2024.8.23
角田市(宮城県)
黑須 貫市長 対談
2024.8.23
角田市(宮城県)
黑須 貫市長 対談
「スポネットかくだを中心とした活動を進め、日々の生活にスポーツを取り入れることで市民の幸福度を向上させ、多方面に波及効果を促したい」(黑須市長)
ロケットのまちとして知られる角田市は宮城県南部に位置する2万7000人弱のまち。人口減少が続く中、笹川スポーツ財団が提言する「既存スポーツ推進団体を一元化することで、ヒト・モノ・カネ・情報 を集約し、持続可能な運営体制の構築を目指す取組み」に賛同いただき、2019年に連携協定を締結。地域スポーツ運営組織(角田版RSMO)としてスポーツネットワーク・かくだ(スポネットかくだ)を設立しました。
「かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラム」では行政と保育園・幼稚園・仙台大学、そして笹川スポーツ財団が協業し、現場に根付く取り組みとなっています。また、スポーツ施設が集まる「Kスポ」に隣接する「道の駅かくだ」と連携し人の往来を作ることで関係人口の拡大、市民の健康づくりにつなげています。
こうした取り組みが評価され、2021年12月に宮城県内では初めてスポーツ庁の「スポーツ・健康まちづくり」優良自治体表彰を受賞しました。これまでの地域だけでの取り組みが対外的に評価されたことは関係者の誇りとなり、活動への後押しにもなりました。そして、2024年2月に角田市は「アクティブシティかくだ」を宣言しました。スポーツによるまちづくりを着実に進める角田市は次のステージへと進みます。
スポーツを中核にしたまちづくりに手ごたえを感じる黑須市長に、角田市のスポーツによるアクティブなまちづくりについて詳しく教えていただきました。
黑須市長 角田市の人口は過去3万5000人程度をピークに減少し、現在は2万7000人弱となっています。人口減少を感じていますが、そういった中でも、角田の良さを前面に打ち出して活性化させていかなくてはいけないと考えています。
黑須市長 角田市では市民の皆さまの力を「市民力」と表現していますが、その市民力と行政の力も合わせて、“協働”して取り組んでいこうとしています。一昨年にスタートした第6次長期総合計画をもとに荒波に挑んでいます。
また、スポーツから少し離れますが、角田市にはH-Ⅱロケットの実物大模型が立っている台山公園があります。角田市にはJAXAの宇宙センターがあり、ロケットエンジンの開発をしています。そのエンジンはH-ⅡロケットやH3ロケットに入っているもので、実物大模型はそれを象徴する建物といえます。角田市民のみなさんや外の方々にも知っていただいて、夢を育む市ということを表していきたいです。
渡邉理事長 昨日、市長にご案内いただきましたが、宇宙飛行士を目指す子どもが出てきたそうですね。地域にH-Ⅱロケットの実物大の模型があることの大きな意味合いなのでしょうか。
黑須市長 実現するといいなと思って、期待しています。
渡邉理事長 楽しみにしています。
黑須市長 私自身は角田地域最古の神社といわれている熱日髙彦神社を含めた4神社の宮司をしています。現在は人口減少をはじめとした社会課題が多くありますが、もともと神主は地域の心のよりどころであったり、コミュニティの中核であったりしますが、そうしたもの自体が弱くなってきていると感じていました。
前市長から市長職を引き継いでほしいという話もあり、神主として地域を支えるという思いも強く、微力ながら何かできればという気持ちで市長の仕事に飛び込んでみたのが市長になった経緯です。
渡邉理事長 笹川スポーツ財団は、従来ある各地のスポーツ協会、総合型スポーツクラブ、スポーツ推進委員の連合体といった団体が経営資源を共有して一致協力しながら、共通の課題認識や目標を持って活動したらどうだろうかという政策提言を2017年に出させていただきました。その政策提言について角田市のみなさんがご理解を示してくださり、それなら角田市のスポーツによる地域活性化やまちづくりを一緒にやってくれないかとお声がけいただき、2019年の4月に協定書を締結するといったようなストーリーがあったわけですね。
渡邉理事長 われわれが提案した新たな地域スポーツを振興する組織をRSMO(地域スポーツ運営組織)といいますが、それが具体的に「スポーツネットワークかくだ(スポネットかくだ)」とかたちを整えて、現在活動が展開されています。
