陽野球スポーツ少年団。40年以上の歴史あるチームの改革に関するお話です。「できるときにできる人ができることを」「できない世帯を責めるのではなく、やってくれた世帯に感謝をする」という方針を具現化している取り組みを伺いました。
インタビュー内容の詳細は、「報告書:2023-2024シリーズセミナー 誰が子どものスポーツをささえるのか?」にまとめております。
―― かなり長い歴史のあるチームで、竹内様は途中から監督に就任されていますよね。浜北太陽野球スポーツ少年団との関わりがスタートした経緯について教えてください。
浜北太陽野球スポーツ少年団は2024年で43年目を迎えるチームです。2005年に息子が入団したのを機に保護者コーチとして関わりがスタートしました。このときすでに20年以上の歴史があるチームでしたので、さまざまな問題がありました。
当時の監督と保護者会の間で対立があり、保護者会が2度も監督に辞任を要求していました。そうした騒動のたびに、退団していく団員を何人もみてきました。最終的には軟式野球連盟が仲介して監督の辞任で一旦その騒動は収まったかに思えました。
2010年から私が保護者監督になり、息子の卒団後もそのまま外部監督として今にいたっています。
―― 監督就任後、竹内様が行った改革を教えてください。
監督就任時にまず、保護者による「お茶当番」を廃止しました。保護者コーチ時代にきょうだいで子どもが所属している家庭の親が毎回のお茶当番を担当できず、ほかの保護者といさかいが生じて、その結果、子どもが退団せざるを得ない状況をみてきたので、これは変えないと、と思いました。
ただ、影響力が強い親っていますよね。指導者が少数で保護者が多いと、保護者会の会長が「全体の意見」と言えば、実際は違っても全体の意見ということになってしまうのです。そうした保護者が身勝手なふるまいを続けたことで私とも対立してしまい、結局、監督VS保護者の騒動は収束しませんでした。軟式野球連盟からも「監督が交代しても同じことが起きるのは父母会に問題があるのでは」と言われてしまいました。その後、父母会は解散したのですが、6年生が一斉に退団してしまいまして。加えて前監督の風評被害もあって新規団員もいなくて、団員は2名にまで減少しました。そのため、それから7年間は公式戦に出場するどころではありませんでした。
―― 苦しいチーム状況から変化があったのはいつ頃でしょうか?
2019年に浜松市内で活動する浜松タッツンズから練習試合しませんかとお声がけいただきそれを受けた頃でしょうか。浜松タッツンズは2024年で創立14年目のチームで、連盟非加盟です。
連盟では規定に基づいた練習や試合、大会の実施が原則で、基本的に連盟に加盟しているチーム同士で対戦するのが一般的です。当時、浜北太陽野球スポーツ少年団は連盟に加盟していたので、遠回しに連盟から注意を受けました。ただ、そのときに公式戦ができるようなチーム状況ではないのに、連盟に加盟している意味があるのか考えたのです。もちろん、今後公式戦を目指すなら連盟に加盟していたほうがいいでしょう。しかし、そうではないなら連盟を外れて自由に活動するのもひとつだと思いました。保護者に相談した結果、連盟非加盟の道を歩むことになりました。ただし、その決断はあくまで当時の保護者のものです。世代が変わって再加盟したいとなったときに備えて、連盟側に話は通しています。
―― このときに現在の浜北太陽野球スポーツ少年団のかたちができたわけですね。ここから竹内様は、さらにさまざまな改革を進めているかと思います。現在の活動方針について教えてください。
まず、活動方針に「脱勝利至上主義」を掲げました。それに伴い、活動日時は土日どちらかの午前中のみとしました。
試合は最初、Tカップ大会という自主大会を開催していましたが、現在はオールジャパンベースボールリーグに参加しています。
このリーグは、全国各地で軟式野球のリーグ戦を開催し、参加している各チームが対戦相手や日程、球場や審判を調整する「自主対戦方式」を採用しています。小学生チームの参加資格は、「日本国内で活動する学童軟式野球チームであれば、どのチームでも」、「大会規約にのっとり、マナーを厳守したフェアプレーができること」となっています。連盟・非加盟は関係ありません。
―― 試合に出場するメンバーはどのように決定しているのでしょうか?
