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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

米国の健康政策とスポーツ振興 

Vol.1 身体活動ガイドライン

2015.01.08

米国の健康政策とスポーツ振興 Vol.1 身体活動ガイドライン

「アメリカでは、健康づくりの観点から、どのようにスポーツが推奨されているのだろう?」

適度にからだを動かすことが様々な疾病を予防し、健康増進につながることは多くの研究により明らかになっている。例えば、心疾患、脳血管疾患、がん(結腸がん、乳がん等)など米国および日本で主要な死因となっている疾患をはじめ、うつ病や運動器疾患など障害(disability)の主要な要因となっている疾患に至るまで、多くの疾病の発症リスクが、適度にからだを動かすことで低下する。そこで、米国政府はこうした研究知見(エビデンス)をまとめて、国民の身体活動を促進する目的で2008年にガイドラインを策定した。それが2008 Physical Activity Guidelines for Americansである。

このガイドラインは、政策立案者と健康づくり・医療の専門家を主要なターゲット(読者層)として位置づけており、十分な健康増進の効果を得るために必要な身体活動の「種類」と「量」をまとめている。米国で健康政策としてスポーツ・身体活動の振興策が計画・評価される際は、このガイドラインの考え方が基盤となっている。ここでは、実際にどのように身体活動が推奨されているのかを整理してみたい。表1に、年代や特性に応じて推奨されている身体活動の主要なポイントを示した。

表1. 2008 Physical Activity Guidelines for Americansの年代・特性別のポイント

全般的なポイント

  • 日常的な身体活動は多くの健康障害のリスクを低減する
  • 何もしないよりは、何らかの身体活動をした方がよい
    (※「○分以上、○強度以上の身体活動しか推奨しない」というわけではないことを明言。)
  • ほとんどの健康指標や疾病予防において、身体活動をより高い強度、高い頻度、長い時間行うことが、より高い効果を生む。
  • ほとんどの健康効果が、週に150分(2時間30分)以上の中強度身体活動(早目のペースの歩行など)を行うことで得られる。より多く行えば、より高い効果を得ることができる。
  • 有酸素性(持久性)身体活動および筋力向上活動(筋力トレーニング)の両方が有益である。
  • (身体活動によって)子どもから青壮年、高齢者に至る全ての世代、そしてこれまでに研究されてきた全ての人種・民族で健康効果が得られることが分かっている。
  • 身体活動は障害を持つ人々に健康増進効果をもたらす。
  • 身体活動による恩恵は、その実施に伴う有害事象の可能性を考慮しても、それをはるかに上回るものであり、実施が推奨される。

子ども・青少年

  • 毎日60分(1時間)以上の身体活動を行うことが望まれる。それらの活動の多くは、中強度または高強度の有酸素性の身体活動であること。また、①高強度の身体活動、②筋力向上活動、③骨増強活動のそれぞれの要素を1週間に3日以上含むこと。
  • 年齢に応じた、楽しく、種類に富む身体活動を行うことが重要である。

成人

  • (全般的なポイントと同様。さらに下記の内容が推奨される。)
  • 十分な健康効果のためには、週150分以上の中強度の有酸素性身体活動、または週75分以上の高強度の有酸素性身体活動、またはそれらの組み合わせを行うこと。
  • 有酸素性活動は、1回あたり10分以上続けて行われること。また、出来ればこれらの活動は1日にまとめて150分行われるよりも、細切れに1週間を通して行われるとよい。
  • より大きな健康効果を得るには、週300分(5時間)以上の中強度の有酸素性身体活動、または週150分以上の高強度の有酸素性身体活動、またはそれらの組み合わせを行うこと。これ以上の量を行えば、さらに大きな効果が期待される。
  • 中高強度の、全ての主要筋群を含む筋力向上活動を週に2日以上行うことで、さらに健康効果が得られる。

高齢者

  • (成人を対象とするポイントと同様。加えて、下記の内容が推奨される。)
  • もし週に150分以上の中強度の身体活動が慢性疾患により実施できない場合、可能な範囲で出来る限り活動的に過ごすことが推奨される。
  • 転倒のリスクが高い場合、平衡機能を維持・向上させる運動を行うべきである。
  • 自らの体力に合わせて身体活動の強度等を決定すること。
  • 慢性疾患を有する場合は、身体活動を安全かつ継続的に実施する上でどのような注意点があるか理解する必要がある。

