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中央競技団体は実のある多様性・外部性の確保を

〜スポーツ団体ガバナンスコードの遵守状況に垣間見える実像〜

熊谷 哲 (SSFアドバイザリー・フェロー)

スポーツ団体ガバナンスコードが策定され、中央競技団体(以下、「NF」という。)においてコード適合のための取り組みが推進されるとともに、その遵守状況について自己説明のため公表されるようになってから、丸2年が経過した。この間、統括団体である日本オリンピック委員会(JOC)、日本スポーツ協会(JSPO)、日本パラスポーツ協会(JPSA)による適合性審査も2年目(NF4年ごとに受審)を終え、組織として守るべき原則や達成すべき水準の認知は一定程度進んだものと思われる。

一方で、NFが毎年公表することとされている「遵守状況の自己説明」資料を確認すると、審査項目及び審査基準を満たすための形式的な対応にとどまり、趣旨を踏まえた実の伴ったものとは思えないような内容も散見される。もとより、一口にNFといっても競技登録者数や財政規模、事務局等の人的資源、存立の起源や今日に至る経緯などは極めて多様であり、コードの適合基準のみをもって一概に評価し得るものではない。そこで、組織運営の特徴が投影されやすい人的配置に着目しつつ、ガバナンスコードのなかでも重要な要素となっている多様性・外部性確保の観点から、以下の点について問題提起したい。

(1)役員及び評議員における外部委員の定義

ガバナンスコードでは、組織の役員及び評議員の構成等における多様性の確保を図るため、外部理事及び評議員の目標割合の設定(外部理事の場合は25%以上を指定)と、その目標達成に向けた具体的方策を講じることをNFに要請している。この場合の外部理事の定義については、「最初の就任時点で、以下のア)〜ウ)のいずれにも該当しない者を指す」として、下記のとおり示している。同時に、外部評議員についても「外部理事と同様である」と明記している。

ア)当該団体と下記の緊密な関係がある者

・過去4年間の間に当該団体の役職員又は評議員であった

・当該団体と加盟,所属関係等にある都道府県協会等の役職者である

・当該団体の役員又は幹部職員の親族(4親等以内)である

イ)当該競技における我が国の代表選手として国際競技大会への出場経験がある又は強化指定を受けたことがあるなど、特に高い競技実績を有している者

ウ)指導するチーム又は個人が全国レベルの大会で入賞するなど、当該競技の指導者として特に高い指導実績を有している者

外部理事及び評議員の目標割合を具体的に設定し、既に達成できたとするNFはごくわずかに過ぎず、ほとんどが取り組みの途上にある。

さて、A団体は自己説明資料において、評議員会における外部委員の割合を92.9%(66名/71名)としている。同団体の評議員及び役員候補者選任規程では、「評議員については、つぎの各号に掲げる者の中から、それぞれの各号に定める人数の範囲内で、評議員選定委員会が選任する。」とし、各号として加盟団体評議員50名以内、学識経験評議員22名以内、と定めている。実際、A団体のウェブサイトで公表されている評議員名簿によれば、都道府県協会等から47名、関連団体から3名が選任されており、確認できる範囲ではそのほとんどが加盟団体の役職員である。

先に示した外部理事・評議員の定義については、「当該理事の有する知見(法務、会計、ビジネス等)による貢献を期待して理事として任用している場合には、外部理事として整理することも考えられる」(筆者注:評議員の場合も同様)との注釈が付されている。A団体の自己説明においても、「学識経験を有する者は、当連盟と緊密な関係を有する者であっても、その者の高度な知見または専門性に期待して選任したものであることから、外部評議員に該当する者として整理している」としており、この注釈を参酌していることがうかがえる。よって、外部委員の割合を92.9%としているのは、上記の選任規程に規定する「②学識経験評議員22名以内」のみならず、「①加盟団体評議員50名以内」の相当数を学識経験者と見なしているからと推定される。

しかしながら、「理事に対するチェック機能の向上」や「より専門的・客観的な視点から組織運営を監督する」といったガバナンスコードの趣旨を踏まえれば、いかに学識経験を有していようとも、「当該団体と加盟,所属関係等にある都道府県協会等の役職者である」者が加盟団体を代表するかたちで選任された時点で、直ちに『外部』の定義から外れるものと見なすのが当然であろう。加えて、「学識経験評議員22名以内」の枠も、A団体の組織内に設置されている委員会の役職者等から選任されているのではないかと推察され、そもそもガバナンスコードの求める「外部」の趣旨に沿った学識経験者と見なせるかどうか疑わしい。

