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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2019 第8回

私のための私の体。
~私たちは変わる、スポーツも、きっと変われる~

スポーツアカデミー第8回「私のための私の体。―私たちは変わる、スポーツも、きっと変われる」

基調講演

講師
鯉川 なつえ 氏(順天堂大学女性スポーツ研究センター 副センター長)
会場
KAITEKI CAFE

パネルディスカッション

登壇者
白土 真紀 氏(資生堂グローバルイノベーションセンター 主任研究員)
宇田川 佳子 氏(一般社団法人ランガール 代表/フリーランスPR &マネージメント)
大山 加奈 氏(バレーボール元日本代表/スポーツキャスター)
鯉川 なつえ 氏〈ファシリテーター〉

[第一部]基調講演:主な内容

鯉川 なつえ 氏

鯉川 なつえ 氏

■女性がスポーツをしない理由―『This Girl Can』のインパクト

講師:鯉川 なつえ 氏

1.日本のスポーツ実施率

成人が週1 回以上のスポーツ実施率は、国別トップがオーストラリア(79%)で、日本は42.5% で世界的にも低い。男女別、年齢別では、男子は中学生でピークを迎えて90%、高校で60%、その後は50%くらいで推移する。
女子は中学3 年生で80%、高校3 年生になると35% まで減少。以降、40 歳代半ばまで横ばいで4 割を切る。女性の16 歳から50 歳までの30 年あまりの運動停止期間が、日本だけでなく世界的にも大きな問題である。

2.女性のスポーツ実施を阻む3つの壁

(1)身体社会的な課題
成長期における容姿や身体(月経など)の変化が理由でスポーツをやめる。

(2)心理社会的な課題
親や指導者からのプレッシャーや心無い言葉で、スポーツから離れる。

(3)組織環境的な課題
女性がやりたいスポーツに取り組む環境が充分でない。ライフステージにおける結婚、妊娠、出産などを機にスポーツから離れてしまう。

こうした課題は同時多発的に起こるため、一つを解決してもすべてが解決するわけではない。3つの課題にアプローチしなければ女性のスポーツ環境は改善しない。

3.This Girl Can の事前調査

イギリスのスポーツイングランドは2014年、革新的な取り組み「This Girl Can」プロジェクトで女性のスポーツ参加を向上させた。プロジェクトを始めるにあたり、「ユース・インサイト・パック」と「アンダー・ザ・スキン」という2つの調査、分析を行った。

(1)Youth Insights Pack
スポーツ参加にまつわる既存の調査結果を洗い直し、14~25歳の若者の特徴を明らかにした。

  1. 育っている環境や内容が、これまでの世代と違う
  2. “行動”と“態度”が必ずしも同じであるとは限らない
  3. より機能的かつライフスタイルに基づいた根拠が必要となる時期
  4. 受身的なスポーツ参加を過小評価してはいけない
  5. 誰もが同じフィールドに立てるような環境を整える
  6. 常に意味のある経験を求めている

(2)Under the Skin
6つのパーソナリティーに分類し、スポーツへのアプローチ方法を示した。

  1. スポーツ愛好家タイプ
  2. 意欲的行動派タイプ
  3. 思慮的向上志向タイプ
  4. 知的自信家タイプ
  5. 内向的慎重派タイプ
  6. ありのままの若者タイプ

4.This Girl Can

前述の調査結果をもとに、女性のスポーツ推進に焦点をあて、「This Girl Can」プロジェクトを立ち上げた。
これまでは「スポーツはあなたがスリムに見えるように手助けします」というようなキャッチコピーで、国民へのスポーツ振興を呼び掛けていたが、効果が上がらなかった。
それは「スポーツをしてもスリムにはならない」と国民が知っているから。
そこでスポーツが好きではない人にターゲットを絞り、寄り添うキャンペーンを行った。

