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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2016 第6回

スポーツメディアと“メディアスポーツ”

2016年度第6回目のスポーツアカデミーが1月23日に開催されました。
今回は産経新聞特別記者兼論説委員で、当財団理事の佐野 慎輔 氏にご講義いただきました。


【当日の概要報告】

※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。

産経新聞社 特別記者兼論説委員 佐野 慎輔 氏

産経新聞社 特別記者兼論説委員
佐野 慎輔氏

主な講義内容

スポーツはメディアとともに大きく発展した。メディアはいかにスポーツとかかわり、スポーツはメディアによってどう変わっていったのか。歴史を振り返るとともに、スポーツとメディアの今後のあり方を考える。

1.スポーツメディアの歴史

(1)スポーツの伝播と新聞の誕生
日本にスポーツという概念が入ってきたのは明治時代に入ってから。海外から来日したお雇い外国人がさまざまなスポーツを学生たちに広めた。時を同じくして国内では軍制と学制が導入され、軍と学校に設けられた「体育」により、日本のスポーツ文化は育まれた。新聞社もちょうど同じころに次々と誕生し、1895年の日清戦争を契機に部数を飛躍的に伸ばし、同時期にスポーツ報道が始まった。当時人気のあったスポーツは野球であり、日本の野球中心のスポーツ報道の原型が出来上がった。

(2)スポーツイベントとメディア

  • イベント事業者として
    1903年に第1回早慶戦が開催され、野球人気が沸騰。朝日新聞は1915年に全国中等学校優勝野球大会の開催を始めた(現在の夏の甲子園)。これは新聞の知名度アップ、販路拡大に大きく貢献し、1924年に毎日新聞が選抜高等学校野球大会を主催するようになる。
    学生野球に対抗するように、読売新聞が1936年にプロ野球を創設。他の新聞社も参画した。こうして新聞は1925年にスタートしたラジオとともに、スポーツイベントの主催者として新聞販売部数を拡張させ、同時に野球人気の拡大に大きく貢献した。
    スポーツとメディアの親和性は高く、その後も学生の各種競技大会や、市民によるマラソン大会など、新聞社やテレビ局がスポーツイベントをサポートする状況が現在まで続いている。
  • スポンサーとして
    2002年のサッカー日韓ワールドカップ以降は、新聞社が主催ではなくスポンサーという形でイベントに参加するケースが増えた。現在は朝日新聞がJリーグ、日経新聞がFIFA(国際サッカー連盟)、読売がJOC(日本オリンピック委員会)のスポンサーを務めている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは朝日、読売、毎日、日経がスポンサーに名を連ねた。
  • テレビ放映権料
    1953年に日本でテレビ放送がスタート。老舗の日本テレビはプロ野球の巨人戦の放送を通じて大きく利益を獲得した。スポーツイベントを中継するテレビの放映権料は高騰し、ビッグイベントを開催する際の重要な資金源となっている。

2.メディアスポーツとは

(1)野球と箱根駅伝
「メディアスポーツ」という言葉に明確な定義はないが、メディアで取り上げる価値の高いスポーツ、すなわちメディアバリューの高いスポーツをメディアスポーツと呼ぶ(高橋義雄筑波大学准教授)。日本で最も成功したメディアスポーツは野球であり、中でも夏の高校野球はその最上位にあると言える。夏の高校野球はふるさとを意識する数少ない季節行事。成人した視聴者にとっては高校時代の思い出がよみがえるイベントであり、地元へのアイデンティティともあいまって熱気は高まる。
また、箱根駅伝は現在のメディアスポーツの最たるものと言える。1920年に四大学対抗駅伝としてスタートした大会は、戦後に読売新聞が後援した。1956年に1月2、3日という現在の日程が定着し、1987年から日本テレビが放送開始。同局が1989年、空前の報道体制を整えて完全中継放送を始めてからグングンと視聴率がアップした。

(2)メディアスポーツ「箱根駅伝」の魅力を考える
以下のメディアスポーツとしての箱根駅伝の魅力をあらためて考えると、普及や魅力の浸透を図りたいほかのスポーツにも参考となる要素が見えてくる。

  • 「意外性」何が起こるかわからない=最良のビジネスコンテンツ
  • 「ドラマ性①」ほとんどの区間が20kmの長丁場=ひとりのミスが響く
  • 「ドラマ性②」優勝争いのほかに、もうひとつシード権争いという見所
  • 「場面転換」起伏に富んだコース=都会、湘南の海、箱根山中
  • 「ヒーロー」花の2区のごぼう抜き=エース区間という期待感
  • 「母校愛」カレッジアイデンティティ=出身校、あるいは好きな大学と自己の同一化
  • 「美学」1本の襷(たすき)をつなぐという日本的な文化=敗北の美学ですらある
  • 「風物詩」正月の生番組という魅力=撮り貯めた「おせち番組」との比較

(3)メディアが忘れてはならないこと
最後に、メディアとスポーツの関係を考えるときに、メディアが忘れてはならないことについて触れたい。メディアはスポーツを支援し、スポーツの価値を高める。そのこと自体は否定されるものではないが、支援するイベントにおける都合の悪いニュースを隠したりするケースや、事前報道で成功をあおったり、価値観を押し付けたりするケースも少なくない。メディアは己を律し、スポーツとの健全な関係を築くという理念を忘れてはならない。

ディスカッション:主なやりとり

Q.(フロア)ウェブメディアがポピュリズムに陥らず、健全な言論空間として機能していくためには何が必要か。
A.

(講師)記事掲載のスピードが重視されるウェブメディアでは、事前の内容精査が甘くなる傾向がある。新聞社には記者教育があり、デスク、校閲等、チェック機能が複数ある。加えて情報の裏を取る重要さも教わる。ただ、新聞報道も立ち位置によって報じ方が違うことも少なくない。健全な言論空間の構築という観点では、情報の出し手としてのメディアのあり方の議論とともに、受け手側のメディアに対するリテラシーも重要と思われる。

Q.(フロア)新聞がスポーツイベントを支援する目的は何か。
A.

(講師)新聞のイベント支援は、第一義には認知度を高める狙いがある。イベント開催を通じた認知度向上により、収入の増加がある程度確保できる可能性も模索する。また、CSR的な観点でそのスポーツの素晴らしさを広めることをサポートした結果、競技団体との信頼関係が築かれ、部数拡大につながるといった効果を期待する場合もある。