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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

イングランドにおけるアクティブライブス子ども・青少年調査について

 イギリスの文化・メディア・スポーツ省は、20238月に「Get Active: a strategy for the future of sport and physical activity」(以下、Get Active)を公表しました。本稿では、Get Activeで子どもを対象とする施策の基礎データとして引用されている「Active Lives Children and Young People Survey」(アクティブライブス子ども・青少年調査)を概説します。

Get Activeの概要については、下記の記事を参照。
https://www.ssf.or.jp/knowledge/sport_topics/202310.html

A)身体活動に関するガイドラインとアクティブライブス子ども・青少年調査

 2019年、イギリス政府は健康政策に関する最高顧問である主席医務官らによる身体活動に関するガイドライン「UK Chief Medical Officers’ Physical Activity Guideline」(以下、身体活動ガイドライン)を公表しました。身体活動ガイドラインでは、1歳未満の乳児(Infants, less than 1 year)から高齢者(65歳以上)まで6つの年齢区分を設け、年齢層に応じた身体活動およびスポーツ実施を推奨し、このうち子ども・青少年(518歳)については、毎日60分以上の中強度から高強度の身体活動・スポーツを推奨値として示しています。

 推奨値に対する評価には、主に生涯スポーツを推進する公的機関であるスポーツ・イングランドが、国民の身体活動とスポーツ実施を定期的に測定する「アクティブライブス調査」が引用されています。スポーツ・イングランドは、2005から成人を対象に、2017年から子ども・青少年を対象に同調査を実施し、中央政府や地方政府等におけるスポーツ政策の立案の根拠となる調査結果を提供してきました。政府のスポーツ戦略であるGet Activeにおいても、あまりにも多くの子どもが身体活動ガイドラインの推奨値に達していない実状への危機感のもと、さまざまな施策の推進により2030年には現状より100万人以上の子どもが身体活動を通してアクティブになるとの目標を掲げていますが、基準値と毎年度のモニタリングにはアクティブライブス子ども・青少年調査を活用しています(表1)。

20052016年は前身の「Active People Survey」として実施。

1 身体活動ガイドラインの基準を満たす子ども・青少年人口と目標値

  2021-2022年度
(Get Active上の
評価基準値)
2022-2023年度 2023-2024年度 2028-2029年度
(Get Active上の
目標値)
子ども・青少年
(5~16歳)
約344万人
(47.2%)注1
約346万人
(47.0%)
約354万人
(47.8%)
約440万人

注1 子ども・青少年(5歳~16歳)の総人口における割合
スポーツ・イングランド「Active Lives Children and Young People Survey Academic year 2023-24 Report」(2024)より作成

イングランドにおけるアクティブライブス子ども・青少年調査について

 同調査では、子ども・青少年の身体活動時間に応じて3段階で評価しています。すなわち、身体活動ガイドラインを満たす160分以上の身体活動を行う「Active」(アクティブ)、13059分の身体活動を行う「Fairly Active」(かなりアクティブ)、130分未満の身体活動を行う「Less Active」(少しアクティブ)であり、Get Activeにおいては「Active」(アクティブ)の数値を引用しています。

 最新の2023-2024年度調査では、子ども・青少年の総人口の47.8%にあたる約354万人がアクティブですが、29.6%にあたる約219万人は少しアクティブであり1日平均30分未満の身体活動・スポーツの実施に留まっています。Get Activeの評価基準値の2021-2022年度と2023-2024年度の調査結果と比較すると、ガイドラインの基準を満たすアクティブな子ども・青少年の人口は約10万人増加し、子ども・青少年の総人口における割合でも0.6ポイント増加しています。あわせて、2022-2023年度のイングランドとウェールズを対象地域とした出生数は約59万人と1977年以来最少であり、合計特殊出生率は統計開始以降最低値である1.44を記録する少子化の現状を考慮すると、目標に向けて着実に歩みを進めています。そして、目標達成のためには約168万人のかなりアクティブな層がアクティブに移行する取り組みに注力することが重要になってきます。