(1)スポーツをしたくない理由
「This Girl Can」ではインタビューを重ね、以下、女性がスポーツをしたくない、しない理由を明らかにした。

  1. 外見の不安
  2. 能力に対する不安
  3. スポーツの優先順位が低い

(2)キャンペーンの成功
これまでの押し売りのようなキャンペーンをやめ、下記のようにすべてを許容し、女性の目線で、女性に働きかけるようなポスターや映像をつくり、自分らしく行動することを訴えた。

「私らしく、私らしい響きで、私らしく行動しましょう。私たちスポーツイングランドはみんな共感します」
「私は泳ぐ。なぜなら私は自分の体が好きだから。この体が嫌いだからではない」
「私は揺れる。それが私」

これによりThis Girl Can のYoutube、Facebookの動画再生回数は3,700万回を記録、新たにスポーツ習慣を獲得した女性が26万人という成果を生んだ。
This Girl Can のキャンペーンを認識した女性のうち54% が何かしらの行動を起こし、41% がスポーツを始めた。24% が現在もスポーツを継続している。

(3)キャンペーン第2弾
現在、女性のスポーツ参加促進のキャンペーン第2弾をスタートさせ、50~60歳代を含んだ全世代を取り込もうとしている。

[第二部]トークセッション

■女性がスポーツをする際の障壁

大山 加奈 氏

大山 加奈 氏

鯉川 今日はスバリ、女性がスポーツをする際の課題、解決策をしっかり話し合いたいと思っています。
ひとつ目のテーマは「女性がスポーツを続けていく上で何が障壁になっていると思いますか。また、それを乗り越えるには何が必要でしょうか。」というクエスチョンです。
大山さん、小さいときからやってきたバレーボールの環境、現在、子どもにバレーボールを教えている視点から話をお願いします。

大山 課題は「子ども時代の評価の在り方」かと思っています。
私自身、運動があまり好きではなく、体は大きいのに運動はできず、とてもコンプレックスがありました。体育の授業はできる、できないで評価されてしまいます。私はぜんそくがあって、苦しい中でもがんばっているところはなかなか評価してもらえず、運動は嫌だなと思っていましたし、体育の授業前は憂鬱になるような子どもでした。
ただ、バレーボールとたまたま出合って、バレーボールだけは奇跡的にできたので、何とか自己肯定感を持ちながらスポーツに関わってこられました。でも、そうやってできる、できないで判断されてしまう体育の授業に対して苦手意識を持ち、運動嫌いとなってしまう子どもたちはたくさんいると思います。そこの評価基準が変わっていくといいのかと思っています。積極的に取り組む姿勢だったり、チャレンジし続ける姿勢だったり、努力の過程が評価されると、特に女子の意識が変わり、スポーツ参加率も変わっていくと思います。
また、小学校の体育は男女が一緒にやりますが、あれはなかなか厳しいと思っています。たとえばサッカーをすると、男子の蹴ったボールは怖かったりしますし、そういうところも変わっていくといいのかと思っています。

鯉川 もしバレーボールと出会っていなかったら、スポーツが嫌いなままでしたか。

大山 そうですね。スポーツには一切関わっていなかったと思います。

鯉川 子どものときの経験は後々まで尾を引きます。もしバレーボールと出会っていなかったら、オリンピックはおろか、スポーツさえもおそらくやらなかったわけですよね。

大山 はい。

宇田川 私は「女性の潜在的な罪悪感」が障壁になっていると思います。
今、私は45歳で、3歳、6歳、8歳の子どもがいますが、やっぱり周りのママたちを見ていても、スポーツをやっている女性が本当に少ない。もちろん子育て中は圧倒的に時間がありません。そして、保育園など子どもを預ける施設は、働いている人か、もしくは介護をしている人かの二択で、それ以外の人は預けられない日本の状況があります。
社会環境の未整備に加えて、日本の女性の潜在意識が大きいと思います。たとえば子育て中は母性がどうしても強いので、「ごめん、おむつ替えてくれる?」「ごめん、〇〇してくれる?」というように、無意識に枕詞のように「ごめん」を付けてしまうことが多くて。そうすると、男性側も許容してあげている気持ちになってしまうと思います。
スポーツも含めて自分が楽しむために何か時間を使うのが悪みたいな、そういう周りの目もありますが、やっぱり女性の思い込みもとても強いと思って、そこから脱却することが大事なのかなという気がしています。

鯉川 宇田川さんは今現在、その罪悪感を取り除かれていますか。

宇田川 取り除くように努力しています。私は、趣味がランニングなので、そうしないと走りに行く時間は絶対に取れません。
私も「走りに行っていいかな?」と、特に第一子が生まれた直後は聞いていました。今は「走りに行くね」と。やっぱり自分が我慢するとストレスがたまり、家庭の中の状況がとても悪くなります。夫が家にいる週末は必ず走ると決めて、自分で意識的にスポーツをする時間を作るようにしています。

宇田川 佳子 氏

宇田川 佳子 氏

鯉川 スポーツしたことで変化はありましたか。

宇田川 スポーツをしないと確実にストレスがたまります。運動不足になると、体もつらいし、心もイライラしてきます。週末は必ず走ると決めて2、3年経ちますが、やっぱり軽やかになりますね。
心も体もすっきりして、育児にもいい影響があります。自分も好きなことをやっているという気持ちもありますから、夫にも優しく接することができる気がします。

鯉川 資生堂さんの1階フロアに託児所はありますか。

白土 スペースなどの問題で実現できなかったのですが、隣にビルが建って、そこに託児所ができるという話なので、そこを使ってもらえばと思います。
資生堂はKODOMOLOGYという別の会社があって、そこで、KANGAROOM という子育てを支援する託児所の事業もやっています。

宇田川 私が仲間と主催していた女性のためのランニング大会「ランガール★ナイト」でも1回目から3回目まで託児所を作りました。
ところが当日ふたを開けてみると、利用する人がほとんどおらず、本当に驚きました。やっぱりどこかで、自分が走って、アフターパーティーに出て楽しんでいる間に、そばで預けてというのに罪悪感を持つ女性が多いのかなとも思いました。欧米ですと、夫婦の時間を持つためにベビーシッターを雇うということもよく聞きますが、日本ではまだそういったマインドになりにくいのかと感じました。

大山 昨日、シカゴに住んでいる友人が一時帰国して、会って話しましたが、彼女が「毎日、ジムに行っている」と言います。ジムに託児所があって、子どもは一緒にプールに入ってもいいし、託児所に預けてもいいし、どちらでもいいらしいです。

鯉川 そういうスポーツクラブがあれば女性会員は絶対増えますね。

大山 私は「負けたくない」じゃないですけど、やるなら追い込まなきゃいけないと思ってしまうんです。苦しくなるまで走らなくちゃいけないという思いがある。なので、どんどんスポーツから遠ざかってしまいます。

鯉川 分かります、分かります。

大山 楽しむだけというのがなかなかできない。たぶん部活をバリバリやってきた女子たちが今、スポーツから離れてしまっている原因はそこにもあるのかなと思います。

鯉川 そう思います。やっぱり潜在的な、女性の育ってきたそういう環境なのか、日本特有の習慣なのか分かりませんけど、そういうものが最終的にスポーツにまで影響が及んでいるということはあると思います。

