2017年度第4回スポーツアカデミーが11月24日に開催されました。
今回は大妻女子大学の井上 俊也 氏にご講義いただきました。
【当日の概要報告】
※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
主な講義内容
2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップは、8つのラグビー有力国以外で初めて開催されるワールドカップである。そこで競技者、運営者に加え観戦者の視点から、日程の利便性などについて検証する。
2017年度第4回スポーツアカデミーが11月24日に開催されました。
今回は大妻女子大学の井上 俊也 氏にご講義いただきました。
※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップは、8つのラグビー有力国以外で初めて開催されるワールドカップである。そこで競技者、運営者に加え観戦者の視点から、日程の利便性などについて検証する。
大妻女子大学 井上 俊也 氏
(1)概要
1987年に始まったRWCは、オリンピック、サッカーワールドカップに次ぐ世界三大スポーツイベントと言われ、4年に1度開催される。
本大会には20カ国が出場し、5チームずつ4つの予選プールに分かれ、各プール上位2チームが決勝トーナメントに進出する。予選プール40試合+決勝トーナメント8試合が開催国の各地で行われる。
(2)日程の特徴
大会期間は6週間強と長く(オリンピックは2週間強、サッカーワールドカップ4週間強)、予選の各プールは5チームのため、試合間隔に長短が生じる。同一時刻に他の試合が行われることはない。
(3)ビジネス面の特徴
開催国は、ラグビーの国際競技連盟(International Federation)である「ワールドラグビー」に対して大会保証料を支払う。また、開催国は大会運営費を全額負担する。開催国の収入は入場料収入のみで、テレビ放映権料やスポンサー収入は開催国の収入とならない。これにより、より多くの観客が動員できるスタジアムに、人気国の試合が集中する。また、有力国のテレビ視聴に配慮した日程となる。
(1)試合会場
試合は国内12会場、国外1会場で行われ、5万人以上を収容できる大規模スタジアムが4つ、3万人から5万人程度収容の中規模スタジアムが5つ、1万人から3万人程度収容の小規模スタジアムが4つ使用された。
(2)試合間隔
40試合中、25試合が土日に開催され、試合間隔は中3日から中9日まで。予選プールの期間中、まったく試合のない日が6日あった。
(3)有力国優先の大会運営
開催国のイングランドは予選プールの4試合中3試合で大規模スタジアムを使用し、試合間隔はほぼ1週間で安定。金曜の夜に1試合、土曜の夜に3試合と、現地観戦もテレビ観戦もしやすくなっていた。
時差の少ないヨーロッパ諸国、南アフリカなどの有力国の試合は土日中心、大規模スタジアム中心で日程が組まれた。有力国が体力的に最も厳しい「中3日」の日程をあてがわれるケースは少なかった。
日本は国内でテレビ観戦する試合時間こそ時差の割には恵まれていたと言えるが、スタジアムは小規模で、出場国ごとのスタジアム収容人数を比較すると、出場20カ国中最下位だった。
(1)試合間隔
日本はほぼ中1週間の試合間隔。すべての試合間隔が中5日以上なのは日本を含めて4カ国のみ。さらに日本の予選プール4試合中2試合は中3日あるいは中4日で日本と対戦する国との試合。
(2)移動距離
日本の予選プール4試合での移動距離は約488キロで出場国の中で最も短い。最も移動距離の長いオーストラリアはその5倍近い約2,275キロ。
(3)試合会場
日本の試合はすべて決勝トーナメントが行われる大規模スタジアムで行われる。
(4)ジャパンファースト
日本は開催国として、競技面では、「試合間隔」「移動距離」「対戦相手の試合間隔(中3日、中4日で日本と対戦)」に恵まれ、上位進出に向けて好材料がそろっている。収益面でも、収容人員の大きな競技場で有力8か国ならびに日本の試合が行われることから、入場料収入の増大が見込まれる。
(1)日本人の現地観戦
東京、横浜をはじめとする大都市には宿泊施設も多く、土日開催が多くても観戦に問題はない。大都市から離れた大分、釜石などの都市では平日開催が多く、集客に課題がある。宿泊施設も十分とは言えず、近隣都市を含む広域の宿泊施設との連携が必要になる。
宿泊を伴う観戦者を会場近くの観光スポットに誘引することも必要。特に釜石、熊谷など目立った観光スポットの比較的乏しい都市は、観光イベントの開発が求められる。
(2)日本人のテレビ観戦
日本戦はすべて週末の夕方から夜に行われる。有力国の試合も週末ないし平日夜の開催が多く、日本人の視聴習慣に合っている。
(3)外国人の現地観戦
ラグビーはサッカーに比べて現地観戦に訪れる外国人が多いので、宿泊施設の確保は大きな課題となる。ファンの多いイングランドは大都市での試合が多いが、ウェールズや南アフリカなどは地方都市の夜の試合が含まれており、宿泊に問題が出る可能性がある。
(4)外国人のテレビ観戦
時差の関係でヨーロッパ諸国は平日昼に試合が行われるケースが多い。ヨーロッパおよびアフリカは、日本と時差の少ないニュージーランドで開かれた大会のときよりもテレビ視聴環境は悪い。一方、ニュージーランド、(これも時差の少ない)オーストラリアのテレビ視聴環境は良い。
(5)観光立国・日本とワールドカップ
出場各国の試合開催地により、京阪神→東京という観光のゴールデンルートを通る国もあれば、首都圏で試合がない国もある。中3日は観光ツアーが組みやすいという利点がある一方、滞在時間の短さはホスト国にとってマイナスとなる。また、試合間隔が長いと、観戦者が韓国やハワイなど外国に観光に行ってしまう可能性も高まる。
RWC2019日本大会の日程は、競技面・収益面から見るとジャパンファーストであり、首都圏中心の運営は、翌年の2020年東京オリンピック・パラリンピックの布石にもなっている。
一方で、有力国はこれまでに受けてきた恩恵(試合間隔、移動距離、テレビ視聴環境)を享受しにくくなっているともいえる。ちなみにサッカーのワールドカップは抽選で日程が組まれるため、2016年ブラジル大会では、開催国のブラジルが主会場のマラカナンスタジアムで試合をすることができなかった。大会開催に向けては、こうした事実も踏まえつつ、観光立国日本として迎えるネーションワイドのスポーツイベントを成功に導く努力が求められる。
(講師)観客動員はどこの開催都市にとっても悩ましい問題。個人的にはラグビー専用球場である花園と熊谷で有力国の試合が組まれなかったのは残念。イングランド大会では、小規模であってもラグビー専用球場に敬意を表するかたちで有力国の試合が組まれた。
(講師)日本では、「大都市には国際的なスポーツイベントをやる義務、責務がある」という意識が低いように思える。2007年のフランス大会では人口の多い10都市のうち9都市が試合会場となった。地方都市が開催都市になる意義は認めるものの、一方で人口が多ければ宿泊やボランティアの問題は解決しやすいということも事実。