2017年度第6回スポーツアカデミーが2月9日に開催されました。 今回はSSF研究員の武長 理栄と宮本 幸子が講義いたしました。
【当日の概要報告】
※以下の報告は、当日資料と合わせてご覧ください。
主な講義内容
子どもの体力低下が社会問題化する中、子どもたちのスポーツ実施に関する調査結果と課題をさまざまな角度から検討する。また、子どもたちのスポーツ活動を支える保護者に関する調査結果と調査を通じてみえた課題について報告する。
2017年度第6回スポーツアカデミーが2月9日に開催されました。 今回はSSF研究員の武長 理栄と宮本 幸子が講義いたしました。
※以下の報告は、当日資料と合わせてご覧ください。
子どもの体力低下が社会問題化する中、子どもたちのスポーツ実施に関する調査結果と課題をさまざまな角度から検討する。また、子どもたちのスポーツ活動を支える保護者に関する調査結果と調査を通じてみえた課題について報告する。
武長 理栄
文科省・スポーツ庁の調査によると、子どもの体力・運動能力(走る、跳ぶ、投げる)は1985年をピークに低下し、1997年以降は横ばいもしくは向上している。一方、「投げる」能力は低下が続いている。
中学2年生の1週間の総運動時間は、男子では60分未満が6.8%、女子では20.9%。このうち8割が運動時間ゼロである。体力低下の背景として、便利な生活や子どものスポーツや遊びの環境(仲間、空間、時間の3つの間)が減ってきたこと、生活習慣の乱れなどが指摘されている。
現代の運動実施は二極化しており、基本動作習得の格差と身体活動量の格差が生じている。
運動をする子どもの中でも、単一競技しかしていない子どもは習得する基本動作がかたよってしまう傾向があり、さまざまな運動をする子どもと二局化している。基本動作とは「立つ、起きる、まわる」など36種類あり、発達段階に合わせてさまざまな運動をまんべんなく経験し、これらの動きを習得していく必要がある。
SSFの調査によると、運動をしない子どもの割合は、小学校から高校へと学年が上がるにつれて増えていく。男女別にみると、9歳以下では運動をしない子どもの割合に男女差は見られないが、10代に入ると次第に運動をしない女子が増え、男女差が開いていく。
学校期別にみると未就学児から小学校3・4年までは、週7回以上の高頻度で運動をする子どもの割合は、男子は世代が上がるにつれて増えるが、女子は逆に減少している。小学校5・6年から大学期、勤労者の年代をみると、高校期で男女差が大きく開く。
スポーツクラブ・運動部への加入率は中学校期で男子82.9%、女子64.4%、高校期で男子60.2%、女子41.7%であり、男女差は20ポイント近くみられる。男子では小学校高学年からスポーツ少年団や民間クラブでのスポーツの機会が増加するが、女子では中学校の部活動でスポーツの機会を得る子どもも多い。実際、小学生を対象としたスポーツ少年団の登録団員の性別の構成は男子7割、女子3割となっており、この割合は20年以上変化していない。
日常の遊びを通した運動の機会が減少する昨今、習いごととして、地域や民間のスポーツクラブに入る子どもは増加している。スポーツクラブは単一競技のクラブであるケースが多く、また勝利を重視して、高頻度・長時間の指導を受ける種目もある。発達段階にあわせた適切な運動・スポーツ機会の提供が重要であり、運動が得意な子どもだけではなく、運動が苦手な子どもも参加しやすい活動が求められる。
過去1年間にスポーツ観戦をしたことのある10代は36.9%、スポーツボランティアをした経験者は12.8%。過去1年間にスポーツ活動、スポーツ観戦、スポーツボランティアのいずれもしていない10代は、10.3%存在する。
文科省・スポーツ庁といった行政機関だけでなく、日本レクリエーション協会、日本体育協会などの各種団体は、子どもの体力向上を目指してさまざまなプログラムを展開している。また、スポーツ用品メーカーが運動の苦手な子でも楽しめる遊具の開発を手掛けるなど、民間でもさまざまな取り組みが行われている。
女子や体力・運動能力の低い子ども、障害のある子どもでも楽しめるスポーツの機会を充実させること、継続性のあるスポーツ環境を整えること、する・みる・ささえるといったスポーツとのさまざまな関わりができる環境を整えることが、生涯を通じた豊かなスポーツライフの形成に結びつくと考えられる。
宮本 幸子
ベネッセ総合教育研究所の調査によると、定期的にスポーツをしている子どもをもつ親で「応援や手伝いなどの負担が重い」と感じているのは47.9%である一方、子どもが定期的なスポーツをしていない親では87.1%がそうしたことを負担と感じていることがわかっている。また、同じ調査では、子どもにスポーツを習わせることは、音楽や芸術活動を習わせるよりも親の負担感が大きいことがわかった。
SSFが実施したインターネット調査で、「父母のどちらが子どものスポーツ活動に熱心に関与しているか?」をたずねたところ、母親が73.7%、父親が26.4%という結果が得られた。多くの場合、母親が子どもの弁当作り、洗濯、送迎、用具の購入などを担っている。一方、「クラブ以外の練習に付き合う」など一部の項目で父母の割合はほぼ同じであった。
父親に比べ負担の大きな母親であるが、その多くが子どものサポートにやりがいを感じていることもわかった。子どものスポーツ活動を通じた自身の変化に関する質問では、85.9%の母親が「子どもが成長したと感じることができた」と答え、45.3%が「スポーツに興味・関心をもつようになった」と答えている。一方で、45.4%が「自由に使える時間が減った」と回答し、41.4%が「家族での旅行や外出がしづらくなった」とも答えており、前向きな変化と同時に相応の負担を感じていることも明らかになった。
聞き取り調査も踏まえた結果では、スポーツをしている子どもの母親の間でも、その思いには個人差があり、同じ人でも思いがさまざまに変化することもわかった。
子どもがスポーツをしていない母親にその理由を問うと、53.8%が「送迎や付き添いの負担が大きいから」、48.5%が「費用の負担が大きいから」と回答するなど、親の負担感が子どものスポーツ活動に影響している実態がわかった。また、「子どもがこれからクラブでスポーツ活動をする」と想定した場合、約9割の母親が「練習における保護者の係・当番」「自分の子ども以外の子どもの送迎」に負担を感じると回答した。
スポーツをしない理由を学年別に見ると、小学校低学年のうちは「送迎や付き添いの負担が大きい」という大人側の理由が多いのに対し、学年が上がっていくにつれ「子どもがスポーツを好きではない」といった子ども側の理由が増えていった。
聞き取り調査では「下の子が小さくて上の子にスポーツをさせる余裕がない」「引っ越してきたばかりで地域の情報がない」「小学校高学年になると、未就学のころからその競技をやっていた子どもとの差がある」などの理由も聞かれた。
子どものスポーツ活動のサポートには多くの母親がやりがいを感じている。一方で、保護者の負担感が子どものスポーツ活動への不参加理由になるケースも少なくない。保護者にも多様性があることに目を向け、必要な情報の集約や公開に努めるなど、子どものスポーツ活動を「支える側」の環境を整えることが、子どものスポーツ環境の拡充につながると考えられる。