2016.04.22
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2016.04.22
前回に引き続き、リオデジャネイロ市、リオデジャネイロ州、ブラジル連邦政府が民間投資も活用しながら行う、総額246億400万レアル(約7,135億1,600万円)のレガシープロジェクトについて紹介する。今回は、国際オリンピック委員会が定める5分野(スポーツ、社会、環境、都市、経済)のうち、都市、経済の分野で予定している主要プロジェクトについて紹介する。
※1 交通網と各地区を記載した地図はこちら
サントス・ドゥモン空港(市中心部の国内路線専用空港)、ノーヴォ・リオ・バスターミナル(長距離バスターミナル)、セントラル・ド・ブラジル(鉄道中央駅)、リオ・ブランコ大通り(官庁街、商業地区)などに全長28kmの路面電車網を敷設する。地下鉄、鉄道、BRT(バス高速輸送システム)、市内バス、船などと接続し、一日27万人の利用が見込まれる。市の中心部の交通渋滞と大気汚染を緩和することも期待される。費用は11億レアル(約319億円)で、開通予定は今年4月。
北部デオドロ地区と西部バーラ地区を結ぶ全長26kmの区間に、バス高速輸送システムを設置する。デオドロ地区で列車と、バーラ地区で別の既存のBRTと接続し、一日30万人の利用が見込まれる。費用は21億レアル(約609億円)で、開通予定は今年5~6月。
バーラ地区まで延長される地下鉄に接続するため、既存のBRTトランスオエスチを3km延長する。費用は1億1,400万レアル(約33億600万円)で、開通予定は今年5~6月。
既存の道路の上に全長5kmの高架道路(2車線)を建設し、市の中心部と南部の交通渋滞を緩和する。また、既存の道路の脇に自転車専用道路を敷設する。費用は4億6,000万レアル(約133億4,000万円)で、完工予定は今年6月。
オリンピックパーク周辺の道路を拡張し、整備する。費用は5億1,400万レアル(約149億600万円)で、完工予定は今年5月。
インフラストラクチャーが老朽化している港湾地区(約500万m2)の道路、街灯、排水溝などを改修、整備し、トンネル4つを建設して他地域からのアクセスを改善するとともに、近代美術館、未来美術館などを建設するなどして地区全体を再開発する。費用は82億レアル(約2,378億円)。美術館はすでに2015年12月までに完成しており、すべての再開発プログラムが完了するのは今年6月の予定。
陸上競技などが行われるオリンピックスタジアム(マラカナン地区)の周辺の道路、街灯、排水溝などを改修、整備する。費用は1億1570万レアル(約33億5,530万円)で、完了予定は今年3月。
デオドロ地区の道路、街灯、排水溝などを改修、整備する。費用は5,190万レアル(約15億510万円)で、完成予定は今年3月。
すでに地下鉄が開通しているイパネマ地区からバーラ地区まで路線を延長する。長さは16km。現在、市の中心部からバーラ地区までバスで2時間前後かかるが、地下鉄なら34分間と大幅に短縮される。費用は88億レアル(約2,552億円)で、完成予定は今年6月末。
市内の鉄道6駅を改修して利用者の便宜を図る。費用は2億6,000万レアル(約75億4,000万円)で、完成予定は今年3月。
今年1月29日、オリンピック公共局(Autoridade Pública Olímpica=APO)は2016年オリンピック・パラリンピックの総費用見積もりを391億レアル(約1兆1339億円)と発表した。その内訳は、インフラストラクチャー整備費が246億レアル(約7134億円)、大会運営費が74億レアル(約2,149億円)で競技施設建設費が70億7,000レアル(約2,050億3,000万円)。
ブラジル・スポーツ省は、オリンピックとパラリンピックの開催準備を始めた2009年から2016年までに毎年約12万人の、大会後も2027年まで毎年約13万人の新規雇用創出を見込んでいる。
また、昨年12月、ブラジル連邦政府は今年の6月1日から9月18日の期間に入国する日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアからの観光客に観光ビザの取得を免除し、90日間の滞在を許可する特別措置を適用することを発表。オリンピック、パラリンピック期間中に100万人以上の外国人観光客がリオデジャネイロを訪れると予想している。
これらの状況を勘案して、サンパウロ州立大学の経営研究所は、建設業、観光業、不動産業、運送業、製造業などを中心に約510億ドル(約5兆8,135億円)の経済効果が見込まれると発表している。これは、全投資額の約5.13倍に相当する。
このレガシー・プランについて、ブラジルの主要メディアは概ね好意的。たとえば、国内最大の週刊誌「ヴェージャ」は、「大会後、一部の競技施設が有効利用されないのではないか、という懸念があったが、そのような事態を避けるべく、必要に応じて施設を改修してスポーツ専門校や小学校を設立することは非常に評価できる」と報じている。今後の動向に注目していきたい。
※文中、1レアル=約29円で換算
レポート執筆者
沢田 啓明
Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation