中塚 義実 氏
主な講義内容
部活動を取り巻く環境が大きく変わる中、筑波大学附属高校で33年に及ぶ教員生活を送る中塚氏がU-18サッカーリーグ「DUO リーグ」の取り組みなどを紹介しながら、だれもがスポーツを楽しめる環境づくりを提案する。
1.日本の学校体育の長所と短所
(1)長所
日本の学校体育には世界に誇れる長所がある。小中高等学校で12年間にわたり体育実技の場が保障されている。
運動会などのスポーツイベントもあり、放課後には校内の体育館やグラウンドで部活動ができる。部活動は全国的な競技会もあり、地域社会の誇りとなり、卒業生の絆も深い。
(2)短所
体育とスポーツが混同され、スポーツを楽しむ姿勢に欠ける。競技会への参加単位であるチームが優先されてクラブが育たない。
チームは学年ごとに編成され、選手は最後の大会が終わると“引退”してしまう。「アマチュアに引退なし」のはずなのに。
2.DUO リーグ(サッカー)
(1)成り立ち
負ければ終わりのノックアウト方式の大会しかなく、高校生の真剣勝負の場は年数回の公式戦のみであった。さらに1校1チームの制約下では多くの補欠選手が生まれる環境であった。
そうした状況打破のため、1996年4月、東京都内の運動部活動とクラブユースの計6クラブで始まったリーグである。
「歯磨き感覚」「引退なし」「補欠ゼロ」の理念を掲げ、負けたら終わりのカップ戦ではなく、どのチームも多くの試合ができるようにリーグ戦形式にした。
試合に出場できないプレーヤーが生まれないように1つの学校(クラブ)から複数のチームが参加可能としている。特別枠を設け、卒業生や教員も出場できるようにした。
カップ戦は会場審判などを主催者が用意するが、リーグ戦は各チームで用意する。大会を自分たちでマネジメントすることにより、クラブの文化が育つ。クラブから近隣でリーグを作り、底辺からの組織化を試みた。
(2)発展
DUO リーグの理念が徐々に広まり、他の地域でもリーグ戦が生まれた。
その後、紆余曲折を経て、日本サッカー協会主導で2011年、頂点の「高円宮杯JFAU-18サッカープレミアリーグ」から底辺の「DUO リーグ」までつながるU-18世代のユースサッカー構造ができあがった。
DUO リーグの理念
- 「歯磨き感覚」「引退なし」のスポーツライフの生活化
- 「補欠ゼロ」のゆたかなクラブ育成 ―チームからクラブへ
- 強いチームとたくましい個の育成 ―レベルアップ
- サッカーをささえる人材の育成 ―自主運営と受益者負担
(3)課題
DUO リーグの当初の理念にあった遊び心(スポーツマインド)が時代の変化により失われていった。
互いの顔が見えにくくなり、新旧メンバーの間に意識のズレも生じるようになった。コミュニケーションの質と量が変わり、ソーゾー(想像・創造)力や決断力の欠如も顕著になってきた。
(4)取り組み
DUO リーグの持ち回りトロフィーが紛失したのをきっかけとして、遊び心を回復するためにスポーツとアートを融合するプロジェクトに取り組んだ。
アーティストの協力を得て、履けなくなったスパイクから革をはがし、それをつなぎ合わせてトロフィーを作った。革の部分を取り除いた靴底をサンダルにするなどのワークショップも開いた。
3.学校運動部のクラブ化
筑波大学附属高校蹴球部は競技志向の11人制サッカー部、プレイ志向のフットサル部、女子蹴球部の3つのチームに加え、卒業生も活動している多世代型のクラブとなっている。生徒が企画してだれもが参加できる校内フットサル大会を運営するなどクラブ文化を培った。