問題は、このA団体は2020年度に適合性審査を受けて「適合」と評価され、2021年度の自己説明においても当該項目の説明に変更が見られないことから、A団体の外部理事・評議員の認識が審査において是認されたと見なされる点にある。

他のNFにおいては、同様の選任規定により都道府県協会等の役職員が理事・評議員となった場合、確認できた限りすべてが「外部」には該当しないものとして整理している。例えば、B団体は、「従前は外部有識者評議員もいたが、(中略)、競技者の主体となる連盟や都道府県協会の人材を中心として選任した経緯があり、現状外部有識者評議員は設置していない」との認識を示し、「20239月までに、外部評議員及び女性評議員の目標割合を設定するとともに、目標の達成に向けて、加盟団体の意見も募りながら、検討を行う」としている。同様の認識で改善を進めている団体は少なくない。

言うまでもなく、理事・評議員の選任はNFの組織運営に係る最重要事項のひとつであり、都道府県協会等からの選任のあり方は極めてセンシティブなものでもある。だからこそ、「外部」の定義及びその適合性評価については、揺らぐことのない一貫性が求められる。A団体の解釈について、他団体には見られない優れた特質(都道府県協会等の役職員であり、かつ都道府県協会等の代表または推薦により選任された者であっても、「外部」者と同水準以上の役割を発揮する役職上及び運営上の根拠等)が存在するのであれば、スポーツ庁及び統括団体は、ガバナンスコードの追加事項として広く周知すべきである。それが出来ないのであれば、他団体に対して誤解や疑念を与えたり、この原則が空文化したりしないように、A団体の当該項目については「要改善事項」として整理し直すべきである。

(2)社団法人の社員構成における多様性の確保

外部理事及び評議員の目標割合の設定はすべてのNFに要請されるものとなっているが、法人格が一般社団法人(公益社団法人を含む。以下、「社団」という。)の場合は、通常は評議員会が設置されていない。また、ガバナンスコードにおいては、評議員会を設置していないNFに関する原則や補足事項は特に設けられていない。そのため、社団であるほとんどのNFが、当該項目(審査項目5:評議員会を置くNFにおいては、外部評議員及び女性評議員の目標割合を設定するとともに、その達成に向けた具体的方策を講じること)については「評議委員会を設置していないため、本項目は審査対象外」(C団体)などとし、具体的な記述を避けている。

他方、200812月から施行された公益法人改革関連三法(一般社団・財団法人法、公益法人認定法、関係法律整備法)においては、公益法人を含む一般法人の各機関の役割や責任が具体的に明記されている。法に従えば、ガバナンスコードが要請している「理事に対するチェック機能の向上」や「より専門的・客観的な視点から組織運営を監督する」という機能を担うのは、社団においては最高議決機関である社員総会に他ならない。この点は、財団法人における評議員会と同様に、社員総会が定款の変更、理事・会計監査人・監事の選任及び解任、計算書類の承認などの権限を有していることからも明らかである。したがって、社団の適合性審査においても、評議員会を設置していないことを持って直ちに対象外とするのは、適切とは言えない。

さて、社団であるNFの定款及び規程の定めや社員構成を確認すると、概ね以下の3つのパターンに整理される。

①社員として、都道府県協会等や関連団体(代表者と特定している場合を含む)に、学識経験者を加えている場合(D団体)

②社員は都道府県協会等や関連団体(代表者と特定している場合を含む)に限っているものの、必要に応じて学識経験者や研究者等の社員総会への出席を求めることができる規程を設けている場合(E団体)

③社員は都道府県協会等や関連団体(代表者と特定している場合を含む)に限り、学識経験者等の出席要件等は定められていない場合(F団体)

なかでもD団体は、都道府県協会等の代表者47名に対し、有識者50名の社員構成となっており、ガバナンスコードのめざす姿が体現されているように思われる(ただし、これまで触れてきた「外部」の定義に即した有識者社員であるかどうかまでは確認できていない)。

