2017年度第5回スポーツアカデミーが1月17日に開催されました。
今回は文教大学 准教授、NPO法人日本スポーツボランティアネットワーク理事、日本財団ボランティアサポートセンター参与の二宮 雅也 氏にご講義いただきました。
【当日の概要報告】
※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
主な講義内容
2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功に向け、ボランティアの活躍が不可欠であることは論をまたない。そこでボランティア活動を進めるにあたり何が必要なのか、何が課題なのか、未来に残すべきレガシーを含め、ボランティアの現在と未来を考える。
文教大学 二宮 雅也 氏
1.1964年東京大会
1964年の東京大会は「国際身体障害者スポーツ大会」に初めてパラリンピックという名称が使われた大会だった。「奉仕員(ボランティア)」として携わった人が選手と触れ合ったり、選手同士が交流を深める機会が生まれ、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括・包含)が促進された。
また、当時のパラリンピックに出場した日本人選手たちは、海外の選手が障がいをもちながら仕事をもっていること、各選手が自立してスポーツの大会に出場していることに驚かされた。1964年に海外から受けたインパクトを、2020年は東京から海外に発信し、また海外から刺激を受ける機会とすることが望ましい。
2020年のボランティア参加者は、こうした障がい者スポーツの歴史や、障がい者の生活がこの半世紀の間にどのように変わってきたのかを理解すべきである。
2.ボランティア参加者
(1)障がい者
ボランティアに参加する障がい者は健常者とタッグを組む。このとき、健常者は障がい者をサポートするのではなく、お互いの強みをいかした活動をしていく。たとえば、車いす用トイレの場所を聞かれたら健常者でも答えられるが、どこの車いす用トイレが使いやすいかは、実際に車いす用トイレを使用する障がい者のほうがよく知っている。問われた事項に対して、より知っている方が情報提供を行う。こうしてタッグを組んで互いに協力することでサービスの質を高めることは、ダイバーシティ、インクルージョンの理解促進につながる。
(2)小学生、中高生
2012年のロンドン大会ではヤング・ゲームズメーカーとして16~17歳の高校生が活躍した。2020年東京大会で活動できるボランティアは18歳以上とする方針が打ち出されているが、小学生や中高生といった若い世代も大会に携われるような仕組みづくりをしていくべきだ。たとえば、パラリンピックのアーチェリーでは、多くの選手が的に刺さった矢を取りにいくことが難しいので、その矢を回収する役割を子どもが担う。パラリンピックの卓球では、車いすの選手は床に落ちたボールを拾うことができないので、ボール拾いを子どもたちが担う。また、授業の一環で9月開催のパラリンピックを観戦するという参加の仕方も考えられる。
(3)働く世代、子育て世代
今後、企業や自治体によるボランティア休暇制度が広まることが期待される。一方で、このような休暇制度の施行は一部の大企業にとどまる可能性が高い。子育て世代がボランティアに参加しやすい環境をつくるためには、ボランティアをしている間、子どもの世話をしてくれるボランタリー・サービスを整備することも検討される必要がある。
(4)その他
障がい者や外国人、多様なバックグラウンドをもった人たちがともにボランティア活動に取り組み、それぞれの強み、弱みを理解して、さまざまな課題を乗り越えていくことが、2020年のボランティアの大きなテーマとなる。こうした取り組みが共生社会の実現、アドボカシー機能の創出につながっていくと考えられる。
3.ボランティア・レガシーを考える
(1)1964年大会の子どもたちの参加
1964年大会に携わった当時の小学生には大会組織委員会から委嘱状が渡され、国旗掲揚に携わった小学生には「オリンピック東京大会国旗掲揚記念メダル」が授与された。これらの小学生は、1964年の東京大会を契機に創設された「スポーツ少年団」の団員だった。
(2)レコグニション&リスペクト
2012年ロンドン大会の閉会式でIOCのジャック・ロゲ会長は「この大会のボランティアはヒーローだった」とスピーチし、ボランティアに感謝の意を示した。ボランティアが一般の人にレコグニション(認識)され、リスペクト(尊敬)される社会を築けるかどうかは、2020東京大会の大きなテーマとなる。オリンピック出場選手をオリンピアン、パラリンピック出場選手をパラリンピアンと呼ぶように、大会をサポートしたボランティアは"ボランティアン"として認められ、尊敬されるようになるのが望ましい。
(3)ジョイン・イン(Join In)事業
2012年のロンドン大会では7万人のボランティア募集に24万人が応募、大会後にボランティア・レガシーが残された。大会前にスタートしたボランティア・プログラム「チーム・ロンドン」が発展し、大会後は慈善団体「ジョイン・イン・トラスト」がホームページ上でボランティアをしたい人と、ボランティアを求めている人を募り、両者をマッチングさせる「ジョイン・イン」事業を始めた。
(4)まとめ
現在、国内のボランティア活動のサポートは分野ごと・活動内容ごとに個々に行われているが、2020年を契機に総合的にボランティアをサポートするシステムが構築されることが望ましい。そこが中心となり、ボランティア活動の価値や楽しさを創出し、企業や行政、大学、NPOとも力を合わせ、ボランティア文化を発展させていく。