2023.11.6
雲南市(島根県)
石飛 厚志市長 対談
2023.11.6
雲南市(島根県)
石飛 厚志市長 対談
「地域づくりは人づくり。雲南市の一番の財産は人間関係の濃密さ」(石飛市長)
雲南市は、人口約3万6000人。中山間地域にあり、人口の約40%が65歳以上の高齢者。年々高齢化が進んでおり、高齢化率は、全国平均の10年先を行きます。しかしながら、子どもから高齢者まで市民の運動の習慣化は進んでおり、医療費の高騰も抑えられていると言います。また、部活動の地域移行が大きく叫ばれる中で、子どもから高齢者までが1カ所に集まり運動スポーツにアクセスできる環境づくりもすでに整備されつつあります。しかも、幼少期の遊びや運動体験と、その後の学力や生活との関係性を経年で調査しているなど、データを活用したスポーツ促進も進んでいます。
地方が抱える様々な課題に対して、自治体が司令塔となり市民みんなでそれを一つ一つ着実に解決させているようにも見える雲南市。「人づくり」が政策の大きな柱だという石飛市長に、雲南市のアクティブなまちづくりの秘訣を教えていただきました。
石飛市長 雲南市は、人口が約3万6000人弱というところでございまして、昔、6町村が対等合併してできた新しい市でございます。そうした中で、この地域の皆さんの住民の力によって、中山間地域で元気になっていこうということで、チャレンジ条例なるものもつくって、みんなで新しい挑戦をしていこうと、そういう町かなと思っております。
毎年5月の最終水曜日に行われる住民総参加型のスポーツイベント。全国の地方自治体を対象に、人口規模がほぼ同じ自治体と1日15分以上の運動スポーツ参加率を競うスポーツイベント。「住民の健康づくり」や「まちの活性化」を図ることを目的に、笹川スポーツ財団が1993年からコーディネートを行う。
石飛市長 第1回目から全ての会に参加させていただいたわけでございます。その結果として、この運動習慣、週に1度は運動をするという人の割合が大体3人に1人は、習慣づけができてきたと、そのように思っております。雲南市の特徴として、中山間地域に特徴的な高齢化が進んでいるという特徴がございます。大体、人口の40%が65歳以上の高齢者ということでございます。地域の運動推進指導員、そうした方々に協力もいただきながら、高齢者向けの取り組みというものを進めているというのが一つの大きな特徴かなと思っております。もちろん、地域の総合型のスポーツクラブで、子供のころからの運動習慣ということにも取り組んでおりますが、そうしたこととあわせて、子供から高齢者までを巻き込んだ活動として展開しているのが特徴ではないかなと思っております。
石飛市長 島根県の中で最もいわゆる自立期間が長い、あるいは平均寿命が長い。そうした具体的な成果が出ている地域であったということもありまして、そうした取り組みを今後より推進していくという中で、東京大学の武藤先生の御指導もいただきながら、この身体教育医学研究所の立ち上げにつながったところでございます。
渡邉理事長 幼児の頃のいろいろな遊びや体験がその後の運動スポーツだけではなくて、学業や生活にどのように結びついていくのか、経年で調査を行っているのは特徴の一つですね。
石飛市長 一般的に私が言うよりもしっかりとしたエビデンスを持ってその数字なり、結論を持って今、学術論文としても発表いただいておりますが、しっかりと発信していくということは、とても大切かなと思っております。そうしたことをしっかりと国の方でも取り上げていただければ、また新たな運動の位置づけ、あるいはやり方というようなものも出てくるのかなということを期待しております。
特に高齢者の健康づくりというのは非常に幅が広い。例えば、肺炎だったり、あるいは虚血性の疾患であったり、最近は認知症も問題が起きている。そうした中で、身体の健康、筋力を維持することは、転倒防止を図り、自立期間を延ばし、健康づくりに大きな影響を及ぼす。そういった意味で、身体運動としての健康づくりを進めているところでございます。その影響もあって、一人当たり医療費があまり高騰をせずにしっかりとして継続的に運営できているというのも事実としてあるのかなというふうに思っております。
高齢化も10年先進ですけれども、課題解決の先進地を目指して取り組んでおります。
身体教育医学研究所は一つの大きなシンクタンク的な位置づけというふうに思っております。ただ、単に教育をするだけではなくて、実践に移していく。例えばボッチャとかですね。誰でもできるユニバーサルスポーツそうしたものの普及とか、そうした実践と研究というものの両輪をしっかりと回していただいていることで、市における健康づくり、それの一つの核になっていただいているんじゃないかと私は思っております。
私ども雲南市は小規模多機能自治ということを進めておりまして、その担い手が地域自治組織という組織がございます。そこを中心に運動会とかさまざまスポーツをする機会を設けております。そういったところに、この身体教育医学研究所が誰でもできる運動、そして楽しくできる運動として、ボッチャのほかにも、さまざまなレクリエーションスポーツ、そういったものも地域に広めて、御指導もしてきております。
渡邉理事長 今、いろいろな社会課題があると思いますけれども、キーワードはやはり地域連携なんですよね。一つはお役所の中の縦割りに横串を刺すということと、お役所が司令塔になって地域の各種団体とか人とどうやって連携協力体制をつくっていくかといったことが大事だと言われております。
石飛市長 地域運動指導員さんが新しいメソッド、レクリエーションであったり、スポーツ吹き矢みたいなものを持ち込んで、そこの地域の皆さんと協力してやっていくという形を現状とっているわけです。そのスポーツ推進運動指導員さんの後ろには、身体教育医学研究所がおられて、そこがしっかりとサポートしていくというような多層的な取り組みになっているわけでございます。
