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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

今こそ、オリンピックを考え、学び、語るときだ

SPORT POLICY INCUBATOR(19)

2022年8月24日
猪谷 千春(国際オリンピック委員会名誉委員)

 2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)からもう1年が経ちます。大会組織委員会は大会報告書を公表して226月末で解散しました。

 新型コロナウイルス蔓延下での大会開催は後世、どのような評価がなされるのか、それはわかりません。ただ1952年オスロ大会以来3つの冬季大会に出場したオリンピアンとして、また1982年から国際オリンピック委員会(IOC)に関与してきた者として考えさせられる事の多かった大会でした。

東京2020オリンピック・パラリンピック 1周年記念セレモニー~TOKYO FORWARD~

オリンピックは半永久的に存続していく価値を十分に持った運動です

 スポーツを通して世界の平和に貢献、寄与するという目的は不変です。人を集める力、互いの置かれている立場を超えて交流し、理解を深めあう力があるからこそ、「世界平和に貢献する一番いいツールである」と胸を張って言えます。

 ただ間違えてならないのは、オリンピック競技大会だけがオリンピックではないと言う事です。「オリンピズム」という哲学、つまりスポーツによって心身を鍛え、相互を理解し世界平和に貢献するという精神を世界に伝え、理解を広めるオリンピック・ムーブメント(運動)のありようが問われています。

 東京2020大会はコロナ禍下の開催に批判の声が渦巻きました。2022年北京冬季大会ではロシアがオリンピック休戦決議を破ってウクライナに軍事侵攻、平和運動としての無力さが指摘されました。IOCはもっと積極的に「オリンピックとは何か」という問いかけに答え、世界に向けてオリンピックの目的や価値を訴えていくべきでした。

 IOCはこうした現実に向き合わなければなりません。そして専門家もいれた委員会、システムを創り、どうしたらムーブメントを365日展開していけるのかを考え、加盟206カ国・地域に働きかけていくべきときです。真剣に考えていかなければ、オリンピックはじり貧になっていくだけでしょう。

教育が極めて重要です

 1998年長野冬季大会では小、中学生を対象にしたオリンピック教育が行われ、私も携わりました。リサーチ不足で、その後どのようなレガシーとなったかわかりませんが、東京2020大会でも実施された教育をどう次代に活かしていくか、大きな課題です。

 オリンピックの目的と価値とを小学生の時代に学び、中学、高校そして大学の一般教養で学んで知識を深めていけば、自然に理解が広がるのではないでしょうか。教育という根幹にかかわる事ですから、やはり国が旗振り役になっていただきたいと思います。

 マスコミ、メディアの協力も不可欠です。オリンピックとはただ「強さ」や「速さ」「高さ」を競うものではなく、スポーツを通した相互理解、そして平和な社会の構築を目指した運動です。メディアにはそれを広く発信していただきたいと考えます。

 しかしメディアはどこまで、オリンピックを理解し情報を発信していたでしょうか。知識がないが故に事実無根、誤った情報も流布しました。非礼を承知で言えば、オピニオンリーダーたるメディアがあまりにもオリンピックを知らない事に愕然としました。

 責任の一端はIOCにあります。IOCがメディアに勉強の場を提供し、情報を開示していく努力に欠けていた事は否定できません。

「平和を希求する」オリンピック・ムーブメントは国際政治の力学のなかで無力でしかないのでしょうか

 確かに両次大戦で3度のオリンピアード(191619401944年)5大会が中止され、1980年と1984年には東西冷戦構造のなかでボイコット合戦が起きました。そしてロシアはオリンピック休戦決議を破って3度(200820142022年)の軍事侵攻を行いました。独裁的な政権相手では確かに無力な存在と言えるかもしれません。

 だからこそ、そうした事態を招かないための努力が大事なのです。オリンピズムとオリンピック・ムーブメントを知ってもらう努力と言い換えてもいいでしょう。

 IOCは久しく国際連合と共同歩調をとっています。1984年冬季大会を開催したサラエボがボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の戦場と化し、甚大な被害を受けた事が発端となり、1993年の国連総会でオリンピック休戦が決議されました。以降、開催ごとに前年の国連総会でオリンピック休戦は決議されています。いまやIOCは国連のオブザーバーでもあり、国連が進める「持続可能な開発目標(SDGs)」の「開発と平和のためのスポーツオフィス(UNOSDP)」の役割を担っています。

 こうしたIOCの政治接近には批判もあります。しかし、ムーブメントの普及を意図した先々代フアン・アントニオ・サマランチIOC会長の英断と言ってもよいのではないでしょうか。1998年長野冬季大会開催の直前、当時のコフィー・アナン国連事務総長がバグダッドに飛び、大量破壊兵器問題で孤立するイラク問題に対処しました。その背景には国連での休戦決議があったのです。

 IOCは政治を含めたさまざまな問題に、より明確なメッセージを発信していくべきではないかと考えます。どちらかの陣営に与する事でも、政治的に介入する事でもなく、究極の目的である「世界の平和」にいかに貢献していくかを世界に問いかけるべきではないでしょうか。そうした意味での明確さです。

オリンピック・コングレスの開催を

 オリンピック、オリンピズムとは何か?ムーブメントのありようとは?スポーツとは何なのかなど…根本の問題を真剣に考え、討議していく事がいま求められています。

 2024年はパリで100年ぶりに開くオリンピックです。一方で、1894年にピエール・ド・クーベルタンが主唱して開催したパリ・ソルボンヌの国際スポーツ会議で近代オリンピックとIOCの創設が決議されて130年の節目を迎えます。世界のオリンピック関係者、国際競技団体に選手やコーチ、そしてメディアやスポンサーなどスポーツ関係者が一堂に会して話し合うコングレス(オリンピック会議)を開催し、今こそオリンピックをめぐる問題を真剣に討議するときです。

 コングレスは過去13回開催され、1994年第12回パリ会議は「環境」を「スポーツ」「文化」と並ぶムーブメントの柱と定めました。直近2009年の第13回ジュネーブ会議では「SDGs」や「デジタル革命」が議題となりました。先代ジャック・ロゲ会長が2010年に創設したオリンピックのルネサンス、「ユースオリンピック」についても検討する時期にきています。そしてオリンピックの危機を迎えている今だからこそ、コングレスを開催する意義は大きいのです。

  • 猪谷千春 猪谷  千春   Chiharu Igaya 国際オリンピック委員会名誉委員 1931(昭和6)年生まれ、北海道出身。父からスキーの英才教育を受ける。1952年オスロ五輪で回転11位、56年コルチナ・ダンペッツオ五輪で回転2位、日本人として初の冬季五輪メダリストとなった。米国ダートマス大学を卒業後はAIU保険会社に入社、アメリカンホーム保険会社社長などを務める。1982年、IOC委員に選ばれる。以降、2011年に定年退任となるまでの約30年、さまざまな役職を務めた。理事に2度選出、2005年には副会長に就任。現在はIOC名誉委員。