こうした実態を踏まえれば、社団の社員についても評議員の場合と同様に、有識者等の外部者の目標割合を設定するとともに、目標達成に向けた具体的方策を講じることを求めて然るべきであると考える。その際は、団体による認識の差異や運用の齟齬を招かぬよう、審査段階において「評議員並みと見なす」ことにより対応するのではなく、ガバナンスコードを具体的に修正して対応すべきである。

(3)通報制度における外部性の確保

ガバナンスコードでは、「NFの違反行為又はこれに関連する違反行為を通報により早期に発見し、自浄作用を機能させる」ため、通報制度を設けると同時に、「専門性を確保する観点から、弁護士や公認会計士、学識経験者等の有識者を中心とした制度運用体制を整備すること」を要請している。

そもそも、ガバナンスコードが策定されたのは、スポーツ基本法第5条第2項に定められている「スポーツの振興のための事業を適正に行うため、その運営の透明性の確保を図るとともに、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成するよう努める」ための寄って立つ原則・規範とすることも然ることながら、暴力的指導やパワハラ行為、助成金の不正使用、不透明な選手選考などなど、スポーツ界において不祥事が相次いだことが背景にある。そうした不祥事等による競技者及び関係者の被害防止はもとより、ともすれば縦社会的とか閉鎖的とか言われる組織体質を打破し、健全なスポーツ環境や正常な組織ガバナンスを確保するために、通報制度に期待されるところは決して小さくない。

制度の運用にあたっては、ガバナンスコードにも例示されているように、ウェブサイト等を通じた恒常的な周知、守秘義務や情報管理の徹底、通報・相談したことによる不利益取り扱いの禁止などが基本要件であるとともに、さらに十分な機能を発揮させるため、外部の者が通報窓口を務める外部通報窓口の併設、経営陣から独立した中立的な運用機関の設置等が強く望まれる。

そこで、JOC加盟55団体(特定非営利活動法人日本スポーツ芸術協会を除く)について、通報制度の運用状況を自己説明資料及び各NFの公表資料により確認したところ、以下のとおりであった。

①必要な規程の整備を含めて対応済みの団体は41団体、うち外部通報窓口を設置しているのは21団体、

②運用体制として弁護士や公認会計士、学識経験者等の有識者が配置されているとしたのは39団体、うち経営陣から独立した中立な立場の者で構成される体制が確保されていると確認できたのは5団体

詳細に見てみると、例えばG団体は、単なる相談窓口の設置にとどまっている上に、団体ウェブサイト上での周知もなされておらず、中長期計画においても将来の通報制度の導入を明示していない。加えて、この団体は定款以外の規程を公表しておらず、相談窓口の守秘義務や相談後の対応方針、相談者の不利益禁止等、相談者から確認できる術が用意されていない。

H団体は、相談窓口の設置こそ団体ウェブサイト上で周知されているものの、相談後の対応方針や相談者の不利益禁止等が何らも示されていないのはG団体と同様である。この他、単なる相談窓口の設置にとどまっている団体や、通報・相談の対象が暴力指導に限定されている団体など、通報制度導入の趣旨が十分に反映されているとは思われない団体が少なくない。

I団体は、自己説明において「一次窓口の運用を顧問弁護士とは異なる弁護士に委託し運用している」とし、団体ウェブサイトに設けられている不正行為等通報窓口の案内でも「通報窓口の担当者は顧問弁護士とは異なる弁護士」であることをうたっているものの、具体的な弁護士(事務所)名は明らかにされていない。加えて、留意事項として「通報窓口から担当する弁護士に『報告した時点』で、報告した旨の完了メールをご指定のメールアドレスにお知らせします」(『』は筆者注)と記しており、担当弁護士以外の担当者が介在することを疑わせる記述となっている。

J団体においても、自己説明では「原則として弁護士が相談窓口として速やかに対応を行っている」としながら、団体ウェブサイト上には具体的な弁護士(事務所)名は明らかにされていない上に、弁護士が対応することはサイト上のみならず規程上も示されていない。これらは、単なる記載上の誤りなのかもしれないが、通報者の保護の観点からは決して看過できるものではない。

