2017年度第7回スポーツアカデミーが2月28日に開かれました。
今回は独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンスセンター スポーツ・インテグリティ・ユニットの久保田 潤 氏にご講義いただきました。
【当日の概要報告】
※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
2017年度第7回スポーツアカデミーが2月28日に開かれました。
今回は独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンスセンター スポーツ・インテグリティ・ユニットの久保田 潤 氏にご講義いただきました。
※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
久保田 潤 氏
本来フェアであるはずのスポーツの価値を損なう不正や不祥事が世界的に多発し、スポーツ・インテグリティという言葉が近年クローズアップされてきた。スポーツ・インテグリティとは何か。その根底にある考え方や、日本スポーツ振興センターと諸外国の取り組みを紹介する。
インテグリティとは「高潔さ・品位」「完全な状態」を意味する。スポーツには本来、人々を幸福にし、社会を善い方向に導く力があると言われている。スポーツがそのような役割を果たすには、誠実性、健全性、高潔性が守られていることが前提である。ただし近年では、ドーピング違反問題、暴力を含むハラスメント、八百長、ガバナンスの欠如といったインテグリティを脅かす出来事が数多く起きている。
2月に開かれた平昌オリンピックでは、多くのアスリートがそのパフォーマンスや言動でスポーツの素晴らしさを世界に示した。一方で、選手による窃盗事件や差別的発言など、スポーツ・インテグリティに反する行為も少なからず見られた。
選手だけでなく、観客や視聴者、コーチや審判やスタッフ、スポンサーといった関係者の言動も、スポーツ・インテグリティを脅かす存在となりうる。本人の意思に反してインテグリティを侵してしまうケースもあり、その背景に何があるのかを注意深く観察する必要がある。
日本スポーツ振興センター(JSC)内に2014年4月、スポーツ・インテグリティ・ユニットが設立された。スポーツにおける八百長、賭博行為、ガバナンス欠如、暴力、ドーピング等の脅威からスポーツ・インテグリティを守る取り組みを一体的に実施することを目指したものである。
ユニットはアンチドーピング(ドーピング問題)、スポーツ相談(暴力問題)、ガバナンス(スポーツ団体のガバナンス強化支援等)、くじ調査(違法賭博・八百長行為等)の4つのグループで構成される。それぞれのグループが関係機関と連携し、スポーツ・インテグリティに反する行為に対処する。
イギリスは2015年に「スポーティング・フューチャー」(スポーツ基本計画)を発表し、翌16年に「英国スポーツガバナンス憲章」「スポーツガバナンス規定」を相次いで発表した。ガバナンス規定は2017年4月に施行され、これにより公的な支援を受けるあらゆるスポーツ団体がガバナンス規定をクリアしなければならなくなった。
規定ではスポーツ団体を公的資金の受給額や団体規模、活動内容などから3つに分けた。25万ポンド(約4,000万円)以下を受給する団体は7項目、100万ポンド(約1億6,000万円)以上を受給する団体は58項目の要件を満たさなければならない。
スポーツ団体のガバナンスに関しては、スポーツイングランドとUKスポーツが経営や財政面のサポートを行っている。スポーツイングランドは一般の人たちがスポーツに親しむグラスルーツ・スポーツを、UKスポーツはトップアスリートによるハイパフォーマンススポーツを管轄しており、どちらのスポーツ団体にも同じ規定が適用される。
アスリートのメンタルヘルスに関しては、EIS(日本のJISSに相当)や大学のパフォーマンス・ライフスタイル・アドバイザーらが行っているが、今後はさらなる選手たちへのサポートが必要だと考えられている。
オーストラリアの連邦政府は2011年、「スポーツにおける八百長に関する基本方針」を発表。ナショナル・インテグリティ・オブ・スポーツ・ユニット(NISU)を設置した。NISUとオーストラリア・スポーツコミッション(ASC)が同国のスポーツ・インテグリティに関する活動を遂行している。
NISUは主に八百長や違法賭博を扱っており、オーストラリア犯罪情報委員会(ACIC)の協力を得て、スポーツ界だけでは集められない情報を収集・分析し、違法行為の取り締まりにあたっている。
ASCはガバナンスに関しての取り組みが多く、競技団体とミーティングを重ねながら、ハラスメントやスポーツ医科学の問題に対処している。
スポーツ・インテグリティに関する議論はスポーツの世界だけにとどまらない。イギリス政府が2016年5月、ロンドンで「腐敗対策サミット」を開催したほか、2017年7月にドイツのハンブルクで開かれたG20サミットでもこの問題が話し合われた。
6.コミュニティスポーツとスポーツ・インテグリティ
スポーツ・インテグリティはハイパフォーマンススポーツだけの話ではない。地域のスポーツに目を向けても、学校部活動での指導者による暴力・暴言、子どもを応援する親による暴言、助成金や補助金の不正受給など、スポーツ・インテグリティを脅かす事例が身近なところにも見られる。
最後に、2015年に早稲田大学の友添秀則先生が「現代スポーツ評論」で示された、教育学的な見地から見たスポーツの重要性および「スポーツの徳」を若い世代に学ばせる倫理教育の必要性に関するお考えをご紹介し、まとめにかえたい。
(講師)アスリートからの相談に対して、JSCのスタッフは主に調整など事務的な役割を担い、問題が発生したときは業務を委嘱している専門の外部委員から助言をいただくなどして対応している。相談窓口はJSCだけでなく、日本体育協会や各競技団体などにもある。パフォーマンス・ライフスタイル・アドバイザーには、スポーツ心理学のバックグラウンドを有する人が多いと聞いている。そうしたアドバイザーたちが、たとえば学生アスリートが学業とトレーニングを両立できるように学校に働きかけるなどのサポートをしている。