白土 男性もそうですが、女性は結婚して子どもを産んで育てて、そこにまた仕事が加わって、もしかすると今度は介護がライフサイクルの中に入ってくるかもしれません。その時々で持てる時間の余裕が違っていたりするので、一つのことをずっと続けていくとか、同じ習慣でやっていくのは難しいのかなと思います。
なので今の自分の状況に合わせて、いいタイミングでできる時間を創出していくことが大切だと思います。あと、スポーツというと、ウエアをちゃんと着ないとスポーツではない、という感覚もあると思います。そうではなく、「自分の健康を維持・向上するためにアクティブに体を動かしましょう」とか、「積極的に動きましょう」というのは、別に着替えなくても、汗をかかなくてもできることです。
エレベーターを使わずに階段を使うでもいいと思います。それを「そんなのスポーツじゃないよ」ではなく、「それも運動だし、スポーツだよ」という考えを、子どものときから教育していく。生涯を通じて体を動かすことが健康、豊かな生活を送っていくために必要だ、という教育をしていかないといけないと思っています。
少し話が離れてしまうかもしれませんが、お化粧をする事で、要介護高齢者の表情が明るく豊かになったり、QOL の向上につながったりするケースがあります。私たちの研究では、高次脳機能を司る前頭葉の活動が高まったり、ストレスが軽減するなどの結果を得ました。毎日自分で化粧をする事で握力が上がるという報告もあります。化粧は運動とは認識されていないと思いますが、筋力が低下している高齢者にとっては、化粧をする事が軽い運動になるというわけです。

鯉川 運動をしようと思っても、どこで何をしていいのかが分かりません。「もう30年も40年も運動したことがない。どうしたらいいの?」という人たちはどうしたらいいでしょうか?

白土 多分、すごく腰が重たいし、ずっと運動不足だし、とてもつらいんじゃないかとか、怪我してしまうんじゃないかとか、いろいろな心配があると思いますが、まずは「そういう心配が要らないよ。安心してできるよ。」という環境をつくること。そして一人ではなく、コミュニティーをつくっていくこと。運動のあとにみんなでお茶を飲むのが楽しいとか、そういう入りでもいいと思います。

白土 真紀 氏

鯉川 友だちをつくる場ということでスポーツを利用する。それは障壁をなくすアイテムになるかもしれません。

宇田川 女性は男性に比べてライフスタイルが変化するタイミングが多いので、一緒に運動する友人が減っていくのが一番の問題なのかなと思っています。
ランニングは基本1人でできますが、やはり一緒に大会に出るとか、仲間がいるとモチベーションが上がります。ライフスタイルの変化と共に友人関係が変わり、同じ友人と一緒に過ごせないことが、スポーツをする女性が減る一因になっているような気がします。

鯉川 障壁と思われるところを話してもらいましたが、この障壁を何とか改善するためにはどうすればよいでしょうか。たとえば子ども時代の評価ならどうすればよいでしょうか。

大山 オリンピックの価値観、見方が変わると、状況が変わってくるのではないかと思っています。メダルを獲った、獲らないで評価されてしまうので、そこが変わっていかないと、なかなか変わらないのかなと思います。

鯉川 大山さんがオリンピアンとして小学校に出向いたとき、小学生からどういう質問が出ますか。

大山 「どうやったら大きくなれますか」が一番多いです。あと多いのは、「オリンピックに出たときどんな気持ちでしたか」という質問です。
私は「つらいこと、苦しいことがあったら、周りの人を頼ってください。伝えてください。口に出してください。」と言います。
「逃げることは悪いことではないよ」と話しています。「勝ったらすごい」、「負けたら駄目」という中でスポーツしていると、そこからそれると「自分には何の価値もない」と思ってしまい、それを悪と感じることが思うので、「逃げてもいいんだよ」ということを伝えるようにしています。

鯉川 なつえ 氏

鯉川 白土さんは今、運動処方のようなものもしていますね。どういう人たちを対象に、どういうタイミングでやるのですか。

白土 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まったころ、「私たちは化粧品会社だけれども、化粧のことだけやっていたら駄目だ。ビューティーはもっと広い意味でとらえないといけない。」という議論がありました。
そこで、もっと颯爽と生き生きと歩く、闊歩する美しい女性を増やしたい、そんな夢みたいなことを研究員同士で語って、そうするためにはどうしたらよいかみたいな議論から始めました。
バランスの取れた筋肉や骨があって、もちろん肌もきれいだけれども、心も前向きで、自己表現できて、所作、歩き方も含めて、心や体をうまくバランスよく表現できる。そういう人がアクティブで美しい人ではないかという話になって、そういう人をつくるためにどうしたらいいかという研究をしました。

