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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

選手選考を考える

SPORT POLICY INCUBATOR(40)

2024年5月8日
山本 浩 (公益財団法人日本スポーツ協会 常務理事/国スポ委員長)

 高いレベルの競技スポーツが、毎日のようにスクリーンに登場する。テレビに始まってタブレット端末やスマートフォンまで、ライブだけでなくアーカイブスも含めれば、ありとあらゆるスポーツをいつでも選択できる時代になった。登場するのは、いずれも選ばれたアスリート達である。選手としてこの舞台に上がるために、どのような道筋を通れば良いのか、それが競技特性によって異なることは、誰もがなんとなく知っている。野球やサッカーといったボールゲームでは、監督とされる人たちの選抜の裁量が大きいのに対して、水泳や陸上競技では、あらかじめ選考規程と言われるフレームが示され、それを元に晴れの舞台登場の可否が決まる。

選考をめぐるいざこざ

  日本選手が日の丸を背に世界に打って出たのは、学生野球の親善試合などを除けば1912年の五輪ストックホルム大会が最初である。当時、予選を戦うための「参加資格」は示されていたが、「選考規程」は文言として表されていなかった。予選会を設定した日本スポーツ協会の前身、大日本体育協会の幹部が相談の上、競技成績の上位者から選んだことが新聞でも伝えられている(『東京朝日新聞』,1912219日)。歴史的に選手選考の条件を探ってみれば、いずれも選考にあたる人物の名を並べ立て、日程を決めているばかりで、選ぶ人にそれなりの知名度や肩書きがあればそれで事足りると、社会は考えていたようである。

 そんな選手選考が大きな問題を引き起こしたことがあった。1924年の五輪パリ大会をめぐる代表決定に際して持ち上がった「13校問題」と言われる騒動である。選手派遣に関する権限を持つ大日本体育協会が決定した選手の中に「官学関係者多かりし事」(大日本体育協会,1936)、選ばれるはずだと思っていた早稲田の選手が「私学関係者の期待に反して選に漏れたる事」(同)などを理由として、憤った私学を中心とする13大学が同調し、その後の大日本体育協会主催の大会をボイコットするに至るのである。選考規程を明文化する発想がない時代ではあったが、選考にあたる人間を決めて発表しておけば良いと考えていた当時の感覚が、あらぬところでほころびを出したのであった。

 その後も、選手選考をめぐる対立や紛糾は、五輪をはじめとする大きな国際大会を中心に、さまざまな競技団体で生じることになる。記録が選考の材料になるにしても、どの大会の成績によるのか、一度だけの結果で決めるのか、一方で勝敗や順位以外に参酌すべき要素を持ち合わせない競技特性があったり、「戦う意欲」といった評価者の主観に左右されがちな規程が取り入れられてきたりしたからである。

あるべき選考法

 今日の選手選考に関しては、「スポーツ団体ガバナンスコード」(スポーツ庁,2023)があらゆるレベルのスポーツ団体に対して、その情報を開示するよう強く求めているほか、日本ユニセフ協会が作った「子どもの権利とスポーツの原則」(2019)ではさらに踏み込んで、子どもの権利の尊重について詳しく書かれている。一方で海外には、細かなところまで配慮を利かせ、具体的な指摘をしている組織がある。その主張は、Sport New Zealand(日本のスポーツ振興センターに相当)の中で活動する青少年スポーツに関する総合的な理念を示すサイト「Balance is Better」に見ることができる。読者が目にするのは、クラブや部活動を運営する際に意識しておくべき、選手の選抜に関する投げかけのことばの数々である。「なぜ選考プロセスを使うのか、何のために選考するのか明確にしているか」「あらかじめ適切な時期に、選手選考の条件が選手やコーチ、保護者に明示されているか」「選考から外れた選手への対応を十分に考慮しているか」「早く生まれた子に有利に働きがちな“相対年齢効果”など、さまざまなバイアスを抑えるために、複数の独立した観察者や評価者を用意しているか」。指導対象のチームがどれほど小さな規模であっても、子ども視点、選手を軸に据えたそれぞれのフレーズには、改めて振り返ってみるべき重要なテーマが込められている。人口500万人あまりのニュージーランドが、年少者から若い世代のスポーツをいかに大切にしているかがうかがわれる内容は、それぞれが重い。示された指摘の一つ一つを私たちのスポーツ界に照らしてみれば、中央競技団体だけでなく学校の部活動から小さなスポーツクラブまで、十全に対応されていると言い切れるのだろうか。

 勝利至上主義をことばで批判するのに、それほどのエネルギーを必要とはしない。立場を変えて、勝利を目指す側に立ったとき、勝つことを至上命題にしないために何をすべきか。避けて通れないはずの選考や選抜のプロセスには、「賞賛」や「期待」が込められているだけでなく、「排除」や「喪失」も存在することを意識しておくこと。それをわきまえた上での取り組みが、スポーツを楽しみ続ける人たちを減らさない為の重要な鍵でもあるのだから。

【参考文献】

大日本体育協会編(1936)「十三校問題」『大日本體育協会史 上巻』財団法人大日本體育協会,pp.24-28.

スポーツ庁(2019)「1.ガバナンスコードの規定一覧」『スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>』,「原則5補足説明」『スポーツ団体ガバナンスコード<一般スポーツ団体向け>』,ともに2023929日(改定)
https://www.mext.go.jp/sports/content/20230929-spt_kyosport-000032114_1.pdf
https://www.mext.go.jp/sports/content/20231201-spt_kyosport-300001060_1.pdf

(公財)日本ユニセフ協会(2019)「03子どもをスポーツに関係したリスクから保護する」『子どもの権利とスポーツの原則』p.14
https://childinsport.jp

Sport New ZealandBalance is Better
https://balanceisbetter.org.nz

  • 山本 浩 山本 浩    Hiroshi Yamamoto 公益財団法人日本スポーツ協会 常務理事/国スポ委員長 法政大学名誉教授、元NHKアナウンサー、解説副委員長。サッカーやオリンピック、アルペンスキーなどでスポーツ実況を経験。サッカー中継では、JSL 時代から2002 年W杯日韓共催大会までマイクの前に立った。2009年から務めていた法政大学を24年3月に退任。現在、日本スポーツ協会常務理事/ 国スポ委員長、日本陸上競技連盟評議員/ 指導者養成委員長、学校法人藤村学園理事、日本卓球協会評議員、ミズノスポーツ振興財団評議員、全日本ボウリング協会評議員、青梅市スポーツ振興審議会委員。島根県出身。東京都町田市在住。