渡邉理事長 実は昨日、市長から「アクティブシティかくだ宣言」が発表されました。
黑須市長 昨日、ご出席をいただいて、今までご尽力やご指導いただいた方々の前で宣言できたことは、われわれとしても大変誇らしいことでした。本当にありがとうございました。
黑須市長 スポーツネットワークかくだ(スポネットかくだ)としての活動を4年以上続けてきましたが、この取り組みが地域課題の解決に直結していることが、目に見えてわかってきました。例えば、幼少期の運動習慣は、その後の運動習慣に大きな影響を与えることがわかってきました。
また、高齢者でも日常的な体を動かすサポートを少しするだけでフレイルが改善されます。また、運動の場がコミュニティにもなってくることがわかってきましたので、スポーツや身体活動がまちづくりにおいて本当に重要であることを実感しています。
そのため、これからのまちづくりにスポーツを活用したいと思いまして、スポーツを中核に据えたまちづくりを進めていけるのではないかと思い至ったわけですが、それは行政職員や市民も感じていると思います。本気で取り組んでいきたいということで、このタイミングで宣言をしたいということになりました。普段の生活からスポーツを能動的に取り入れることで、市民の幸福度を向上させ、多方面に波及効果を促すことを目指しています。
宣言にもありますが、「スポーツにより明るく楽しく健康で活力のあるまち、これをアクティブシティかくだ」として宣言とさせていただきました。
渡邉理事長 実際に「スポネットかくだ」を設立された成果について、具体的な例があれば教えていただけますか。
黑須市長 ひとつはインナー施策ですが、0歳児から保護者も含めた運動プログラム「かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラム」を導入し、その結果、保育所や幼稚園での子どもたちの活動が非常に活発になったことです。このプログラムは乳幼児健診にも取り入れています。ゴロゴロ転がったり、はいはいしてみたり、一緒に足を上げたり、寝てみたりというような動きです。
黑須市長 保育所では遊びを通じて自然に身体活動を促すよう工夫しています。ただ、専門的な知見がないと、どのようにアクティブ・チャイルド・プログラムをやっていったらいいのかわからなかったと思います。しかし、角田市の近隣にある仙台大学の専門家の協力を得て展開していますが、非常に分かりやすい言葉で教えていただき、保護者やスタッフにも理解が広がりました。
渡邉理事長 私もアクティブ・チャイルド・プログラムを拝見したことありますが、保育所と幼稚園にしっかりと協力していただける関係性ができていますよね。これは行政が関わっていないとなかなか難しいことだと思います。
黑須市長 今では、われわれが知り得ない知見を提供してくれる仙台大学や後方支援をしてくれる笹川スポーツ財団、そしてそれに呼応して「子どもたちにそれいいよね」っていってくれる保育所や幼稚園が協力しないと、こうしたプログラムは実現できないと思っています。
渡邉理事長 私もメンバーから報告を受けておりますが、事前と事後でどう変化したかを調査もされていますよね。
黑須市長 そうですね。
渡邉理事長 子どもたちだけでなくて、保護者もどう捉えているか調査しています。PDCAというマネジメントサイクルがありますが、きっとこれからもっともっとよくなるのではないかなと思います。
渡邉理事長 インナー政策として優先順位を持っていろいろ展開されているという話ですが、運動部活動の地域移行について、角田市ではどのような取り組みをされているのでしょうか。スポーツ庁も2023年から2025年まで3年間を集中改革期間と位置づけて、全国の自治体がそれぞれの事情や特徴を鑑みながら地域移行を進めようか、と検討して実際にも行動に移されているところですが、角田市の場合はどうなのでしょうか。
黑須市長 笹川スポーツ財団からもご提案やご指導いただいて準備期間をとらせていただいて、昨年10月から、2つの中学校で10個の運動部活動の民間移行を試みています。協力をすると手を挙げてくださる方もある程度いらっしゃいまして、われわれが望んだかたちで進んでいるのかなと感じています。
黑須市長 アウター施策としてはスポーツ施設が集まる「Kスポ」に隣接するかたちで「道の駅かくだ」を作りましたが、道の駅を拠点にKスポにも足を運んでスポーツを楽しんでもらっています。角田市民のみなさんも日常的にスポーツの楽しさを知って、それに呼応するように自転車やウォーキング・ランニングができるようになってきています。スポーツ施設との連携により、地域全体でスポーツを楽しむ風土が醸成されつつあります。また、道の駅を拠点に、ウォーキングやランニングなど、日常的に楽しめる活動も増えてきています。