鯉川 「立つ」、「歩く」は基本なのかもしれません。

白土 プロフェッショナルな人にインタビュー重ねた結果、共通したのが「歩く」ということでした。きれいに歩けるようになるにはどうしたらよいのか。体づくりももちろんですが、体のゆがみとか悪い癖を1回リセットする。体をニュートラルにして、動きやすい素地をつくっていくというのが、私たちの考え方です。

■あなたにとっての「スポーツ&〇〇〇」

鯉川 女性のスポーツ振興にとって、「スポーツ&〇〇〇」があるとしたら、みなさんは、〇〇〇には、何が当てはまりますか?

大山 加奈 氏

大山 「スポーツ&出会い」です。スポーツは人生を豊かにするためのツールだと、私は思っています。豊かな人生は何かというと、心も体も健康的であること、そして、人と人とのつながりがあることだと思います。私自身がバレーボールと出合えて本当に良かったと思っているのは、オリンピックに出たからではありません。友達、仲間ができたからで、一緒にプレーしてきた仲間は一生の宝物だと思っています。

宇田川 ランニングは一人でもできますが、私もたくさんのラン仲間に出会って人生が変わって、そのランニングの素晴らしさをシェアしたいという思いで「ランガール★ナイト」を始めました。スポーツはいろいろな可能性があるなと感じています。

白土 更年期症状を運動で緩和できるか、という研究をしたことがあります。
更年期になり、急に汗が出たり、よく眠れないという症状のある方々に集まって頂き、定期的に運動してもらったところ、症状が明らかに改善し、「ああ、運動ってすごいな」と思いました。そのとき、集まってもらった方から「先生、まだあの時の仲間と集まってるんですよ」という声をいただきました。今ではもう高齢になってきているとは思いますが、実験のために集まって一緒に運動した人たちが、「ずっと仲よくして、旅行に行ったり、食事に行ったりしているんだよ」なんていう話をしてくれたりします。やっぱり、一緒に汗を流して体を動かしてというのは、特別な仲間ですね。

鯉川 ある高齢者の施設で「なぜあなたはスポーツをしますか」「スポーツをやり始めたあとに、自分はどうなりたいですか」という質問をしたら、女性はみんな、「山へ登りたい」とか、「友達とみんなで大会に出てみたい」とか、いろいろな意見が出てきました。
男性に同じアンケートをすると「特になし」という回答が多い。男性のスポーツへのモチベーションはおそらく自分に向いている。女性は外に向くのではないかとその調査を聞いて思いました。スポーツクラブが終わったあとに、みんなでお茶するなんて、男性は多分しないと思います。

宇田川 佳子 氏

宇田川 私は「スポーツ&家庭円満」としました。
女性は特に子供を産むと、産後鬱だったり、精神的にいろいろな問題が起きます。それを緩和していけるものはスポーツだと今とても強く実感しています。子育て中は時間もないけれど、男性側も女性側もお互いに思いやりを持ち、意識してスポーツをする時間を作るようにする。心身ともにすっきりして家庭の中がうまくいくので、何か問題のある家庭は絶対にスポーツを推奨します。

鯉川 女性がスポーツに参加するには男性のサポートがないとできない部分も当然あるので、女性が変わるだけでなく、みんなが変わる、社会が変わるということが重要なのかもしれません。

