主な講義内容
女性のためのラン祭り「RunGirl★Night(ランガール★ナイト)」は、15人の女性市民ランナーが集まり2010年に立ち上げた。女性が楽しめるうれしいイベントづくり、メディアを巻き込み協賛金を集めたブランディングとPRの秘訣を紹介する。
女性のためのラン祭り「RunGirl★Night(ランガール★ナイト)」は、15人の女性市民ランナーが集まり2010年に立ち上げた。女性が楽しめるうれしいイベントづくり、メディアを巻き込み協賛金を集めたブランディングとPRの秘訣を紹介する。
2010~2018年にお台場で開催した1,000人規模の女性ランナーが参加するランニング大会。ランニングのパートに加え、アフターパーティーのパートがあるのが最大の特徴。
アフターパーティーでは、ランニングとフィットネスウエアのファッションショーを開催し、いまだかつてない試みとして各業界から注目された。
ランニングは、仲間に「走ってる?」と聞いて、互いに走っているのが分かると、すごく親近感がわくスポーツ。ラン友として一緒に走っていた宇田川氏と影山氏が「女性が出場したくなるような大会をつくろう」と考えたのがランガール★ナイトのはじまり。当時のマラソン大会は更衣室が整っていないなど男性目線のものが多く、「おしゃれ」というイメージとはかけ離れているように感じていた。
できるだけ影響力のある、パワフルな人たちに声をかけたところ、PR、編集者、ウェブデザイナー、カメラマン、スタイリスト、モデル、ライター、ラジオディレクター、ジャーナリスト、元銀行員らなど多様な職種の仲間が集まった。それぞれ特化したスキルを持っている人が多く、お互いのスキルを尊重して、足りないところを補い合うことができた。
走っている女性たちはパワーがある。集まった多くが30代の女性で、経済的にも、プライべートでも少し余裕があり、自分たちが得たもの、あり余るエネルギーを社会に還元していきたい、という志も持っていた。
宇田川 佳子 氏
大会づくりに関しては、全員がボランティアと決めた。メンバーが女性であるため、結婚、妊娠、出産、転職、離婚などライフスタイルの変化があり、大会への関与の度合いはバラバラ。できない人をフォローし合って大会を運営した。報酬が得られなくても、各々の本業のキャリアに活かせる人脈や経験を得られるようにした。
(1)TwitterによるPR
PR で最初に始めたのがTwitter。素人の女性たちが手探りでランニング大会をつくり上げていく様子をツイートした。このツイートがもとで、ベルメゾンを展開している大手通販会社の千趣会と、au ブランドで知られる大手通信会社のKDDI が特別協賛してくれた。
アフターパーティーの演出を監修してくれた方や、ランニングのタイムを記録してくれる計測会社もTwitter でつながった。当時のPR はマスコミ各社にプレスリリースを出すことが主流だったが、ちょうどTwitter の成長期と、ランガール★ナイトの立ち上げ時期が重なり、それをうまくリンクさせ活用することができた。
影山 桐子 氏
(2)コンセプトは「打ち上げ付きの大会」
頑張って走って、レースが終わったら「はい撤収、帰ってください」と言われるのがこれまでのマラソン大会。これでは余韻を楽しむことができない。走ったあとはアロマの香りがする中で、芝生に寝転んでヨガをしたり、ファッションショーが見れたらよい、と新しくつくる大会をイメージした。そのとき、余韻を共有するためにアフターパーティーは欠かせないと考えた。
女性はいろいろなモチベーションで走る。「走って痩せてきれいになりたい」「おしゃれに走りたい」という意見に基づき、「ファッション」と「ビューティー」をキーワードに掲げた。さらに、女性は日焼けが気になるので、日焼けが気にならない時間帯に走ることに決めた。こうして「東京」「夜」「女性」というキーワードがそろい、大会名が「ランガールナイト」になった。
(3)イベントの“顔”をつくる
メンバーのモデル、スタイリスト、カメラマンが東京タワーの近くで大会をイメージするビジュアルを撮影。「東京で、夜に、女性が、おしゃれに走る」というイメージをビジュアル化した。「私たちがやりたいのはこれです」と分かる顔を最初につくった。
キラーカラーは女性を象徴するピンクとし、女性の大会を印象付けるように、会場の要所、要所にピンクを配した。サブタイトルを毎年つくり、ビジュアルを撮影した。たとえば第4回大会のサブタイトルは「ラン&ピクニック」。このタイトルを喚起させるようなイメージを芝生の上で撮影した。
(4)協賛金集め
Twitter経由で獲得した2社以外は、自分たちで企業をまわり協賛を依頼した。スポーツブランドはこのような大会の場合、1社提供が鉄則だったが、競合を排除しないという方針で協賛を募り、複数の社から協賛を得た。ファッションはいくつものブランドから選べるべきだ、というコンセプトを各ブランドに理解してもらった。
(5)メディア向け練習会
メディア向け練習会を開催し、走る喜びを体験してもらったところ、取材の依頼が増えた。初年度で女性誌やランニング専門誌など雑誌24誌、新聞9紙、テレビ1局、ラジオ10局、ウェブ5媒体の取材を受けた。東京マラソンの参加者3万人に対し、ランガールナイトの第1回大会の参加者数は500人。協賛を得るために、メディアへのPR に力を入れた。
(6)ロケーション
ランニング大会は公共の道路を走るので、使用許可を取るのが難しい。最初は表参道で開催しようとしたが断念。最終的に大きな公園を使用させてもらえるお台場に決定した。ランニング大会は屋外で、アフターパーティーはビルの中に会場を借りて開催した。
(7)参加者集め
インフルエンサーに出場を働きかけ、戦略的に参加者を募った。女性向けファッション誌、美容誌など感度の高い人が手にするような媒体を選んで募集し、500人を集めた。またゲストランナーをたくさん呼び、実際に一緒に走ってもらった。
一般の参加者のターゲットは初心者に定め、距離は5キロ、10キロと短く設定した。ランニングを始めておしゃれなランニングウエアを買うと、それを披露する発表会が必要になる。それにふさわしい大会を提供しようと考えた。
ランガールグッズ
(8)イベントでのさまざまな仕掛け(第1回大会)
柴田 玲 氏
メンバーがスポーツのプロでなかったことがプラスに働いた。PR やメディアの関係者が多く、常にPR 目線で発信していったことが功を奏した。常に新しい企画を考え、毎年中身の異なる大会にした。自分たちをどんどんアップデートすることで、商品価値やブランド価値を維持することができた。
第1回大会を開催した半年後に東日本大震災が起き、第2回大会の開催も危ぶまれたが、こんなときこそランナーのパワーで何かできるのではないかと考え、チャリティーを含めて大会を開催した。
自然に逆らうのはやめようと考え、天候のリスクを考え、屋内会場を併設するのを途中からやめた。協賛企業には「(雨でも開催する)フジロックフェスティバルと同じです」と言って納得してもらった。実際には、9年間で荒天による大会中止はなかった。
女性は感覚の生き物で、「何かいいよね」、「何かダサいよね」という感覚や気分を大事にする。メンバーが女性であったことで、女性が本当に好きなものを、女性ならではのチューナーで分かっていた。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備に入ってコースが使えなくなったこと、10年前に比べて女性向けのランニング大会が増えてきたことにより、ランガール★ナイトは2018年大会で終了とした。ある程度、役割は果たせた、という満足感もあった。現在は以下の二つの活動に力を入れるとともに、次世代のランナーを育て応援するため、ランガールの妹分的存在の「ランガール・フォー・ガールズ」を始動。
(1)ラン・アンド・セーフティー
走りながら町の見守りをする防犯活動。2019年9月、この活動に関する協定を東京都と締結し、小池百合子都知事と協定式を行った。光るアームバンドを作製し、配布した。
(2)ラン・アンド・クリーン
走りながら町のごみ拾いをする活動。かわいいほうが気分は上がるので、ピンク色のグローブとごみ袋をつくった。
(講師)今、20代はフィットネスが好きでランニング人口は少ない。ランニング人口は圧倒的に、40、50代の女性が多い。それでも今、20代で新しいランニングコミュニティーというのができ始めています。そういう人たちは皆さん、インスタグラムで情報を発信しています。その中に影響力のあるランナー、かわいい女の子たちがいるので、そういう人たちをうまく巻き込むことで、20代の方々にランニングの良さを伝えていきたいと考えています。
リレーは何度も検討しましたが、実現しませんでした。リレーは人数を集めないと参加できないので、私たちがターゲットにする初心者には少しハードルが高いと考えました。ランガールナイトであれば1人でも2人でも10人でも参加できます。
(講師)帰宅ランというのはまだブームになったことがないから、「ただのランナーじゃない」ということが分かるとよいと思います。帰宅ランをしている女子が多い、ということを見せていくことも必要になってくるはずです。