さらに、K団体は、過去に内閣府公益認定等委員会より公益認定法第27条第1項に基づく報告要求を受けるとともに、「ハラスメント行為等に対する実効性ある苦情処理システムを構築すべきである」と具体的に指摘された団体である。だが、自己説明において「弁護士資格を持つ法律専門家を公益通報の外部窓口とした通報制度を設けている。制度の構築に当たっては、顧問弁護士に相談し、助言を受けた」と記すのみで、ウェブサイト上には窓口設置の案内や受付フォーム等は一切設けられていない。加えて、競技者出身の役員が倫理委員長を務めるなかで経営陣から独立した運用がどのようになされるのか、その対応方針や相談者保護等の根拠規程も何ら公表されていない。にも関わらず、2021年度の適合性審査において何の要改善事項も示されず「適合」と評価されていることは、およそ理解に苦しむ。少なくとも、役職員等の内部整理のみでは不十分なことは公益認定等委員会の指摘からも既に明らかなのだから、通報制度の運用にあたって必要な情報や根拠規程等が具備され広く公表された事実を確認した上で、適合の評価を下すべきであろう。

冒頭で触れたように、競技登録者数や財政規模、人的資源等の現状から、望ましい通報制度を早期確立することが困難な団体があるかもしれない。だが、通報制度は適切に運営すれば、善良な競技者及び関係者を守り、健全で安定的な組織運営に貢献する有益な装置である。開かれた通報窓口を設置し、同時に必要な通報者保護規程や対応方針等を備えて公にし、役員等の経営陣から独立した制度運用を担保することで、制度を最大限に生かすべきである。同時に、スポーツ庁や統括団体は、実効ある運用が図られるよう、必要な検討及び推進策を講じるべきである。

(まとめ)

上記の問題提起は、ガバナンスコードが要請する遵守事項のほんの一部に過ぎない。また、公表されている自己説明書や定款・規程・役員等の情報により確認できた範囲に過ぎず、公表資料が限られているため事実確認に至らなかった団体も少なからずある。そうした外部から確認しがたいところに、当事者たちも自覚していない深刻で根本的な問題が隠れている可能性も十分あり得る。

一方で、日本テニス協会や全日本剣道連盟のように、自己説明の証憑書類を一覧で示すとともに当該書類をすべてPDFで提供するなど、積極的な開示に努めている団体も見られる。スポーツ庁や統括団体は、こうしたNFやその取り組みを高く評価し、勧奨すべきであろう。彼らのような姿勢であれば、個々の事項に課題があったとしてもいち早く気づき、速やかな改善のための様々な知見や支援が内外から寄せられることが期待できる。

また、適合性審査についても、NFの個別事情に配慮しつつ行われていることは十分承知しているが、現状で公表されているのは単なる審査結果に過ぎない。NFの主体的かつ切れ目のない取り組みを促していくためには、各審査項目の解釈や付帯条件等、審査の過程で新たな課題が見えてきたり、判断基準がより具体化・精緻化したりした点についてはできる限り一般化し、前後の比較や具体的事例も含めて適宜公表していくことが望ましい。

NFは、当該競技スポーツに関する唯一の国内統括組織であり、大きな社会的影響力や責任を有している存在である。だからこそ、公益法人改革関連三法の定めに加えるかたちでガバナンスコードが策定されたのであって、その経緯や趣旨を十分踏まえて速やかに対応し、開かれた組織運営と適切な説明責任を果たしていくことはNFに課せられた使命である。多様性・外部性の確保はその一里塚であると認識し、実のある取り組みを強く求めたい。

※文中で、「ウェブサイト上で確認」等としているものは、特に記述がない限り、2022310日時点のものである。

  • 熊谷 哲 熊谷 哲 上席特別研究員
    1996年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。岩手県大船渡市生まれ。
    1999年、京都府議会議員に初当選(3期)。マニフェスト大賞グランプリ、最優秀地域環境政策賞、等を受賞。また、政府の行政事業レビュー「公開プロセス」のコーディネーター(内閣府、外務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省など)を務める。
    2010年に内閣府に転じ、行政刷新会議事務局次長(行政改革担当審議官)、規制・制度改革事務局長、職員の声室長等を歴任。また、東日本大震災の直後には、被災地の出身ということもあり現地対策本部長付として2か月間現地赴任する。
    内閣府退職後、(株)PHP研究所を経て、2017年4月に笹川スポーツ財団に入職し、2018年4月研究主幹、2021年4月アドバイザリー・フェロー、2023年4月より現職。
    著書に、「よい議員、悪い議員の見分け方」(共著、2015)。