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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2016 第4回

スポスタ ~新たなスポーツ支援のカタチ~

2016年度の第4回スポーツアカデミーが9月30日開催されました。
今回は株式会社スポスタ代表取締役の櫻又 卓 氏にご講義いただきました。

【当日の概要報告】

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。

株式会社スポスタ代表取締役 櫻又 卓 氏

株式会社スポスタ代表取締役
櫻又 卓 氏

主な講義内容

スポーツの世界では、多くのアスリートやクラブチーム、スポーツ組織が2020年に向けての成長資金、スポンサーの獲得に悩まされている。こうした状況を解決すべく、スポスタはアスリートの資金調達、後援会ネットワークづくりなどを中心に多くのアスリートをサポートしている。櫻又氏からはスポスタの取り組み、そして今後の展望を報告いただいた。

1.スポスタの紹介

(1)ウェブサービスの提供
スポスタとはスポーツのスター選手を誕生させるITプラットフォームで、スポーツ選手自身が無料で作れるホームページである。情報発信をしてファンとの交流・集客に結び付けるだけでなく、ファンクラブ・後援会機能、資金調達機能、クレジットカード決済ができるのが特徴。これによりスポンサーからお金を集めたり、ショップ機能を使ってチケットを売ったり、グッズを売ったりすることもできる。スポスタ事務局ではホームページの運用にとどまらず、グッズ製作などもサポートしている。

(2)利用状況
主なユーザーは日本代表レベルのトップアスリート、プロスポーツ選手、および最近は育成年代も増えており、小中学生アスリートの保護者のスポスタ利用も増えている。スポスタを通じて中学2年生の女子アスリートにビッグスポンサーがついた例もある。日常利用では、選手が100万円、150万円規模の寄付金をファンの皆様から集めたり、ノンプロサッカーチームが約200万円を集めたという好例もある。

(3)コラボ事例
スポスタを利用するアスリートとスポンサー企業のマッチング、企業とアスリートのコラボによる新商品の開発、自治体とのコラボでは地域創生、アスリート発掘プロジェクト、またアスリートのイベント出演などもサポートしている。

2.はじまっているスポーツ界のビジネス化

(1)ますます広がる世界との差
1995年の市場規模は、日本のプロ野球(NPB)が約1,200億円、アメリカのメジャーリーグ(MLB)が約1,400億円だった。それが2015年にはNPBが同規模にとどまる一方、MLBは約1.2兆円という市場規模に成長し、およそ10倍もの差がついた。 また、中国政府がスポーツにかける国家予算は約500億円、日本のそれは約324億円と発表されているが、両国が2025年に描くスポーツ市場は中国約100兆円、日本が15.2兆円。メディアCMCは、サッカーの中国スーパーリーグの放映権を5年1,500億円で購入。一方、Jリーグの放映権は英国DAZNが10年2,100億円で購入した。これらの数字をみても、日本のスポーツ市場が中国の後塵を拝し始めていることがわかる。

(2)スポーツのビジネス化
世界のスポーツはエンターテイメント化が進み、これまでにないビッグビジネスに成長している。こうした状況で生き残るためには、スポーツのもつビジネス要素を的確に把握し、資金力の強化、アリーナ、スタジアムなどの環境整備、優秀な従業員の確保を進め、スタープレイヤーの育成を核としたファンと競技人口の増加が求められる。

3.スポーツ界の未来

  • IT技術の進化により、スポーツ界は飛躍的に成長できる。
  • 未来のスタジアムやアリーナではドローンによる撮影や、自動運転シャトルによるアクセス、広い総合施設ではセグウェイ等での施設内移動などが一般化していく可能性がある。
  • 障害者と健常者が一緒に楽しめるユニファイドスポーツ、ユニバーサルスポーツなど、現在でも開発の進む新競技がさらに発展を遂げる可能性がある。
  • 住居費に困窮するアスリート向けのゲストハウスやシェアハウスを作り、カフェなどの機能も付帯させたうえで管理・運営をアスリートが担うというアイディアなども出てきている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催にあたり、斯様なフォロー体制の充実化の動きは増加する可能性がある。
  • アスリートのプロ化、雇用機会の充実(企業所属)、企業などによるフリーランス起用機会の充実等、アスリートが安心して生活していける環境、そして社会がアスリートを支えていける環境を整える必要がある。
  • アスリートにとって避けて通ることができない、セカンドキャリアへのサポートにつながるアイディアが今後増えていくことが望まれる。スポスタとしてもその分野での協業も検討しており、将来的には雇用の分野にもサービスを展開していきたいと考えている。

