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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

サプライヤーの想いを具現化したロンドンオリンピック・パラリンピック

【オリンピック・パラリンピックのレガシー】

2017.11.07

大会期間中、市内を走るタクシーのボディに掲載されたPanasonicの広告(2012ロンドン)

大会期間中、市内を走るタクシーのボディに掲載されたPanasonicの広告(2012ロンドン)

2020年のオリンピック・パラリンピックの大会経費は1兆6,000~8,000億円と見込まれ、そのうち東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下:組織委員会)が負担する費用は、仮設等の会場関係と大会運営の費用をあわせて5,000億円ということで国や東京都との間で合意している。組織委員会の発表資料によれば、その5,000億円のうち2,860億円の収入にはスポンサー料を見込んでおり、内訳はトヨタやパナソニック等のTOPスポンサー【世界最高位の国際オリンピック委員会(IOC)スポンサー】で360億円、Tier1からTier3(権利の種類・範囲などによりTier1、2、3の階層に分かれる)までの国内スポンサーで2,500億円となっている。

テムズ川にかかるロンドンブリッジに設置されたオリンピックシンボル(2012年 ロンドン)

テムズ川にかかるロンドンブリッジに設置されたオリンピックシンボル(2012年 ロンドン)

オリンピックスポンサーは多額のスポンサー料をIOCや組織委員会に支払い、大会の運営費を負担している。このことを考えれば、スポンサー以外の企業がオリンピックイメージを活用した広告宣伝をすることを排除し、スポンサーの権利を十分に守らなければならないことは言うまでもない。

ただし、スポンサー企業だけがオリンピック・パラリンピックの大会に製品・サービスを提供するわけではない。むしろ、スポンサー以外の企業が提供する多くの商品・サービスも大会を支えている。例えば、前回1964年東京オリンピックの際の聖火台は埼玉県川口市の鋳物師によって作られたことが広く知られているが、次回2020年東京オリンピック・パラリンピックの際には、聖火台を製作した企業がスポンサー企業でなかった場合(その可能性は極めて高いわけだが)、その企業は自社がオリンピックの聖火台を作ったのだということを公に伝えることが出来ない。特に、オリンピックスポンサーになることが絶望的な中小企業にとっては、大きな問題である。

メインスタジアムの聖火とはためくユニオンジャック及びオリンピック旗(2012年 ロンドン)

メインスタジアムの聖火とはためくユニオンジャック及びオリンピック旗(2012年 ロンドン)

2012年ロンドン大会でも同様の問題が指摘された。元々は、聖火台を製作したウェールズの鉄鋼会社がその事実をPRに使いたいと英国政府に要請したことが発端だという。その後も、オリンピックに自社の製品を納品した企業が「オリンピックに使われた製品だ」ということを公に出来ないのはいかがなものか、という批判が相次ぎ、英国オリンピック委員会(BOA)と英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、「Supplier Recognition Scheme(SRS)」という仕組みを生み出した。IOCスポンサーである「TOP」と競合しない業種の企業であれば、2013年3月から2015年末までの間、五輪マークは使用できないものの、例えば「弊社は、2012年ロンドン大会でのEton Dorney漕艇場・特別観覧席の座席サプライヤーです」といったプロモーションをすることが可能となったのである。

プログラムのランニングコストと一部のライセンスフィーとしてBOAは200万ポンド(約3億円)を必要としたが、その予算はDCMSが確保した。また、BOAとDCMSが、ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会やロンドンオリンピック開発公社と直接契約した企業やその下請け企業に対してレターを送ったり、メディアや地域団体を活用して広く告知したりすることで、SRSを活用する企業数は2014年4月時点で約800社に上った。

この取り組みは、オリンピックスポンサーでない企業でも、自社の製品・サービスがオリンピック・パラリンピックに関わったものだと広報・宣伝できるようになることで、英国企業の国内外へのPR力を高めることに成功した。BOAの担当者によれば、特にブラジルやロシアでのプロモーションに奏功した企業が多かったという。

日本銀行の近藤崇史氏らの研究によれば、「企業にとって海外での事業展開は、収益力・企業価値に対してプラスの効果を与える」と結論づけられるという。我が国の企業、とりわけ中小企業が、収益力や企業価値をさらに高めるための一つの方策として、海外での事業展開を積極化していくことが望ましいわけだが、世界的に注目度の高いイベントであるオリンピック・パラリンピックに製品やサービスを提供した企業が、これをきっかけに国内のみならず海外での事業を拡大していければ、そのことが2020年東京大会の貴重なレガシーの一つであったと位置づけられるだろう。その後押しのためにも、ロンドン大会でのSRSと同様の取り組みが我が国でも進められることを期待したい。

なお、英国でのSRSの実現にあたっては、オリンピックスポンサーの権利を最大限守りたいIOCと、英国企業のプレゼンスを高めたいDCMSの間で、必ずしも順調かつ円満に協議が進んだわけではなかったとも聞く。同様の取り組みを進める際には、組織委員会やJOCによる周到な準備・検討が求められるであろう。

スポーツ歴史の検証
  • 三﨑 冨査雄 株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 シニアパートナー