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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2016 第2回

Jリーグの国際戦略

2016年度の第2回スポーツアカデミーが2016年7月26日に開催されました。
今回は公益社団法人日本プロサッカーリーグ国際部長の山下 修作 様にご講義いただきました。

【当日の概要報告】

Jリーグが東南アジアで人気を博し、その波及効果がビジネスに広がり、地方創生にもつながりつつある。その効果は政府にも認められ、経済産業省はジャパン・ブランドの強化を目指すクールジャパンの一環として、Jリーグのアジア進出をサポートすることになった。Jリーグはいかなる国際戦略をもとに東南アジアに進出し、どのような成果をもたらしているのか。具体的な事例を現場から報告する。

※以下の報告は、こちらの参考ページと合わせてご覧ください。

日本プロサッカーリーグ 山下 修作 氏

日本プロサッカーリーグ 山下 修作 氏

主な講義内容

1.Jリーグの収入と観客動員数

クラブを除いたJリーグ単体の収入は年間約130億円。そのうち放映権料は約50億円。J1からJ3までのクラブの総収入は約875億円。来場者は年間のべ1,000万人を超え、J1の観客数は1試合平均で約1万8,000人。観戦者のうち女性比率は約40%。

2.海外におけるJリーグ

2015年、Jリーグは世界36か国で放送され、1,000万人以上に視聴されている。香港やタイ、インドネシアのメディアがJリーグを大きく報道し、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国からJリーグを観戦しに来日する観光客が毎週かなりの数いる。世界的にみてもかわいらしく、芸達者でもある各クラブのマスコットや、地元の名産品を使った料理を振る舞うスタジアム周辺での屋台街など、サッカーだけでなく誰もが楽しめるスタジアムは、Jリーグが世界に誇るべき財産である。

3.アジア戦略の背景

かつて日本はサッカー弱小国で、アジアでも勝てず、ワールドカップに出場したこともなかった。それが1993年にJリーグが発足し、わずか20年ほどでワールドカップやオリンピックの常連国となり、リーグの観客数も急増した。

一方で、日本は少子高齢化が進み、テレビ視聴者も減少が予想される現状に直面している。放映権料とスポンサー料で支えられているJリーグはこのままでは先細りが免れず、第3の収入の柱をつくることが必要と考えた。

2010年当時、Jリーグの収入は約120億円で、アジアでは断トツのトップ。一方、世界を見ると、英国のプレミアリーグでは約2,500億円を売り上げていた。内訳は約1,300億円が海外からの放映権料で、そのうち約70%がアジアからの収入だった。他のヨーロッパ各国リーグも入れると、アジアからヨーロッパに流れこむ放映権料やスポンサー料は約2,000億円にものぼる。このお金の一部でもJリーグに持ってくることはできないだろうかと考えた。

また、ひと昔前までサッカー弱小国だった日本が、急成長をとげ強くなったノウハウやリーグ・クラブのマネージメントノウハウをアジア諸国に売ることができるのではないかとも考えた。自分たちを日本人ではなく、経済発展著しいアジアの一員であるアジア人と考え、積極的にチャンスを取りにいく姿勢を強めた。

4.ASEANにおけるサッカー人気

アジア、とりわけASEAN(東南アジア諸国連合)諸国でのサッカー人気は高く、財閥のトップなど国の有力者がクラブオーナーなどを務めてサッカーに携わるケースは多い。Jリーグは彼らに対しチーム強化のサポートを申し出て「自国のサッカーを強くして、一緒にワールドカップ出場の夢を見ませんか」とプレゼンテーションした。日本が短期間で強くなったことは知られており、各国の反応はよく、アジアの一員として「共に成長したい」という思いは、各国の共感を呼んだ。
その結果、純粋なビジネス上の交渉事ではなかなか会えないようなVIPにも会うことができ、理念を伝えられた。唯一の売り物と考えていたノウハウを売るのではなく無償でシェアしていくという大きな方針転換を図った結果ASEAN各国で、できた人脈をサッカー界のみならず日本の多様な業界・分野・自治体に紹介し、新たなビジネスチャンスを生み出すことができはじめた。