安全に身体活動を実施するためのポイント

  • リスクを理解した上で、身体活動はほとんど全ての人にとって、安全に実施できるものであると確信を持つことが重要である。
  • 自分の現在の体力レベルや健康の目標に照らし、安全で最適な種類の身体活動を行うこと。
  • ガイドラインや自ら設定した健康の目標を達成するために、より多くの身体活動が必要な場合は、必ず時間をかけて徐々に増やしていくこと。非活動的な生活を送っていた場合は、「低い強度・頻度でゆっくりと」始めるべきで、その頻度や時間を少しずつ増やしていくとよい。
  • 適切な服装や道具を用いて、安全な環境のもとで、ルールや規則に従って、時・場所・方法を選択して行うこと。
  • もし慢性疾患や症状を有している場合、適切な身体活動の種類や量について医療専門家に相談すること。

妊娠期及び出産後の女性

  • 健康な女性で、これまであまり活動的ではなく、高い強度の身体活動を実施していなかった場合は、妊娠期及び出産後には、少なくとも週に150分以上の中強度の有酸素性活動を行うことが望ましい。また、出来ればこれらの活動は1日にまとめて150分行われるよりも、細切れに1週間を通して行われるとよい。
  • 習慣的に高強度の有酸素性活動を実施しているか、既に非常に活動的な妊娠中の女性は、健康上問題がなく、身体活動について継時的にいつ、どのように調整していくべきか医療専門家と相談できている場合は、妊娠中及び出産後にもそうした活動を継続することができる。

障害を持つ成人

  • 実施が可能な場合は、週150分以上の中強度の有酸素性身体活動、または週75分以上の高強度の有酸素性身体活動、またはそれらの組み合わせを行うことが望ましい。
  • 有酸素性活動は、1回あたり10分以上続けて行われること。また、出来ればこれらの活動は1日にまとめて150分行われるよりも、細切れに1週間を通して行われるとよい。
  • 実施が可能な場合は、中高強度の、全ての主要筋群を含む筋力向上活動を週に2日以上行うことで、さらに健康効果が得られる。
  • もしこれらの内容が実施できない場合でも、可能な限り活動的に過ごし、不活動を避けることが推奨される。
  • 能力に合った適切な量と種類の身体活動について、医療専門家に相談すること。

慢性疾患を持つ成人

  • 日常的に身体活動に取り組むことで、重要な健康効果を得ることができる。
  • それぞれの能力に応じて活動を行うのであれば、身体活動の実施は安全である。
  • 適切な身体活動の種類や量について医療専門家に相談すること。

このガイドラインの基本的な考え方として、疾病予防等の健康効果を十分に得るためには、「年に1回」「月に1回」程度の頻度ではなく、「週に数回」といった頻度の習慣が必要だということが示されている。したがって、健康増進の要素も含めてスポーツ振興策を評価する場合、スポーツ実施率の調査では、「年に1回以上」「月に1回以上」といった低頻度の実施割合ではなく、「週に○日、○分以上」といった量の実施割合を評価・モニタリングすることが求められる。

身体活動の分類については、第1回で示したように「運動」と「生活活動」で区別するほかに、このガイドラインのように、その活動特性によって、有酸素(aerobic)、筋力増強・向上(muscle-strengthening)、子どもで推奨されている骨増強(bone-strengthening)、高齢者で推奨されているバランス訓練(balance training)といった分類をすることができる。また、運動強度によって、低強度、中強度、高強度と区別されるが、この米国のガイドラインをはじめとして、世界保健機関(WHO)のものも含め、多くのガイドラインが、中・高強度の身体活動(Moderate to Vigorous Physical Activity: MVPA)の実施を推奨している。スポーツ実施率の調査をすると、日本や米国等で必ず上位に入る「ウォーキング」や「ジョギング・ランニング」は、いずれも中・高強度の有酸素性身体活動に分類されるため、こうした活動を週に計150分以上行っていれば、米国のガイドラインの推奨量を満たすということになる。

冒頭で述べたように、現在、米国ではこのガイドラインの考え方に基づいて身体活動促進の健康政策が進められている。次回は、そうした取り組みを紹介する。

※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。

レポート執筆者

鎌田 真光  (2014年9月~2018年3月)

鎌田 真光  (2014年9月~2018年3月)

海外特別研究員
Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Overseas Research Fellow, Sasakawa Sports Foundation (Sept. 2014~Mar. 2018)