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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2015 第2回

五輪は「運動不足な世界」を変えられるのか?
~TOKYO2020健康オリンピック・パラリンピックのレガシー~

ハーバード大学医学大学院 / 国立健康・栄養研究所 / 笹川スポーツ財団海外研究員 鎌田 真光 氏

ハーバード大学医学大学院 / 国立健康・栄養研究所 / 笹川スポーツ財団海外研究員
鎌田 真光 氏

2015年度の第2回スポーツアカデミーが6月25日に開催されました。
今回はハーバード大学医学大学院 / 国立健康・栄養研究所 / 笹川スポーツ財団海外研究員の鎌田 真光 様にご講義いただきました。

【当日の概要報告】

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。

主な講義内容

いかにすればオリンピックなどの大規模スポーツイベントは人々の健康増進に寄与できるのか。これまでのエビデンス(科学的知見)を整理し、個人的見解に基づく3つの提案を通してスポーツ・フォー・エブリワン社会のありかたについてともに考えたい。

提案 1. TOKYO2020のレガシーとして身体活動・スポーツ実施率の向上を!

(1)オリンピック・パラリンピックと国民の身体活動

2000年のシドニーオリンピック・パラリンピックでは、成人が週に150分以上の身体活動をする割合はオリンピック開催前と後でまったく変化がなかった。2010年のバンクーバー冬季大会、2012年のロンドン大会でも同じような調査結果が出ている。オリンピック・パラリンピックを開催したからといって、国民のスポーツ実施率は必ずしも高まるわけではない。

(2)身体活動レガシーの目標設定

これまでオリンピックのレガシーは施設等のインフラ面に焦点が当たりがちだった。「身体活動レガシー」については、多くの大会で誘致の宣伝文句とされながらも、計画的な普及策が不足していた。そこで具体的に、1日あたりの歩数が4,000歩未満の国民の割合を25%から15%に下げる、運動習慣のある国民の割合を33%から50%に上げる─など身体活動レガシーを生み出すための具体的な目標設定が必要(割合はいずれも仮想値)と思われる。

(3)運動不足は世界共通の問題

WHO(世界保健機関)の調査によると、運動不足は先進国、途上国を問わず世界共通の問題である。運動不足は糖尿病やがんを誘発する要因となっており、世界の死亡の9%が運動不足の解消で予防が可能という研究結果もある。これによれば、運動不足は喫煙と同程度(年間530万人)の死亡につながる要因となっている。

提案 2. 国をあげた運動普及キャンペーンの強化

(1)目標の共有

日本国内では2000年から健康増進法・健康日本21という取り組みを行っているが、残念ながら身体活動に関して芳しい成果は出ていない。2020年東京大会は健康増進を政策的に推進するうえで逃すことのできない重要なチャンスとなる。スポーツ政策と健康政策をうまく組み合わせ、国や地方自治体、学校、スポーツ団体、企業が「2020年までに○○を達成!」という目標を共有すべきである。

(2)マーケティング戦略と評価の徹底

これまでの運動普及政策は、事業ありきでもともとアクティブな人ばかりが集まる事業を乱発してきた印象がある。IOCはターゲットを絞ったマーケティング戦略を推奨しており、そうした明確な目標設定に基づく取り組みが必要だ。

また、こうした政策を評価する際には、事業への参加人数だけではなく、運動をする人の人口が地域全体の人口に占める「割合」の変化に注目しなければならない。運動普及には長期的な取り組みが必要なので、年度をまたぐような予算措置も求められる。

提案 3. 参加国・地域の身体活動・スポーツ実施率に基づくメダル認定制度(IOCオリンピック表彰)

(1)オリンピック表彰

スポーツ実施率が70%以上の国に金メダル、60%以上の国に銀メダルという具合にスポーツ実施率の高い国、あるいは実施率の上昇が顕著にみられた国をオリンピック・パラリンピックの開催に合わせて表彰することを提案したい。身体活動・スポーツ実施の重要性に注目を集めると同時に、選手だけではなく、国民全体に参加意識が生まれ、モチベーションが高まる効果が期待できる。オリンピック憲章は、トップ選手だけでなく、「すべての個人」がスポーツを行う機会を与えられなければならないと謳っており、こうした表彰は「参加することに意義がある」というオリンピックの精神を体現するものとなる。

(2)企業を仲間に

国民全体への参加を促すと同時に、企業への働きかけも重要になる。たとえば自動車産業は自動車を普及させて生活の利便性を高めたと同時に、非活動的な生活を広めることにも貢献した。その結果、肥満や循環器疾患などの増加にもつながってしまったとすれば、こうしたネガティブ・イメージは企業の潜在的リスクとなり得る。自動車産業が先頭に立って運動不足の解決に取り組んでいってもいいのではないか。これはあくまで一例だが、企業との連携は重要である。また、私たちのような専門家は、ただリスクを指摘するだけの批判者ではなく、共に経済的革新を実現させる貢献者としての役割と力も持っているはずだ。

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)一般の人に身体活動を促す場合、健康意識を高めて運動を促進する方法と、まずは運動を楽しくやってもらい結果として健康増進につながる、という方法のどちらが良いとお考えか?
A.

(講師)個人的にはどちらでも良いと考える。目的は体を動かしてハッピーな生活につなげること。ターゲットにしている人たちが何を求めているのか。そのニーズを引き出して、どのような事業が適切かを判断していくことが大事なのではないか。

Q.(フロア)さまざまな事業をやる上で、口コミで人を集めるといってもなかなか難しい。鎌田氏は島根県雲南市で具体的にどのような取り組みを行ったのか。
A.

(講師)私たちの場合は小学校区、公民館区という規模、人口が平均で1,000人くらいのところで取り組みを行った。まずは地域の核になっている人、オピニオンリーダーを見つけ出した。何人かに聞いて名前をあげてもらうと、必ずハブになる人に行き着く。そういう方の協力を得て、地域でチラシなどのツールを使って事業を紹介していく。地域の強みを生かすことが大事で、大都市であれば企業との連携、商店街との連携などもありうると思う。

Q.(フロア)運動実施率を高めるために、3年以上必要というところをもう少し詳しく伺いたい。
A.

(講師)運動する人が増えたかどうかを検証する場合、事業をやる前と1年後、3年後、5年後の数字で比較評価する。私たちの経験では、1年では実施率に変化は出づらく、3年目くらいで変化が表れ、5年くらいで確実なことが言えるようになる。世界の取り組みを見ても1年で結果を判断するのは難しい。

Q.(フロア)運動促進の政策はこれまでもあまりうまくいかなかった印象がある。今後もそのような事態になってしまうのではないか。
A.

(講師)そのために事業の評価をしっかりやることが大事だと考える。たとえば、いろいろな事業が住民の方の何%に到達したかという「リーチ(到達度)」という指標がある。配ったチラシに気がついた人が何%いたか。キャンペーンは何%の人に認知されたか。これらを調べると絶望的な数字が出てくるケースも出てくるだろう。しかし、そこがスタート地点だ。一部の人たちにだけ働きかけても、全体の半数を占める非活動的な人を減らすことはできない。逆にしっかりした評価指標をもってキャンペーンを展開すれば、より効果的な事業を行うことができるはずだ。

以上