渡邉理事長 先ほど道の駅に行ってまいりましたが、すごい人ですね。
黑須市長 ありがとうございます。おかげさまでオープンから4年たち、400万人を達成しました。
渡邉理事長 年間100万人ペースですね。チャレンジミリオンがもう実現しています。
黑須市長 それ以上ですね。さまざまな工夫をして、たくさんの方にご利用いただいております。その中でも地元の食材を使った健康的なお食事を提供している点が大きな特徴です。例えば、低農薬で安全でおいしいお米、地元の方々が育てた野菜を使っていますし、お肉も地元産のものを多用しています。
渡邉理事長 導線的な話ですが、「道の駅かくだ」から「Kスポ」のビレッジから人がかなり流れていました。実際にそこの運動公園を見ますと、親子連れがきゃっきゃと楽しく身体を動かしていましたが、このエリア一帯としての手応えはどうでしょうか。
黑須市長 子ども向けの遊具を設置している「どんぐりパーク」は、冬でも晴れていれば子どもたちや保護者が遊びに来てくれています。また、温水プールは、角田市民のみならず、周辺自治体の住民の方が来て体験してくれる流れはできてきています。その中で、食事をしようか、買い物をしようかと道の駅に寄っていただいておいしい食事をして、食べたものがおいしかったから最後においしかった野菜を買って帰るという流れもできているかなと感じています。
渡邉理事長 アフター施策ということで、道の駅とスポーツビレッジである「Kスポ」が一体となって交流人口あるいは関係人口を拡大していこうと、さらにはプラスして市民の方々の健康づくりをここで進めていこうとしているのですね。実はこうした取り組みが、2011年の12月にスポーツ庁の「スポまち!」表彰ということで結実したわけですね。
黑須市長 はい。
渡邉理事長 私の手元には、スポーツ庁長官の室伏さんから、黑須市長に賞状が手渡されている写真があります。ここに至るまで、みなさんのいろいろな努力があったと思います。
黑須市長 はい、これまでご協力や伴走していただいたみなさまがあっての受賞だと思っていますので、われわれはありがたいと思いましたし、本当に誇らしいなという思いがありました。背中を押していただける表彰だと思っていますし、アクティブシティ宣言にも結びついているのかなと感じています。
渡邉理事長 市民の皆さんに対して、市長の方からメッセージをお願いできますでしょうか。
黑須市長 昨日、アクティブシティ宣言をしましたが、今後はこの宣言をいろいろな場面でアピールをしていきたいと思っています。それから、角田市ではチャレンジデーを独自に展開していきたいと思っています。そのため、チャレンジデーのようなイベントに参加してもらいながら、アクティブシティを目指していくことを理解いただけるように、われわれも活動していきたいと思います。
渡邉理事長 これまで市長からいろいろなお話を伺ってまいりました。私たちも実際に2019年から伴走というかたちでスポーツを通じた地域の活性化やまちづくりに、ほんの少しだけ貢献させていただいたような気がしています。
アクティブシティ宣言をされたわけですから、これからますますエンジンの馬力を上げて推進力も高めながら前に進めていかなければいけないですよね。そうした意味では、笹川スポーツ財団は日々スポーツ分野のシンクタンクとして活動しておりますので、私たちが持っている知見を惜しみなく、こちらの活動に転用していただけますようにがんばってまいりたいと思います。
黑須市長 はい。
渡邉理事長 ぜひ、角田市民のみなさんには、「スポネットかくだ」を含めた角田市のスポーツ推進が全国1,740を超える自治体の中でもオンリーワンの政策・施策であることを理解していただきたいです。そして、そこに誇りを持ちながら、市民一人ひとりのみなさんがそれぞれの健康を確保する、さらに、地域を活性化していくまちづくりを進めていく、そんなところに向かっていっていただければと思います。
ぜひ、市長のこれからのリーダーシップとそれからみなさんの巻き込みとそこでの議論形成と実践を期待しております。本日は長時間にわたりまして、ありがとうございました。
黑須市長 ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。