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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

カナダBC州の車椅子スポーツプログラム ~BC Wheelchair Sports Society

2017.11.21

カナダBC州の車椅子スポーツプログラム ~BC Wheelchair Sports Society

私の住むカナダ・ブリティッシュコロンビア州(以下、BC州)において、主な車椅子スポーツを統括するのが BC Wheelchair Sports Association(以下、BCWSA)である。BCWSAは1971年に設立されて以来、身体障害をもつ人々が車椅子スポーツを通してアクティブで健康的な生活を送れるよう支援してきた。現在はテニス、ラグビー、陸上、射撃を対象*としており、スポーツの導入からハイパフォーマンスまでさまざまな形で会員にプログラムを提供している。車椅子射撃は州・国代表の強化対象アスリートがいた場合に資金援助を行うのみで選手強化などのプログラムは提供していないため、ここでは3競技(テニス、ラグビー、陸上)についてみていきたい。

* フェンシング、卓球、バドミントンなどは各健常者スポーツ組織が扱っている。また、バスケットボールはBC Wheelchair Basketball Society というBCWSAから独立した団体が扱っている。

紹介・導入(リクルーティング)

リクルーティングの手段として主となるものが、Canadian Wheelchair Sports Association(以下、CWSA)と協同で展開されるBridging the Gap (BTG)プログラムである。バンクーバーにあるリハビリテーションセンターに出向き、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、レクリエーションセラピストと協力して車椅子スポーツの紹介や体験会を入院患者向けに週1回、外来患者も参加可能な体験会を月1回実施している。受傷後の入院段階や退院して自立生活を始めた早期段階において、選択肢のひとつとしてのスポーツを紹介し、生活が落ち着いてきた頃に地域のプログラム参加を促せるよう橋渡し(bridging the gap)をしている。加えて、切断や軽度な障害をもつ人たちを対象とした体験会も実施している。新規会員が継続的に参加できる場づくりや、個別でのフォローアップを行うこともBTGプログラムの特徴だ。さらにカナダパラリンピック委員会が開催するタレント発掘事業にも協力して、アスリート発掘を行っている。

会員プログラム

テニス

定期プログラムはバンクーバー郊外で行われる週2回のレッスンである。初心者から上級者までレベルに合わせた参加が可能で、州コーチ(Provincial Coach)とパートタイムのコーチが指導にあたる。スキルクリニックなども年に数回行われており、時には仮装をしてクリニックを開催するなど、個人スポーツであるがゆえコミュニティ感を大切にする工夫などもしている。その他バンクーバー近郊でレベルに関係なく参加できるリーグも行われている。

ラグビー

BC Wheelchair Rugby Association(以下、BCWRA)がBC州内の5クラブが参加する州リーグをボランティアで運営している。BCWSAはそれらのクラブやBCWRAを運営面や資金面、用具の提供などでサポートする。クラブにはさまざまなレベルの選手がいるが、初心者がBCWSAの体験会などを経て本格的にプレーを始めるのがクラブでの練習となる。練習は週1~2回で、現在、ジュニア向けプログラムは準備されていない。
  州リーグは初心者から中級者までの選手が参加可能である。ナショナルチーム所属の選手は参加が許されていないが、コーチとして他の選手をサポートすることが多い。各クラブはCWSAが提供する助成金(Podium Club)を活用し、リーグ遠征費に充てることで、少ない自己負担でのリーグ参加を可能にしている。
  また、試合経験を増やす目的で、ここ数年は中級者から代表レベルの選手を対象としたリーグもBCWSAとBCWRAの協力で始まった。

*Podium Club:CWSAが車椅子ラグビーの国内でのクラブ育成を支援するために提供している助成金制度。アスリート育成、タレント発掘、競技参加支援、審判・クラス分け委員支援、スポーツ科学、コーチ育成といった6つの柱があり、各クラブの需要に応じて助成金が与えられる。

陸上

定期プログラムは、季節に合わせてインドア(10月~3月)とアウトドア(4月~8月)を使い分け、バンクーバー近郊で週2回行われている。BCWSAオフィスの地下スペースを利用したローラーセッション(大きなローラーにレース用車椅子あるいはハンドバイクを乗せてトレーニング)には、他競技の選手もトレーニングや健康維持のために参加することが多い。その他、スキルクリニックなども年に数回実施している。
  陸上クラブ・WC Race Seriesが、特に地域内で競技を楽しみたい選手に費用面でのサポートを行い、気軽に陸上を楽しめる環境を提供している。ラグビー同様、BCWSAが運営面やハード面で支援している。