B)調査方法

 アクティブライブス子ども・青少年調査は、イングランドで2017年から毎年実施されている516歳を対象にしたオンライン調査です。

 2022-2023年度の調査は、教育省「The School Census」(学校センサス)の結果を参照し、公立および私立の全小・中学校24,360校のうち、各地域行政区にある公立の小学校・中学校からそれぞれ最大10校ずつ、小学校は3,070校、中学校は2,394校に加え、イングランド全域にある私立学校から370校を抽出した合計5,834校を対象としています(表2)。このうち、公立小学校から923校(26%)、公立中学校から787校(31%)、私立学校から31校(8%)の回答を得ています。

2 学校種別調査対象校数と回答校数

学校種別 調査対象校 回答校数(予備含む) 回答校割合
公立小学校 3,070校 (予備:489校)
合計:3,559校
923校 26%
公立中学校 2,394校 (予備136校)
合計:2,530校
787校 31%
私立学校 370校 (予備:1校)
合計:371校
31校 8%

スポーツ・イングランド「Active Lives Children and Young People Survey Academic Year 2022-23 (Year 6) Technical Report」 (2023)より作成

 各学校では最大で3学年が選出され、イングランド全体で各学年1,5001,700クラスが対象となります。対象クラスは3学期(春・夏・秋)に等分され、調査時期は無作為に1学期が割り当てられます。

 同調査は、①57歳、②716歳および57歳の保護者、③学校教員の3種類の調査票で構成され、質問内容がそれぞれ設定されています。調査対象者は、個人のデバイスからオンラインでアクセスして回答します。

 なお、同調査の実施にあたってスポーツ・イングランドは、イングランド全域に43ある地域に根差したスポーツ推進体制をサポートする組織である「Active Partnerships」(アクティブパートナーシップス)と連携して調査を実施しています。

C)調査結果の概要

 2023-2024年度の調査結果では、身体活動ガイドラインの基準を満たす子ども・青少年人口は約354万人(47.8%)であり、調査の初年度である2017-2018年度の調査結果である約304万人(43.3%)と比較すると、6年間で4.5ポイント増加しています(表3)。また、男女別にみると男子のうち約190万人(51.2%)が基準を満たすのに対し、女子は約161万人(44.8%)で、男女差は6.4ポイントです。2017-2018年度の調査結果と比較すると、基準を満たす男子の割合は4.4ポイント増加、女子は5.1ポイント増加し、7.1ポイントあった男女差も0.7ポイント増加しています。そのため、男女間における運動・スポーツ実施頻度に差はいまだにあるものの、2017-2018年度との比較において男女差は縮小しています。

 また、直近1週間で実施した運動・スポーツは、アクティブなあそび(ボールあそび、おにごっこ、かけっこ、ぶらんこ等が62.4%、チームスポーツ:サッカーやバスケットボールが56.9%、ウォーキング(学校への徒歩通学を含む)が52.1%となっています。

3 身体活動ガイドラインの基準を満たす子ども・青少年の人口と男女別の割合

基準を満たす
子ども・青少年人口
基準を満たす
男子の割合
基準を満たす
女子の割合
2023-2024年度 約354万人(47.8%) 約190万人(51.2%) 約161万人(44.8%)
2017-2018年度 約304万人(43.3%) 約165万人(46.8%) 約135万人(39.7%)

スポーツ・イングランド「Active Lives Children and Young People Survey Academic year 2023-24 Report」(2024)より作成

 あわせて、2023-2024年度の調査報告書のまとめにおいて、スポーツ・運動の実施に関して子ども・青少年における不平等と格差の存在を明確に指摘しています。性別や人種、家庭の所得などの不平等な特性を2つ以上もつ子ども・青少年は、身体活動ガイドラインの基準を満たすアクティブな人口の割合が少なく、ボランティア活動への参加も少ないといった結果が出ています。

D) まとめ

 Get Activeにおいて、子どもに関する取り組みが主要な施策として明確に定められており、子どもへのアプローチは国家のスポーツ戦略に欠かせない要素のひとつです。そして、取り組みの評価方法としてスポーツ・イングランドが実施するアクティブライブス子ども・青少年調査の結果が活用され、基準値と目標値、そしてモニタリングする指標が明確に設定されており、事業を評価する体制を整っています。このように国家のスポーツ戦略を策定するにあたり、モニタリング指標、評価指標をあわせて設定し、そのデータを公開することが重要です。

 次稿では、学校で行われる運動・スポーツを推進する「学校スポーツや運動に関する行動計画」について概説します。

笹川スポーツ財団 財部 憲治