2017.12.13
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2017.12.13
ロンドンオリンピック期間中にライトアップされた五輪マーク(2012)
ロンドンオリンピック・国旗を持つ地元イギリスのサポーター(2012)
まず訪日外国人観光客であるが、2020年夏のオリンピック・パラリンピック開催期間中は、飛行機代・宿泊費の高騰や混雑を嫌って間違いなくその直近の数字よりも減少するだろう。実際にロンドンオリンピックが開催された2012年7月から8月の訪英外国人数も対前年同月比で約6%減少した。このような時期に敢えて高い旅費を払ってでも東京を訪問する外国人は、大会関係者かメディア関係者か、余程のオリンピック好きがその大半であって、彼らが東京に来たついでに観光のために地方へ足を延ばすことは考えにくい。 ロンドンオリンピックでも地方を訪問した観戦客は極めて少なかったというデータが残っている。
リオデジャネイロオリンピック閉会式でオリンピック旗が次期開催都市 東京小池知事に引き継がれた(2016)
次に、各国選手団の事前キャンプ誘致も、政府が「ホストタウン構想」を推進するなど国を挙げた取り組みとなっているが、国際交流の促進や経済効果といった成果に結びつけるのは容易ではない。
2002年のサッカー日韓W杯でも、数多くの自治体が相当の費用負担を行う形で各国代表選手団の事前キャンプ誘致を実現したが、カメルーン代表のキャンプ地となって全国的に有名になった大分県中津江村以外で、芳しい成果やレガシーを残した地域はほとんどなかったと言えよう。
オリンピックはサッカーW杯と異なり、複数競技の大会であることから、当該国のNOC(国内オリンピック委員会)がキャンプ地を決めても個々のNF(国内競技団体)が別の場所にキャンプするようなケースも少なくない。
その国の選手達が皆、合宿に来てくれることを宛てにしていても、実際には契約した事前キャンプ地に来ない可能性も高いのである。
むしろ、何が経済面でのレガシーとなり得るのだろうか。東京と同様に成熟都市で開催されたオリンピックとして、ロンドンの例が参考になろう。オリンピック開催期間中の訪日外国人数は確かに減少するだろうが、ロンドンの場合、オリンピック開催によりロンドン並びに英国の地域ブランドが向上した影響で、閉会後の2013年以降の訪英外国人数は年率5%以上増加し、外国人旅行客の消費額も過去最高を記録し続けている。東京大会においても、2020年夏のタイミングで東京を訪問した外国人を地方に誘客することを考えるのではなく、オリンピック開催地として注目を集める2020年までの間に日本への関心を高く持ってもらい、2020年以降の日本全体での外国人観光客を増やすとともに、地方への誘客にいかにつなげるかを考えるべきであろう。
FIFAワールドカップ韓国・日本大会で優勝したブラジルチーム(2002)
ただし、観光需要の増分も、オリンピックがもたらす経済効果全体に占める割合は限定的である。
ロンドンオリンピック開催による2004年から2020年までの経済効果400億ポンド(英国文化メディア・スポーツ省の推計)のうち、観光需要の寄与分は1%に満たない。公共投資による効果も全体の約4分の1であり、それより大きいのは全体の半分を占める「貿易と対英投資の増分」である。
要するに、公共投資や観光需要の拡大以上に、オリンピックを契機に英国企業が海外企業と取引を開始・拡大したり、外国資本が英国に投資をしたりするといった効果のほうが相当大きく見込まれたというわけである。
確かに、一過性の観光客よりも継続的なビジネス上の関係を中長期に渡ってきちんと作り上げていくことのほうが、効果的な経済レガシーになり得るだろう。
具体的にどう進めるか。2020年の東京大会は、世界の投資家や企業経営者、政府高官等の要人に訪日してもらう絶好の機会であることから、地方においても、ビジネスカンファレンスの開催など様々な手段を通じて、地元企業と海外企業とのビジネスマッチングや地元への対日直接投資の呼び込みを進めて行くといった方策が想定されるだろう。
小池新都知事が所信表明演説で示し、記者会見でもよく使われるキーワードに「ワイズ・スペンディング」がある。賢く支出して税金を有効活用しなければならないという意味だが、必要でない支出を徹底的に抑えるという考え方に過度に縛られることなく、むしろ、その後の充分な効果を生みだすものかどうかを吟味した上での「賢い支出」を、地方自治体には期待したい。