4.トップアスリートと報奨金

体操の内村航平選手は、リオデジャネイロオリンピックにおける金メダルの獲得を評価され、日本体操協会の規定および同協会会長の私費によって合計1,000万円の報奨金を手にした。また、オリンピックの報奨金ではないが、日本実業団陸上競技連合はマラソン強化策として、日本新記録を出した日本人選手に1億円の報奨金を出す制度を始めている。
一方で、たとえメダリストであっても協会としての報奨金は授与しないとする団体もあり、メダルを獲得しても金銭的なメリットにつながらないケースは少なくない。日本のオリンピック選手は金メダルを獲得してもテレビ出演などで収入を得られるのは1年程度と言われ、アスリートの多くがセカンドキャリアに大きな不安を抱いている。

5.2020年に向けて誰がサポートする?

(1)スポーツ界の課題
アスリートが競技を続けるためには、用具代、施設使用料、指導者への報酬、会議・遠征・合宿等への参加費用など、多くの資金が必要となる。これらがまかなえず、競技を続けたいにもかかわらず、途中でアスリートとしてのキャリアを断念するケースが後を絶たない。

(2)飛躍的成長の背景にある資金援助
テニスの錦織圭選手はソニーの盛田正明氏が設立した盛田ファンドのサポートを受けてスター選手に成長した。スケートの浅田真央選手には、西武グルーブのオーナー、堤義明氏の強いサポートがあった。成長段階こそ資金が必要であり、若年世代が資金を調達できる環境を整える必要がある。
日本のスポーツ界には、長きにわたり美徳とされたアマチュアリズムの影響が良くも悪くも根強く残っており、あからさまに「スポーツとカネ」の話をすることがはばかられる風潮がある。しかし、アスリートが成長し、高いパフォーマンスを出し続け、その姿に多くの人が憧れ、感動するというスポーツの良さを維持するためには、カネの話は避けて通れない。スポスタは、今後もその「避けて通れない」課題に取り組み続ける。

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)スポスタでは、アスリートだけでなくトレーナーやコーチへもサポートできるのか?
A.

(講師)アスリートのトレーナーをやりたいという方が多数いて、最近はメンタルトレーナーや管理栄養士の方も相談に来る。専属のトレーナーがついているアスリートはそれほど多くないので、我々はこうした方々と選手をマッチングしている。将来的にはいろいろなリソースをオンラインでつなぎたい。トレーナーとアスリートだけでなく、スポンサー、メーカーや弁護士、会計士などもネットを通じてアスリートとつなげられる「場」を設けていきたい。

Q.(フロア)競合他社はいるのか?
A.

(講師)競合他社はいまのところいない。スポスタはクラウドファンティングとよく比較されるが、クラウドファンディングは、そのポータルサイトに来た方が複数の中から好きなアスリートを選んで寄付をするというシステム。スポスタはアスリート自身が自分のサイトを持ち、そのアスリートを応援する方一人一人が何らかの支援をするというワン・トゥー・ワンのシステム。クラウドファンディングは、たとえば「半年後に控える世界大会に出たいので1ヵ月~3ヶ月などの一定期間、お金を集めたい」などの短期的な資金集めを得意とする。ただし2回目、3回目となると集められる金額が減っていってしまうのが難点とされる。一方スポスタは、短期にお金を集めることには向かない。サイトで後援会や物販、寄付など、ファンとコミュニケーションをしながら増やしていくので、時間はかかるが安定的に資金を集められるのが特徴。スポスタを利用するアスリートやチームには、クラウドファンディングとスポスタを併用してお金を集めてほしいとアドバイスしている。

以上