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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2018 第5回

「スポーツにおけるメディアトレーニング ーアスリート・競技の価値向上のためにー」

片上 千恵氏

帝京大学経済学部経営学科 スポーツ経営コース専任講師 片上 千恵氏

2018年第5回スポーツアカデミーが12月11日開かれました。
今回は帝京大学経済学部経営学科スポーツ経営コース専任講師の片上千恵氏にご講義いただきました。

主な講義内容

スポーツ選手はソーシャルメディアを含めたさまざまなメディアを通じてファンとつながっているが、メディアへの対応ひとつで、そのアスリートや競技に対する評価が高まったり、逆に下がったりすることがある。発信したい情報をメディアに的確に伝えるための考え方やスキルを学ぶメディアトレーニングとは何か。メディアトレーニングの意義と現状を紹介する。

1.よいインタビューとは

(1)バーバル(言語)
「応援よろしくお願いします」などの常套句に逃げず、自分の意見を自分の言葉で語ること。具体的なエピソードが豊富で分析的であること。勝負へのこだわりや周囲への感謝の気持ちなどの要素が入ると、見ている人にいい印象を与える。

(2)ノンバーバル(非言語)
姿勢が堂々としている。声に張りがあり、届ける意思がある。相手とアイコンタクトが取れている。「えっと」とか「そうですね」とか無駄な口癖がなく、語尾まで明瞭に話す。表情や手ぶりが豊かである。服装も見ている人の印象を大きく左右するので、試合や練習の直後でなければ、身なりにも注意を払う必要がある。

2.メディアトレーニングとは

あらゆるステークホルダーに対してメッセージが的確に伝わるよう、インタビューや会見で主導権をとる方法を取得すること。まずはメディアが自分にとってどんな影響力があるのか、メディアが形成するイメージがどれほどの影響力を持つのかを理解する。基本的なコミュニケーションスキルを習得する。みんながあこがれるようなロールモデルとは何かを知る。競技内外でのリスクをシミュレーションしてリスクマネジメントを知る。

90分~2時間のプログラムでは、メディアトレーニングはなぜ必要なのかを受講者で考えるところから始める。印象的なインタビューを見せ、なぜ印象的かを考える。事例を踏まえた上でバーバル、ノンバーバル両方から注意点を与え、必ずロールプレイをする。最後にファン、メディア対応の注意点をおさらいする。

3.メディアトレーニング事情

メディアトレーニングが生まれたとされるアメリカでは、米国オリンピック委員会(USOC)の中にメディアトレーニングを専門に扱う部署があり、競技者や広報担当者、コーチに対しメディアトレーニングの重要性を定期的に教えている。多くのプロスポーツ組織でも、新人研修でメディアトレーニングを実施しており、NCAAでも多くの大学がメディアトレーニングのプログラムを選手に提供している。

日本でもJリーグやBリーグが新人研修でメディアトレーニングを行うようになった。女子プロゴルフもスポンサーはじめファンやメディアへの対応教育に熱心で、アマチュアスポーツもナショナルトレーニングセンターのキャリアアカデミー部門でメディアトレーニングを実施している。

4.メディアトレーニングの必要性

(1)メディアの傾向
メディアは大げさに伝えたがる。はっきりさせたがる。ライバルと比べたがる。競技と関係ない話をしたがる。このようなメディアの傾向をつかみ、対応策を練ることが大事になる。一流選手は自分がどう見られているのかを自覚し、あいまいなところをうまく説明する。

(2)不祥事対応
不祥事を起こした場合、発言ひとつで選手生命が奪われかねない危機にさらされる。まずは自分たちの肩書き、立場を自覚する。いま置かれている状況、なぜ自分がいま情報を発信しなくてはいけないかを理解する。事実を述べる。気持ちをこめて謝罪の意を伝える。危機管理対応として、「問題を察知する力」、「防止策(リスクマネジメント)」、「問題が起きたときの対応力」の3つが求められる。

(3)スポーツの価値を高める
すぐれたインタビューはメディアを鍛え、スポーツジャーナリズムを育て、競技の発展・価値向上につながる。

質疑応答

Q.(フロア)プロ野球のドラフトで指名された高校生を見ていて、複数の選手が同じような“いいこと”を言っていて、そこにメディアトレーニングの存在を感じた。だれかにこう言えと指示されているのが透けて見えないようなアプローチはないのか。朴訥(ぼくとつ)というか「あの」とか「えっと」という言葉が多少出てくる人も、それは個性でいいのではないか。
A.

(講師)個性は大事だが、伝わらないと意味がないので、最低限のコミュニケーションスキルは必要である。(インタビューで)しゃべらないのをみんなが楽しみにするような選手がいるのも事実。競技力が突出している場合は、このようなケースがあってもいいと思う。

Q.(フロア)ある競技団体で広報を担当している。囲み取材をしたところ、記者たちがみんな選手ではなく、(知名度の高い)会長のところに集まってしまった。選手たちに取材してもらうために、どのような戦略を練ればいいのか。
A.

(講師)メディアは話題性のあるほうにいってしまうので、選手をインタビューする機会をしっかり作る、あるいはSNSを使って戦略的に選手から情報を発信させるなどの環境を、広報で整える必要がある。(うまく取材をしてもらうために)広報スタッフがメディアに対し、味方になってもらうような関係性を築いておくことも大事だ。

スポーツアカデミーの様子