地域をつくっていくというのは、すなわちそこにおける人をつくっていくということでございまして、そこにおける地域の活性化をするためには、どうしてもそこで核になる人材を育成する。これがやはり一番大きな肝であるというふうに思っております。この雲南市にはいろいろな誇るべきものがございますが、やはり一番の財産は人間関係の濃密さ、地域コミュニティーの強さ、そこが一つの大きな魅力なんですね。そういった力を今後の新たな課題に対してしっかりと発揮していく。そのために必要な人材をつくっていく。これが雲南市の政策の基本の柱になっていると思っています。
石飛市長 子供たちのスポーツに触れる機会を増やす。これのための地域移行ではないかなと思っております。一つの学校で野球がチームを組めない。そういう学校もあるわけですね。子供たちはどの学校に通っても好きな競技ができる。そうした環境を整える必要があるんだろうと思います。スポーツ庁の助成もいただきながら、部活動の地域移行の取り組みはわりと先進的に進めているのかなと思っておりまして、令和4年、昨年度はですね、吹奏楽それからソフトボール、レスリング、それからテニス、競泳、この5種目でですね、一緒にやるという取り組みを進めてまいりました。今年度は10月から全ての競技、全ての部活動を一緒にやっていくという取り組みを始めようというふうに思っております。ただ、こういうことをやろうと思いますと、なかなか指導者の確保というのが一つの課題だという風に国の方で上がっておりますので、昨年こういうことをやるので、地域の皆さん協力してくださいというお話をしましたら、13競技の54名、もうそれだけの方が手を挙げていただいて協力するよと言っていただいています。
これだけの地域の皆さんの協力も得ることができてきておりますので、部活動の地域移行を進めていきたいなと、そのように思っております。
渡邉理事長 私も笹川スポーツ財団の立場で国の政策形成に携わっているんですが、指導者人材の問題、受け皿の問題、それからもう1つは財源の問題と、この3つが3種の神器のような難しい問題として全国の自治体に横たわっています。
石飛市長 核となる存在がやはり必要かなと、現在、ラメールという文化施設であったり、B&G財団のプールであったり、体育館であったりを管理していただいている、キラキラ雲南という、第3セクターがあるんですね。そこにはいわゆるスポーツの指導の資格を持った方も何人もいますし、例えば吹奏楽であればプロの方をお呼びして指導いただくような、そういうノウハウを持っていたり、そこが中心となって、地域の方、プロの方、さまざまな方々をコーディネートしながらつくっていくということが今のところ私が目指している姿かなと思っております。
雲南市には中学校が7校あり、面積530平方キロぐらいあるんです。単純にいうと、東京23区と同じ面積があるんです。そうしますと、その子たちをどうやって集めるか。学校が終わってからみんなが一緒に集まる。そのための方法を、今本当に悩んでおります。そのためには、当然手段も必要で人も必要ですね。ただ、これを実現しなければ、本当の意味での地域移行っていうのができていかない。幼稚園、小学校、そして中学校、高校、社会人、そして私のような高齢者含めて、一つのクラブ活動みたいな形でつながりを持った体制ができるとですね、本当の意味でのスポーツの文化というのが地域に根付く、そうしたのを何とか早く実現したいなと思っております。
石飛市長 雲南市は課題の先進県であると同時に、その課題の解決の先進県になろうと、そうすることで、この雲南の地域を守っていこうという考えが根底にあります。行政との協働、協働のまちづくりという言葉を掲げてやっております。そうした協働のまちづくりをすることによって、さまざまなチャレンジいわゆる課題解決をみずから一緒にやっていこうという取り組みを進めているところでございます。
それを行政としては、さまざまな形で支援をしていくということを、これまでしてきております。去年ですと、例えば物流を改革しようと中山間の物流、道は大回りしますが、ドローンを飛ばせばすぐ運べますよね。それで、ドローンを使った食料品の配送の実験もしております。
あとですね。疾病の予防という観点で、今雲南市で進んでいるコミュニティーナースというものは、病気になる前に看護職の知見を生かして予防的な活動をしていくという取り組みがコミュニティーナースカンパニーと、郵便局さんと、それから地域の自治組織が連携をすることでそうした取り組みを「地域おせっかい会議」と言っているんですが、病気じゃない方におせっかいをする、その方の困っていることに対してアプローチをすることで、その病気を未然に防いだり、家の引きこもりをなくしていったり、そういった活動が実は始まっていて、これも全国展開しております。
石飛市長 チャレンジデーという取り組みは、今年で最後を迎えたということでございますが、これまでつないできた健康づくり、運動スポーツの推進、そうしたことを延長線上に、本当にスポーツが文化として皆さんの生活の中に溶け込み、そしてその生活を豊かにしていく。そうした地域づくりを進めていきたいと思っておりますので、本当に市民の皆様のこれからの協力もお願いしたいと思っております。
渡邉理事長 チャレンジデーは30年を超えて一旦ここで笹川スポーツ財団も一区切りをしようと、これからは個々の自治体としっかり密に連携しながらですね。そこのスポーツ推進、スポーツによるまちづくりを笹川スポーツ財団としても積極的に応援していきたいと思いますので、ぜひこれからも一緒にですね、雲南市におけるスポーツまちづくりを推進していただきたいと思います。今日は長時間にわたりまして、どうもありがとうございました。
石飛市長 どうもありがとうございました。