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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2018 第4回

「ウォーキングサッカーを楽しもう! ~みんなを笑顔にする魔法のスポーツ~」

松田 薫二 氏

公益財団法人日本サッカー協会 グラスルーツ推進グループ長 松田 薫二 氏

2018年度第4回スポーツアカデミーが11月7日に開かれました。
今回は公益財団法人日本サッカー協会グラスルーツ推進グループ長の松田 薫二 氏にご講義いただきました。

【当日の概要報告】

※以下の報告は、当日資料と合わせてご覧ください。

主な講義内容

日本サッカー協会では、子どもからお年寄り、性差や障害の有無、サッカー経験の有無を超えて楽しめるウォーキングサッカーを推進する取り組みを始めた。スポーツを通じた社会課題解決のひとつの手段として期待されるウォーキングサッカーの現状と可能性を紹介する。

1.ウォーキングサッカーとは

(1)誕生
イングランドのサッカークラブが2011年、55歳以上の人たちの健康増進を目的に「歩くサッカー」を始めた(現地ではウォーキングフットボールと呼ぶ)。イングランドでウォーキングサッカーを取り入れているクラブは14年には124クラブ、現在は1000クラブを超えている。イングランドだけでなく他のヨーロッパ各国にも急速に広がっている。

(2)ルール
ウォーキングサッカーのルール

イングランドでは、統一のルールのもと、競技会が行われている。1チーム6人で、ヘディングや接触プレーは禁止、オフサイドはなく、競技名の通り走ってはいけない。ゴールエリアに入れるのはゴールキーパーのみで、ゴールキックはなく、アンダースローでボールを投げ入れるなど、サッカーに比べて安全かつ緩やかにプレーできるルールとなっている。

2.日本サッカー協会の取り組み

(1)JFAグラスルーツ宣言
日本サッカー協会は2014年に「JFAグラスルーツ宣言」を行い、年齢、性別、障害、人種に関係なく、だれでもサッカーを楽しめるような環境づくりに力を入れた。こうした活動の背景には、小学5、6年生のサッカー協会登録者数が1学年で約9万人、これが18歳になるとおよそ1万人にまで減ってしまうというように、多くの子どもたちがサッカーから離れてしまう現実があった。

日本サッカー協会が実施しているさまざまな取り組みの一つに賛同パートナー制度がある。「引退ゼロ」、「補欠ゼロ」、「障害者サッカー」の3つのテーマに賛同するクラブを賛同パートナーとして認定し、より多くの人がサッカーに親しめるような環境づくりをしている。

(2)日本におけるウォーキングサッカーの広まり
「JFAグラスルーツ宣言」を受けて協会内に発足したグラスルーツ推進班は15年からウォーキングサッカーの普及に取り組み始めた。17年には福島県南相馬市のNPOはらまちクラブでウォーキングサッカーの定期プログラムがスタートし、18年には日本サッカー協会がJFAハウスで月1回のプチリーグを開催、現在は3チームが参加している。

(3)ウォーキングサッカーの意義
世界で類を見ない急速な高齢化が進む日本は認知症大国でもあり、社会的なコストの増大が確実視されている。認知症予防には有酸素運動などが有効と言われており、体を動かす人を増やすことで、こうした社会課題の解決に貢献することが期待される。

エリート選手の競技力向上だけを考えていてはスポーツ文化は育たない。多くの競技者、指導者、審判をかかえる競技スポーツ界が生涯スポーツのあり方、スポーツを通じた社会貢献のあり方を考えて行動すべきである。

質疑応答

Q.(フロア)ウォーキングサッカーはどうすればもっと広まっていくのか?
A.

(講師)現状はまだまだであるが、今後は行政が予算をつけるとか、健康産業の企業が関心を示してタイアップするなど、期待はある。まずはウォーキングサッカーを知ってもらうようなイベントや体験会を増やし、それがきっかけとなって行政や企業、クラブや施設が関心を示してくれたらと考えている。クラブや施設であれば、利用頻度の低い平日昼の時間帯に高齢者向けのウォーキングサッカーのプログラムを提供し、施設の有効利用を促すこともできる。

Q.(フロア)イギリスにはサッカークラブがたくさんあり、クラブの活動の一環としてウォーキングフットボールがある。日本ではなかなか難しいのではないか。
A.

(講師)すぐできるとは思っていないが、こういうことは理想を掲げないとできないと思う。このスポーツが本当に楽しいと実感した人たちがクラブを作ったり、フットサル場を作ったりするかもしれない。マンションやファミリーレストラン、老人ホームなどを建てるときにウォーキングサッカーができるフットサル場を併設する、というようなアイデアも出てくるかもしれない。まずは理想を掲げることが大事だと考える。

Q.(フロア)ウォーキングサッカーを広めるにあたり、最初にどんなハードルがあるのか。また、指導者やまとめ役にははどういう人を活用しているのか。
A.

(講師)最初のハードルは「知られていない」ということ。サッカーというイメージがあるので、サッカーの未経験者はアレルギー反応があるだろう。体験したら大丈夫だと分かるので、体験会やイベントが一つの切り口になる。また、コーディネーターのような人材の育成が必要と考えている。将来的に競技会を開くことになれば、審判の養成も必要になるが、現状はまず知ってもらうという段階。

Q.(フロア)ウォーキングサッカーを楽しみ、継続してもらうためにも、毎回同じ人とゲームをしていてもマンネリ化してしまう。クラブとして活動する中でも技術を高めるようなメソッドが必要ではないか。
A.

(講師)高齢者でも技術は向上するので、基本的な技術指導は必要だと思う。チームが増えていけば対戦相手も増えてモチベーションも高まる。試合をする環境がないとクラブのアイデンティティーは育っていかないと思う。

ウォーキングサッカーの様子1
ウォーキングサッカーの様子2(写真提供:はらまちクラブ)

写真提供(右):はらまちクラブ