ジュニア

テニス、陸上はジュニアを対象としたプログラムやクリニックを不定期に実施している。また毎夏、5日間のサマーキャンプが行われ、18歳までのジュニア選手が様々なスポーツを体験するだけでなく、自立心を養ったり、友情を築いたりする場となっている。ここ数年はジュニア女子の参加と継続を促すため、女子限定イベントも実施されている。

州代表プログラム

州代表として全国大会に参加する可能性のある選手たちを対象に、各スポーツ共通で、以下の育成サポートが提供される。

  • 年数回のトレーニングキャンプやクリニック
  • 州コーチによるコーチングサポート
  • 体力・スキルテスト
  • Integrated Support Team (IST)プログラム
    栄養、ストレングス&コンディショニング、スポーツ心理などのセッション提供、費用の補助
  • 遠征旅費助成金
  • Athlete Assistant Program(AAP)
    トレーニング費用などの助成金
  • 全国大会参加時の旅費負担

州代表の選手がこれだけのサポートを受けられるのはBCWSAの強みであろう。

大会開催

BCWSAは長年、地域レベルの大会から州大会、国内大会、国際大会にいたるまで、様々なカテゴリーでの大会を開催しており、特に国内大会、国際大会の質の高さに定評がある。参加アスリートの立場に常に立ち、彼らが最高の大会経験をできるよう、施設、食事、ボランティアなどあらゆる面において手の行き届いたサポートをしていこうという考えのもと大会準備・開催がされている。生涯スポーツに重きを置いた地域大会、州大会、国内大会では、参加者がスポーツを楽しむことやジュニア世代を育成する機会の提供を目的にしており、競技スポーツに重きを置いた国内大会、国際大会では、車椅子スポーツの認知度向上、大会支援や団体支援につながる地元企業との接点の場として活用されている。さらに大会の収益をプログラムに還元する仕組みも確立されており、たとえば、2年に一度開催されるラグビーの国際大会Canada Cupでは、チケット販売や物品販売、オークションやビアガーデンなども行うことで収益をあげ、それは州のラグビープログラム運営に還元されている。

車椅子レンタル

BCWSAの特徴的なプログラムの1つが車椅子貸出プログラムである。スポーツ用車椅子は非常に高額(約CAD2,000~5,000(約18~45万円))で、スポーツをやりたいと思ってもそれが障壁になってしまうことがある。初心者用プログラムなどはその都度BCWSAの車椅子を使うことができるが、日常の練習で使いたい会員は年間CAD100(約9,000円)で車椅子をレンタルすることができる。購入までは考えていない人や始めたばかりでどんな車椅子が自分の体に合うのか分からない人にはレンタルで試してみることも可能である。

その他

BCWSAは審判やコーチの育成にも力を入れており、各スポーツの発展を包括的に進めている姿勢が見受けられる。テニスと陸上では、健常者スポーツの連盟(BC Athletics、Tennis Canadaなど)と綿密に協力しコーチ育成に取り組んでおり、ラグビーは定期的に審判講習会やコーチ講習会を独自に開催している。

また日本と比べるとバリアフリーに配慮した施設は非常に多いが、車椅子スポーツを定期的に行う施設の確保には苦労している。だからこそパートナーとして協力してくれる施設の存在は大きい。バンクーバーでは冬のオリンピックで使用されたRichmond Olympic Oval、ビクトリアではPacific Institute for Sport Excellenceが特にハイパフォーマンスプログラムの支援をしており、体育館やジムの利用がしやすくなった。たとえば、指定選手であれば時間はある程度限られるが無料でコートが使えたり、用具保管のスペースを提供してもらったり、コート貸し切り料金もパートナー価格で提供してもらえるという具合だ。そこでは、車椅子アスリート向けのストレングス&コンディショニングも提供している。ただ、地方にはなかなかそういった施設がなく、多くのハイパフォーマンスアスリートはバンクーバー、ビクトリアに集中するのが実情である。

BCWSAの会員数は決して多いとはいえないが、これはBC州だけでなくカナダ全体の問題といえる。地理的な問題や経済格差、バックグラウンドの違いなどが大きな理由だろう。そんな中でもBCWSAは様々なレベルで質のよいプログラムを低料金(例:テニスレッスン1回CAD7.5(約675円)、陸上クリニックCAD20(1,800円)、ジュニアテニス大会無料など)で提供しようと努力している。スタッフ数はフルタイムが4名、パートタイムとインターンが数名と少ないが、情熱と知識を備えたスタッフが州レベルで車椅子スポーツプログラムを提供できる環境があることは素晴らしい。その活動の様子はBCWSAのフェイスブックページの写真でみることができるので、興味があればみて欲しい。

文中、1CAD=約90円で換算

レポート執筆者

原田 麻紀子

原田 麻紀子

Manager of Program Development,
BC Wheelchair Basketball Society
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation