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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

【東御市】テキスト版 花岡 利夫市長 対談

   スポーツをまちづくりへ
スポーツでアクティブなまちづくり 東御市

2024.2.7

東御市(長野県)
花岡 利夫市長 対談

〈主な内容〉

「適地適作・適地適政策、あるものをつなぎ合わせて、そこに住む人たちが“健康で人生を豊かに過ごせる”そんな地域にしていきたい」(花岡市長)

東御市は、長野県東部に位置する人口2万9,400人ほどの都市です。2004年に小県郡部町と北佐久郡北牧村が合併して誕生しました。東御市にある「湯の丸スキー場」は、首都圏からアクセスしやすい”天然パウダースノーリゾート”として知られ、かつては年間75万人を集客していましたが、来場者数は年々減少。スキー場のグリーンシーズンの活用方法を模索しているなかで、“標高1,750m”、“首都圏から3時間”、さらに“標高差1,500mを20-30分の距離で移動できる”地域性を活かしたまちづくりを開始。「日本で唯一の高地トレーニング用プール」をつくると、陸上用のトラックやトレーニングジムなど、日本有数の「高地トレーニング施設」を整備しました。

東御市のシンクタンクとしての役割を担う「身体教育医学研究所」では、トレーニング・食事・睡眠等の情報発信や環境整備を通じて、高地トレーニング施設に訪れるトップアスリートの競技力の向上に貢献。さらには、高地トレーニングの効果を地域住民の健康づくりに役立てるプログラムの開発・実践も行い、トップアスリートと地域の方々の元気をつくる橋渡し役として、「ライフパフォーマンス」の向上にも貢献しています。

適地適政策を大事にしながら、まちづくりを進める花岡市長に、東御市のスポーツによるアクティブなまちづくりについて詳しく教えていただきました。

1. 東御市 市勢概要

名寄市 市勢概要

花岡市長  東御市は、2004年(平成16年)4月1日、小県郡東部町と北佐久郡北御牧村が、千曲川を挟んで合併してできた人口3万人ほど、面積は112平方kmの小さな都市です。

「湯の丸スキー場」という非常に雪質の良いスキー場がありますが、観光にいらっしゃるお客様が右肩下がりという状況で、「グリーンシーズンにスキー場を活用」するには、高地トレーニングが良いのではないかと考えました。

2. GMOアスリーツパーク湯の丸

チャレンジデー

花岡市長 東洋大学OBの皆さんが集まって、オリンピックメダリストを指導、輩出してきた平井伯昌教授の講演会を企画されたことがありました。講演のなかで、高地トレーニングができるプールが日本に欲しい、どこかにあればというお話を聞き、これは手を挙げたらつくってもらえるのではと、喜び勇んで水泳連盟に連絡をさせていただきました。

渡邉理事長 その流れが、「GMOアスリーツパーク湯の丸」につながるわけですね。

花岡市長 平井監督のお話を聞いて、高地トレーニング用のプールというところから出発したわけですが、日本体育大学の杉田正明教授に施設を見てもらったところ、「400メートルトラックがあれば、中長距離の練習拠点になりうる」とおっしゃっていただきました。

現在では、全天候型400mトラック、林間800mジョギングコース、1km、1.5km、2.5kmのランニングコースを整備。半径500メートル以内に宿舎とグラウンドとプールと食堂がコンパクトにまとまっています。

渡邉理事長 建設に至るプロセスでは、紆余曲折があったと伺っております。

花岡市長 ちょうど国立競技場の3,000億円問題で、オリンピックにそんなにお金をかけるのはだめだという雰囲気が、日本中を覆った気がします。完成した施設を「どう維持するか」ということに関して、一定程度のコミットメントがないものがつくれないという雰囲気がありました。そこで、仮設でつくり、赤字が続くようなら体育館にするなど赤字が増えないような努力をしますといった話をして、補助金がとれなければ、寄附でつくっていくしかないといったことを考えながらの出発でした。

渡邉理事長 当初のイニシャルコストでは、地方債も起債されたのでしょうか?

花岡市長 イニシャルコストに関しては、13億円ほどの事業に対し、残念ながら5億5,000万円ぐらいしか集まりませんでした。そこで、約8億円の地方債を起債させていただきました。10年で起債を返済予定でしたが、5年で約10億の寄付が集まり、返済が可能になりました。

ランニングコストに関して、プロが泳いでいますのでプールにつきものの監視員という人件費がかからないということは、運営して初めてわかったことです。GMOさんにネーミングライツを取得していただき、運営に関してサポートをいただいていることも大変大きいです。

渡邉理事長 実際に東京2020大会では、このプールを使って練習をした大橋 悠依選手が2つの金メダルをとられましたし、木村 敬一選手をはじめ、パラリンピアンも複数メダルを獲得されていますので、まずつくられた効果が早速、東京オリ・パラで出てきた。加えて年間1万2000人以上の方が陸上・水泳を合わせると活用されているそうですね。

花岡市長 コロナ禍で海外に行けないという状態のなかで、日本で高地トレーニングができる場所ができたという情報が、アスリートたちの間ですごい勢いで広がったようです。

長野冬季オリンピックの際に新幹線が開通し、高速道路も整備されたことで、実は東御市は、高速道路のインターチェンジから20-30分かからないで上がってこられる場所にあります。長野冬季オリンピックのレガシーとして湯の丸があって、東京オリンピックパラリンピックのレガシーとしての施設が整備されました。

渡邉理事長 1998年のレガシーと、東京2020のレガシー。四半世紀を隔てて2つのレガシーが今、ここで合体して結実したような場所なんですね。

GMOアスリーツパーク湯の丸

花岡市長 パリオリンピックに向けての「JOC認定特別強化センター」にも指定していただいています。

渡邉理事長  お話を伺っていますと、今はまだどちらかというと、トップアスリートの方が“ハイパフォーマンス”を求めて、ここで合宿をされているかと思います。一方で、インナー政策で住民のスポーツの習慣化や健康づくりというのも必要になってくると思うんですね。

花岡市長 水泳と陸上の高地トレーニングの練習場があることが湯の丸の特徴です。陸上の日本人チームと、水泳の日本人チームが出会い、日常茶飯事に意見交換できるというのは貴重な場所です。そのなかで、科学的なエビデンスがとれ始めています。

標高500mと750mで、2つのグループに分かれて、1週間に3回ずつ同じ時間歩くことを繰り返した結果を、身体教育医学研究所で研究してくださり、そのデータから、明らかに湯の丸チームの方が成績がよく、「高地トレーニングは健康づくりに密接に関連している」ことがわかってきました。

身体教育医学研究所の皆さんのお陰で、運動することの「科学的エビデンス」と合わせて、自信を持って健康のために運動しようという市民が増えてきているような気がしています。

渡邉理事長 今、スポーツ庁のスポーツ政策でも、トップアスリートのサイエンスに基づく科学的な知見を、健康増進を図るという意味合いで、一般の人にも適用していきましょうという流れになっています。ですから、トップアスリートとはハイパフォーマンスですが、一般の方はライフパフォーマンスを高めようということで、これからスポーツ政策にも「ライフパフォーマンス」という言葉が数多く出てくると思います。

3. 身体教育医学研究所

ケアポート みまき

渡邉理事長 「身体教育医学研究所」が、やはり東御市民の健康づくりにおけるいわゆる“シンクタンク”になるのでしょうか?

花岡市長 はい。もともと合併前の旧北御牧村には、「ケアポート みまき」(みまき福祉会)がありました。これは、高齢者のプライバシーが守られる特養というような考え方を、日本財団さんが日本に持ち込み、日本に建設された「ケアポート」のうちの一つです。

水中歩行など、体重の負荷を軽くしながら運動を継続することが転倒予防につながることがわかりました。またそれらの取り組みから、高齢者の医療費が日本のなかでも驚異的に縮減されたことで脚光を浴びました。そういったなかで、身体と医学と教育を研究する「身体教育医学研究所」が設立されました。

信州やまほいく

それから、私も聞いたときは驚きましたが、都会と田舎の子どもを比べると、都会の子どもの運動量の方が3割ほど多いという研究結果があるそうです。都会の子どもの方が、日常的に電車を使うなど、歩くことが田舎の子どもより多いことが大きな要因です。東御市の子どもたちの運動量が足りていないと提唱していただき、「信州やまほいく」の一環を東御市でも担わせていただくようになりました。