練習出席率が上位の子どもを優先して試合に出場させています。同率の場合のみ学年や入団順のアドバンテージはありますが、低学年の子でも練習にしっかり参加していれば試合に出場できる仕組みです。
会費も以前は3,000円/月でしたが、現在は公式戦出場に伴う遠征費が不要になったため、2,000円/月に減額しました。指導者が正当に報酬を得るべきという価値観は十分に理解しています。ただ、私自身はあくまでボランティアとして関わり続けたいという思いから、報酬をいただいておりません。
―― 現在は何か保護者主体の組織はあるのでしょうか。
3年生以上の各学年から保護者代表1名を出してもらっています。役割は学年ごとに決まっていて、6年「代表」、5年「会計」、4年「会計補佐」、3年「監査」です。この4名に加えて監督の私を含めた合計5名で「役員会」を組織しています。役員会では5名が同等の議決権をもっていて、基本的には話し合いで決定していきますが、決まらない場合は多数決で決めています。
―― 保護者による当番制は現在ありますか?
当番制はありません。普段の練習は送迎のみの保護者が多いです。一方で40名ほどの子どもたちを私と外部コーチ1名でみているので、年2回開催している保護者会では「当番システムはなくしているが、関わる大人が多いほうが良い活動はできます」とお伝えしています。そうした考えを理解してくれる保護者も多く、自主的に練習をサポートしてくれるお父さんが一定数いて助かっています。
ただ、すべての家庭ができるわけではありません。そこで、月会費2,000円のうち、500円は「サポート会費」として管理しています。これは活動をサポートするお父さんたちの忘年会費や野球応援のガソリン代の補助として使用しています。こうしたシステムをつくることで、練習をサポートできる・できない保護者の差を埋めるようにしています。
―― 最近の団員数やチームの評判はどうでしょうか?
これまでの改革が実ってきて、団員が急増しています。周囲の少年団からは「どうしたらこんなに集まるのか?」と聞かれることもあるくらいです。推測ですが、2018年9月頃からスタートしたFacebookの影響かなと思っています。自己紹介欄に、「お茶当番、父母会がないチームです。親が忙しく、既存の野球チームに参加出来ない子どもたち中心に親同士も和気あいあいと活動しています。」と書いているので、それが要因かなと。
現在、2年生以上は定員で新規入団はお断りしています。団員は拠点である内野小学校区にかぎらずさまざまな学区からきています。一応、1学年あたり7名を定員としていますが、実際には9~10名で、現在は32名(2024年7月現在)が活動しています。
―― 定員より多い子どもたちが入団しているのは何か理由がありますか?
定員を超えていても、ひとり親世帯や発達障害児、きょうだいが障害児の子どもについては例外として受け入れているためです。そもそもすべての保護者が同じようにサポートできるとは思っていません。「できるときにできる人ができることを」「できない世帯を責めるのではなく、やってくれた世帯に感謝をする」という方針を掲げて、それが、保護者内にも浸透しています。先ほどのお父さんの練習サポートやサポート会費もこうした考えに基づいています。
―― チーム運営上の課題は何かありますか?
指導者の確保という問題は今に限ったことではないですが、運営上の課題かなと思います。ただ、これまでにも潤沢に指導者がいる時期はありませんでした。
実はこの問題の解決を目指して、2026年度に浜松タッツンズとの合併を予定しています。チーム間の合併というと「子どもの数が減ってきて…」とやむを得ず行う「消極的合併」が多く、このケースはチーム間の調整が難航したり、結局合併後も子どもが集まらなかったりする場合もあります。今回の合併はそれとは反対で、「積極的合併」です。まず、両チームとも団員数に余裕がある中で決断をしました。合併することで、事故防止や子どもの安全確保を徹底しながら、選手ファーストの理念で団員がより良い環境で成長できるチームにしたいです。保護者にしても、安心して子どもを入団させたいと思えるチームを目指していきたいですね。
新チームでは浜松タッツンズの現監督が「監督」で、私は「ゼネラルマネージャー」として活動をささえる予定です。練習にも参加して、ヘッドコーチの役割を担いながらも、主には対外調整や保護者対応を受け持って、監督が子どもたちの指導に専念できる環境づくりを進めたいなと考えています。
―― 連盟非加盟のチームということで対戦相手は見つけられているのでしょうか?
浜松市や近隣市内における連盟非加盟のチーム同士の話し合いを進めています。実は浜松市を中心とする静岡県西部地域では、過去2年間で浜松アークスピリッツをはじめとした連盟非加盟のチームが6チームも新設されているのです。こうしたチームと浜松タッツンズ、浜北太陽野球スポーツ少年団が連携し始めています。
将来的には、連盟加盟チームと非加盟チームが交流できるよう、連盟と交渉したり新リーグを設立したりといった構想をもっています。子どもについても、定員に達したチームがある場合には、希望者にリーグ内の別のチームを紹介するなどもしていきたいです。