宇田川 そうですね。でもやっぱり女性の意識を変えることがすごく大事だと思います。男性だけのせいにするのではなく。

鯉川 周りがちゃんと理解してくれていないと、子育て世代のスポーツは成り立たない。

白土 私は「スポーツ&ビューティー」としました。すこやかな美しさと考えたときに、体を動かすアクティブな生活は切り離せないと思っています。そういうコミュニティーができて、友達ができて、リラックスできる空間を持っていて、生活が豊かになることもあるし、習慣的に体を動かすことによって、余分な脂肪が取れたり、筋肉がついたり、骨が丈夫になったりする。気が付いたら「ああ、ちょっときれいになったんじゃない」というようなこともあると思います。
そういう明るく、前向きな生活をしていると、表情も明るく、きれいな笑顔ができるのではないかと思います。運動が嫌いだ、体を動かすのは嫌だという人でも、「きれいになるからやろうよ」というとそれがモチベーションになり、運動をするきっかけになることもあると思います。そのような希望も込めて「スポーツ&ビューティー」としました。

鯉川 今のアスリートってきれいですね。バレー選手も日焼けを気にしたりしますか。

大山 気にしている選手はやっぱりいますね。お風呂から上がってから何分もスキンケアしている。こんな疲れているのによくできるよねというぐらい、すごくこだわっている選手がいます。
でも、子どもたちが憧れて、スポーツをするきっかけになったり、がんばる原動力になったりするので、綺麗でいることは大事だと思います。

トークセッションの様子1

鯉川 今日は、女性がスポーツに参加するにあたってどうすべきか、という議論をしてきましたが、最後に皆さんが言われたようなプラス・アルファをもっと増やしていったほうがいいし、大山さんが言われたようなロールモデルももっと増やさないといけないと思います。
昔ながらの女性が自分のことを過小評価してしまうような性格をきちんと踏まえた上で、スポーツ参加の促し方も含めて年齢に応じたスポーツ、運動、アクティビティーを提供してくれるような情報や場がもっとあると、それぞれのカテゴリーに沿って女性のスポーツ参加につながっていくのではないかと思いました。

質疑応答

Q.(フロア)私は子育ても更年期障害も乗り越えた高齢者です。パートナーを引きずり込んで一緒にやるというのもいいと思います。結婚したときにスキューバダイビングに主人を引きずり込み、70代になってもいまだにやっています。そういう関係についてどう思いますか。
A.

(大山)すごく素敵だと思いました。私は自分の時間を取りたいから、「家のことよろしくね」と別々で考えてしまっていましたが、一緒にという思考は参考にさせてもらいたいと思います。

(宇田川)私も一緒にフルマラソンも走ったことがあります。子どもが生まれてから交代でしか走れなくなりましたが、ランナーの気持ちが分かるので快く出してくれるため、趣味を共有するのはすごく大事だと思います。

Q.(フロア)スポーツは素晴らしいツールであり、可能性と価値を秘めたものであるけれども、どう使うか、どう見るのかで変わってくるだろうと思いました。日本のスポーツ実施率が42% という話がありましたが、スポーツがまだ私たちの生活を豊かにする上で活用しきれていないのかと思います。せっかくオリンピック・パラリンピックが来るので、それをどう変えていけばよいのか、というところをお聞かせいただければと思います。
A.

(白土)スポーツのとらえ方が、競技スポーツを連想してしまう傾向があると思います。スポーツを、要は体を動かす運動というふうにとらえると、何も競技スポーツでよい成績を残すことだけがスポーツではありません。教育現場などで広く伝えていくことが必要だと思います。

(宇田川)この間、さいたま国際マラソンで「フルマラソン 女子ビギナーの部」をプロデュースしました。マラソンはトップアスリートも市民ランナーも同じコースを走ることができるスポーツ。スポーツは多様性があって、トップを目指さなくてもいい、美容のためでもいい、いろいろな楽しみ方があっていいんだということを、ランニングを通して、私も学ぶことができました。

(鯉川)メディアの力はすごく大事だと思います。スポーツの見方はたくさんあっていいと思っています。トップアスリートを見て「あんなふうになりたい」と思う人もいれば、そうではないところを見る人がいて、見方はたくさんあるべきだと思っています。たとえば小さいころから涙を流しながら夜中まで練習をして、大人になってオリンピックに出場して、それを「すごいね」と思うか、「かわいそう」と思うかは人それぞれです。だからメディアの伝え方はすごく大事で、私もテレビの解説などでメディアの側にまわることもあるので、注意したいと思っています。