5.アジア戦略と地域の活性化

Jリーグはクラブ名に必ず地域名が入っている。Jリーグの試合が海外で放送され、海外のクラブと交流を深めることで、日本の地域と海外をつなぐことができる。インドネシアの選手がヴァンフォーレ甲府の練習に参加した際は、その選手が休みの日にぶどう狩りに行っただけで、インドネシアで大きく報道され、山梨のぶどうが大きく露出され認知されることになった。
タイの選手が清水エスパルスの練習に参加したことでタイの多くの人が富士山は静岡県にあるということを知ることになり、静岡県とタイ政府観光局との関係構築の後押しとなった。ベトナムの人気選手が水戸ホーリーホックに加入したことにより、ベトナム航空がスポンサーとなり、茨城空港にベトナムからの直行便(チャーター便)の就航が決まった。

6.Jリーグがアジアと企業をつないだ実例

横浜F・マリノスがタイのクラブと業務提携し、選手育成のノウハウを提供、チームづくりをサポートしている。これをきっかけに、横浜F・マリノスはタイビジネス界の有力者の一人でもあるクラブオーナーを自分たちのチームのスポンサー企業に紹介。
クラブオーナーは同社をタイの大手通信会社に紹介し、商談がスピーディーにまとまった。スポンサー企業にとってこのような利点があると、より積極的にチームをスポンサードできるようになる。

7.国際貢献事業

Jリーグではビジネス以外でも国際交流、国際貢献事業を行っている。今年2月、ネパールでサッカーと野球とバレーボールを合わせて一緒にスポーツ教室を開催した。ネパールは2015年4月に大きな地震の被害を受けた国であったので、スポーツ教室と同時に防災教育も実施し、スポーツを通じて命を守ることの大切さを伝えた。こうした国際貢献事業も多様な協力組織との連携を通じて広げていきたい。

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)Jリーグ加盟クラブのだれもがアジアの方々が求めるノウハウを提供できるわけではないと思う。一言でノウハウを伝えるといっても簡単ではないように思うが。
A.

(講師)Jリーグのクラブなら普通にやっていることがノウハウになるケースが多い。国際交流基金にサポートしてもらい、ASEANの10か国に対して、1か国に1担当クラブを決めて指導者を派遣したり、向こうから指導者を招いたりする交流事業を進めながらノウハウを伝えている。それも普段やっていることを伝えるだけで、特別なものはない。自分たちが当たり前だと思っていることが、他の国のクラブにとって価値がある場合も少なくない。

Q.(フロア)ノウハウを無料で提供することで、アジアのマーケットが広がり、結果としてJリーグが潤うというのは間接的かつ中長期的な方法に思えるが、現時点での大きな収入源である放映権料やスポンサーシップは今後どうなっていくのか。
A.

(講師)海外放映権料は去年からリニューアルし、それまでは全世界で年間7,000万円くらいだったものが、4億円くらいになった。2017年からの国内放映権料が年間約210億円と増えたのも、Jリーグが世界で活躍していくポテンシャルを有すると評価されたのも少しは影響したのではないかと思う。Jリーグをサポートしてくれる企業がクラブを活用して売り上げを伸ばしたという実例が増えると、さらに好循環ができると期待される。

実例を紹介すると、セレッソ大阪がタイのクラブと業務提携し、農業の重要拠点にて地元の農協と共催でヤンマーサッカー教室を開いた。セレッソをサポートするヤンマーは農機具メーカーであり、サッカー教室を実施し、そこで選ばれた子どもをタイの提携クラブのユースチームに移籍をさせてあげた結果、ヤンマーは子どもに夢を与えてくれる企業だという印象が得られると共に認知度も向上し、地元農協との関係もよくなり、農協がヤンマー製品を周囲に勧めてくれるようになった。

川崎フロンターレのスポンサーである東急はベトナムで大規模都市開発を進めるなかで、開発中の都市にフロンターレのトップチームを招聘し、地元のプロクラブと親善試合を実施した。その試合前に開催されたレセプションパーティーでは、地元のキーマンがこぞって出席し、東急が川崎フロンターレを呼んで来てくれたことを感謝しており、今後の都市開発推進のキーマンの方々と東急との関係構築に貢献できた。海外での大規模都市開発でもJクラブが役に立てることがある。このような事例はほかにもたくさんある。

Q.(フロア)国際交流基金や国際協力機構(JICA)と連携する目的は?
A.

(講師)Jリーグ単体では力不足で実現がなかなかできないような、サッカーを活用した各国との交流や支援の機会を増やすことができるというのが目的のひとつ。アジアでのサッカーの人気、注目度は非常に高く、サッカーを通してコミュニケーションをすることで相互理解がしやすくなる。また日本を代表する国際機関と連携させて頂くことで、Jリーグに対して興味のなかった方々にもJリーグを知って頂くきっかけにもつながると思っている。

以上