2014.12.03
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2014.12.03
「米国ではどのくらいの人が日常的にからだを動かしたりスポーツをしているのだろう?」
日本におけるスポーツ実施率や身体活動量(詳細は後述)の実態について考える際、2つの軸に沿った「比較」を行うと、より理解が深まる。2つとは、縦軸(時間軸:過去と現在の比較)と横軸(空間軸:日本と他国の比較)である。他国と比較する作業の一環として、このシリーズでは、米国の実態や関連する政策・取り組みを紹介していく。第1回目である今回は、米国の実態を理解するために必要な全国調査の特徴について取り上げる。
米国における国民のスポーツ実施率・身体活動量に関する全国調査はいくつか存在する。各調査で目的や方法が異なるため、調査の結果を正しく読み解くためには、それぞれの特徴や注意点は何なのか理解することが重要となる。図1は、「健康づくりのための身体活動基準2013」(厚生労働省)の定義に基づき、スポーツや身体活動の概念を整理し、各調査が「何」に焦点を当てているのかを示したものである。
図1.スポーツ・身体活動等の概念と調査の位置づけ
*各調査の英文名称は、表1に記載
厚生労働省の基準によれば身体活動とは、からだを動かすことの総称であり、「運動」と「生活活動」に分けられる。このうち、運動とは、スポーツ等の、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のあるものを指す。また、生活活動とは、日常生活における労働、家事、通勤・通学などの身体活動を指す。健康づくりや疾病予防の観点からは、生活活動も含めた身体活動全体を把握することが重要になる。また、関連するものとして握力や全身持久力等の「体力」もあり、ここに焦点を当てた調査も存在する。
どのような活動を「スポーツ」という概念に含めるかは定義により異なる。一方、多くの調査が、既述の定義でいうところの「運動」の一部として位置づけている。しかし、「スポーツ実施率」として公表されたデータの中には、実際には「身体活動」全般について調査したものも見受けられる。そのため、調査結果をもとに国際比較(あるいは地域間比較)をする場合には、図1の左下の項目である運動だけに焦点を当てた調査なのか、それとも家事等の生活活動も含んだ身体活動に焦点を当てた調査なのか、その区別をして数字を見る必要がある。表1は、「スポーツ」と「身体活動」それぞれに焦点を当てた代表的な全国調査について、その整理をしたものである。
調査項目 | スポーツ sports | 身体活動量 physical activity |
---|---|---|
調査例(日本) |
|
|
調査例(米国) |
|
|
目的 | スポーツに焦点を当てて、実施率を把握する | 健康との関連から、どのくらい生活の中でからだを動かしているのか把握する |
方法 |
|
|
結果の例 |
|
|
有用な点 |
|
|
注意点 | 調査の妥当性の検証が困難で、検証されていない場合が多い | 実施しているスポーツの種類まで分からない場合が多い |
なお、米国の州別の状況をまとめたThe State Indicator Report on Physical Activityのように、スポーツ実施率や身体活動量について記述している報告書や計画の多くが、表1に調査例として紹介している全国調査のデータを2次利用して作成されている。
日米ともに「身体活動」に関しては、健康政策との関連から政府機関によって調査が行われている。しかし、スポーツの種目別実施率まで含めた調査については、米国ではスポーツ関連産業の団体(Physical Activity Council)による全国調査が行われている。(名称はPhysical Activity=身体活動 となっているが、特に「スポーツ」に焦点を当てた調査活動)
国際比較を行う際には、その目的に応じて適切な調査結果を用いることが重要になる。また、単に実施率と言っても、週に1回以上なのか、1回あたりの時間に基準はあるのか(10分以上のみカウント?基準なし?)、といった頻度の基準によって割合(%)が大きく変わってしまう点にも注意しなければならない。
以上を踏まえた上で、次回は具体的に代表的な調査の結果を見ていく。
※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。
レポート執筆者
鎌田 真光 (2014年9月~2018年3月)
海外特別研究員
Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Overseas Research Fellow, Sasakawa Sports Foundation (Sept. 2014~Mar. 2018)