トークセッションの様子2
トークセッションの様子3

セミナー終了後の質疑応答

第8回スポーツアカデミー当日は時間的制約もあり、参加者からの全ての質問に対応することができなかったため、いただいた質問の中から、後日、講師の方にご回答をお願いした。主な回答について、以下に紹介する。

Q.(参加者)スポーツをする際、皮膚トラブルや疾患がパフォーマンスに影響を与えるような場面はありますでしょうか?その場合、どのようにケアしていくのが良いのでしょうか?スポーツ医学に携わる皮膚科医はあまり多くないため、そのような情報があると非常に嬉しいです。
A.

(白土氏:第5回、第8回講師)
スポーツをする際には、細菌感染症(黄色ブドウ球菌など)や真菌感染症(白癬菌など)、ウイルス感染症(ヘルペスウイルスなど)に注意が必要です。
これらは、特にコンタクトスポーツで多くみられ、チーム内外で拡大していきます。柔道やレスリングですと、感染が確認された場合には試合への出場不可となるものもあります。
また、特にコンタクトスポーツでは、皮膚に擦過傷や裂傷が起こりやすく、そのような皮膚バリアの破綻から、上記の感染症が重症化(蜂窩織炎など)することもあります。皮膚バリアの低下という点では、日焼けや高強度運動による免疫低下にも注意が必要です。

対策として、

  1. 運動後の迅速なシャワー入浴および保湿
  2. 共用部分の清潔の確保(シャワールームの足マット、マット・畳・防具などの競技用品)
  3. 感染拡大の防止(定期的な感染チェック、感染者の練習への参加禁止、タオルや衣類の使いまわし禁止)
  4. 日焼け予防
  5. 疲労を蓄積させない(免疫低下の予防)

などが考えられております。

Q.(参加者)女性がスポーツする際、自分の時間をつくるために家族に理解してもらうことはどういうことでしょうか?また、旦那さんに素直になれないときはどう対応していますか?
A.

(宇田川氏:第6回、第8回講師)
特に子育て中の女性は、スポーツを含めた自分の時間を取ることは、その間子供をみててもらわなければ物理的に無理という意味で、家族の協力がなければ難しい、ということです。
講演の際もお話しましたが、現実は、協力を得る、という交渉を面倒に思ったり、子育て中に自分のために時間を使うことへの女性側の潜在的な罪悪感も根底にあり、そこも問題だと私は思っています。
もちろん、その思いを旦那さん側から汲んでもらえたらという思いもありますので、素直になれないこともありましたが、私はスポーツすることによる自分へのメリット、家族へのメリットの方が大きいと気づいたため、自分の気持ちを正直に伝えるよう常に努力するようにしています。

Q.(参加者)ライフステージに応じて、メンタル面が不安定になったりすると思いますが、どのようにして保ってこられましたか?
A.

(宇田川氏:第6回、第8回講師)
私は2歳差、3歳差で立て続けに出産したため、「さあ自分の時間が取れる!」「さあ仕事再開しよう!」と思った矢先に、それが物理的に不可能になる、、、ということを経験し、その都度、精神的に不安定になることが多々ありました。
それを社会の整備のせいにしたり(保育園や一時預かりなどの施設が少ない、ベビーシッターが高い、など)、男性側(主に夫)のせいにしたりしていましたが、自分が知らず知らずに感じていた「自分が楽しむことへの罪悪感」「子供を自分の手で育てなければ」などといった思い込みを意識的に排除するように努めるようにしたら、とても気持ちが楽になり、夫へも優しくできるようになったし、家庭の雰囲気もとてもよくなりました。他人のせいにする前に、まず自分になにか非があるのでは、とか、我慢せず自分の気持ちに正直になってみるなど、思い切って発想を変えてみたら、自分らしくいられて、気持ちが安定してきました。

運動中のイメージ1
運動中のイメージ2