具体的には、保育園の園庭を芝生にして、子どもたちが裸足で走り回ったり、転げまわったりして運動量を増やしていくといったことですね。

渡邉理事長 東御市さんにとっても、身体教育医学研究所は非常に大きな力になっているんですね。

花岡市長 行政の言うことよりも、身体教育医学研究所の皆さんの言うことだったら、素直に聞けるみたいなところがあります。

ボッチャのまちづくり

渡邉理事長 東御市では、ユニバーサルスポーツを普及していこうと「ボッチャのまちづくり」を進められているともお伺いしました。

花岡市長 実はまだ日本チームがリオでメダルをとる前だったのですが、パラリンピックメダリストの杉村英孝選手に来ていただいたり、また呼びかけてボッチャの道具を寄付していただいたりしたことがあります。湯の丸をつくるときにも成田真由美さん、河合純一先生にも来ていただきました。パラということの大切さということに関して、子どもたちもすごく感じてくれていると思います。

渡邉理事長 共生社会をつくろう、共助社会をつくろうという礎になりますね。

4.チャレンジデー

チャレンジデー

チャレンジデーとは

毎年5月の最終水曜日に行われる住民総参加型のスポーツイベント。全国の地方自治体を対象に、人口規模がほぼ同じ自治体と1日15分以上の運動スポーツ参加率を競う。「住民の健康づくり」や「まちの活性化」を図ることを目的に、笹川スポーツ財団が1993年からコーディネートを行う。

渡邉理事長 2014年からは笹川スポーツ財団が全国で展開していたチャレンジデーにご参加いただくようになりました。

花岡市長 色々なデータから、チャレンジデーに参加している市町村の方が、参加していない自治体よりも市民の運動量が増えているというデータも見せていただき、そのとおりだと思い参加しましたね。

チャレンジデーのお陰で、日本体育大学の当時の具志堅学長にも、体操部の皆さんにも来ていただき、小学生や保育園の子どもたちと触れ合っていただいたり、機械体操の必要性を教えていただいたり。

渡邉理事長 資料を拝見すると、日本体育大学と具体的な連携協定も結ばれたそうですね。

花岡市長 はい。日体大の生徒さんたちの合宿に来ていただいたり、高地トレーニングに使っていただいたりしています。

渡邉理事長 昨日体育館にお邪魔しまして、日体大の体操部の方々約100名が全体練習しているのを拝見しましたが、総合型地域スポーツクラブ「Sany TOMI」で教えられている方も、日体大で合宿を経た方々だそうですね。

Sani TOMI

花岡市長 合宿で来ていた方が、地域おこし協力隊で来てくださって、「Sani TOMI」を皆で立ち上げてくれました。今、部活の指導者の民間移行も盛んになっていますが、その指導も担ってくれています。チャレンジデーが契機で日体大、日体大が契機で地域おこし協力隊。そしてSani TOMIを立ち上げていただき、そこを軸にしながら身体教育医学研究所と協力して色々な運動を地元に根付かせていただいています。

渡邉理事長 どこへ行ってもスポーツ協会さん、総合型のスポーツクラブや民間のフィットネスクラブがあり、それぞれが相応の社会貢献されていると思いますが、なかなかそこに横串が刺さっていないといいますか、情報共有があまりされていないと感じています。もっと大同団結して、自治体の色々な主体が一緒になってスポーツプラットホームをつくった方がいいのではないかという話を触れ回っています。

実際に宮城県の角田市で実証実験をやっていますが、そういった文脈で今後こんな政策はどうだろうかということを私が提案させてもらうとすれば、チャレンジデーのときに実行委員会つくられましたよね。

市長さん、首長さんが実行委員長になって商工会とか地元の青年会議所だとか、あとは福祉医療関係とか、ぜひあれをこれからのスポーツによるまちづくりのプラットホーム化してもらえると、いわゆる産官学民の連携がそこで図れて、お互いの強みを共有し、一緒に推進していけると、もっと良くなるかなと思います。

花岡市長 せっかく実行委員会がありますので、ぜひ生かしていきたいと思います。

5.市民の皆様へメッセージ

花岡利夫市長 市民の皆様へメッセージ

花岡市長 東御市の誕生から10年ほどは、「さわやかな風と出会いの元気発信都市」が私たちのキャッチフレーズでした。それから10年、20年の歩みのなかで、「田舎でいいよね」「田舎がいい人集まろうよ」と感じ、人と自然が織りなす幸せ交流都市ということで、今は「ほどよく田舎」をキャッチフレーズにしています。

自然を大切にして、脱炭素地球に優しくて、そこに住む人たちが“健康で人生を豊かに過ごせる”。そんな地域にしていきたいというふうに思っています。あるものはあるけれどないものはない。“あるものをつなぎ合わせて良い場所にしていきたい”という思いでいっぱいです。

渡邉理事長 本日はお忙しいなか、お時間をいただきありがとうございました。

花岡市長 どうもありがとうございました。