Search
国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

知る学ぶ
Knowledge

日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラム(2021年度)

スポネットかくだ・第1優先課題解決の取り組み

スポネットかくだでは、将来ビジョン「元気をつなごう ~スポーツで明るく楽しく健康で活力あるまち(アクティブシティ)を目指して~」実現のために、角田市のスポーツにおけるさまざまな課題を整理。第1優先を「幼児スポーツ」の課題解決とした。これは、幼児期から運動あそびを楽しむ習慣をつけることは、その後のライフステージにおいてもスポーツを楽しむ人を増加させる効果が期待できると考えたからである。

具体的には、幼稚園・保育所等と連携しながら、日本スポーツ協会が開発した、子どもが発達段階に応じて身につけておくことが望ましい動きを習得するプログラム、「アクティブ・チャイルド・プログラム(ACP)」のかくだ版を実施する。

2020年度は、スポーツ庁が公募した「Sport in Life 推進プロジェクト」をSSFが受託。「かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラム」を実証実験として、幼児・子どものスポーツ実施率向上、スポーツ実施を阻害する課題解決に取り組んだ。

2020年度のかくだ版ACPの検証を行い、「94.7%の園児が運動あそびを好きになった」など、さまざまな効果的な結果が得られたことから、2021年度以降は通年開催することが決定した。

かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラムの主な事業

■目的
角田市の幼児期の運動・スポーツに対する以下4つの課題解決に向けて2020年度から実施している「かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラム」に取り組み、阻害要因や促進要因の仮説検証とともに、実施頻度や実施意欲の改善を目的とした。

■課題
①昔と比べ運動をしない子、苦手な子が多く小学校以前の幼児期に二極化がみられる
②運動が苦手な子には丁寧な指導が必要で時間をかけて楽しみのある内容が求められる
③スポーツに親しむ家庭環境の醸成や、保護者が過度に怪我を恐れる風潮の改善が求められる
④日常の遊びにおいて身体を動かす機会が減少している

■実施内容
市内の幼稚園、保育所、認定こども園等(以下、「保育現場」)と連携を強化。対象は保育現場に通う幼児(0~5歳の未就学児)。保育現場では保育者向けの研修会と出前講座を、乳幼児健診とスポーツ交流館では、乳幼児親子への教室を展開し、身体活動・運動の定着化を図る。

事業① 幼稚園・保育所・認定こども園等の場を活用した事業

■2020年度の振り返り
・保育現場及び参加した児童から好評→運動時間が少ない園児の64.9%もが運動が好きになったと回答
・4・5歳児担当の保育者へ運動あそびの理解、スキル獲得につながったが、それ以外を担当する保育者へも研修の場が必要

■2021年度の事業

●4・5歳児における運動会とその練習における留意点の座学や「リレーあそび」の実技研修会
●角田市内保育現場の教諭・保育士を対象にした運動あそびについての講座
●出前講座「リレーあそび」の実施
●保育現場のクラスごとに希望する運動あそびを実施

事業② 乳幼児健診の場を活用した事業

乳幼児健診の待ち時間を活用した運動あそび講座を実施し、市内の乳幼児親子へ発達段階に応じた適切な運動の情報発信をするとともに、運動体験の場を提供

■2020年度の振り返り
・保護者の40.2%に「体を動かしたいとの意識変化」
・健診時間が、乳幼児が眠くなる時間帯であったため、参加が難しい親子も見受けられた(新たな取り組みのため、2021年度も同時刻開催とし状況を見守ることとした)

■2021年度の事業

●「3~5か月健診」での「産後ママのボディケア講座」
●「1歳おたんじょう相談」「2歳6か月児歯科検診」 での「運動あそび講座」の実施
●3歳児用の親子運動あそびリーフレットも作成し、3歳6か月児健診で配布、周知
●リーフレットを事業③の講師や保育現場の保育者にも配布し横展開

事業③ 子育て支援センター・スポーツ交流館での運動あそび講座開催

希望者が自由に参加できる「アクティブ・チャイルド・プログラム」運動あそび教室の定期開催

■2020年度の振り返り
・アンケート結果は好評
・1~2歳児は5割以上が保育所へ入所、また参加する親が職場復帰すると平日開催のため参加できないなどの課題あり

■2021年度の事業
より多くの親子が参加できるように開催曜日を変更し、講座数も増やし通年開催とした

●「赤ちゃんママのヨガ&ストレッチ」「親子運動あそび」など
●子育て支援センター(平日午前)/対象3~12か月児、1~2歳児
●スポーツ交流館(土曜日)/対象1~2歳児、3歳~未就学児

かくだ版ACP 効果検証と分析結果

調査概要

  • 調査期間:2021年12月~2022年2月
  • 調査対象:宮城県角田市の保育所・幼稚園に通う4~6歳の園児とその保護者
  • 標本数:271組(542人)
  • 有効回収数(率):219組(80.8%)
  • 調査方法:質問紙調査(調査票の配布は「運動あそび出前講座」に参加した保育所・幼稚園の園児・保護者に直接配布し、回答後保育所等にて回収を行った)

出前講座の実施は子どもの気持ちや、保護者の意識・行動に好影響

2回目の実施となる2021年度の調査では、調査票回収率が80.8%と前回を大きく上回り、角田市内の幼児(4、5歳児クラス)の運動・スポーツ習慣や意識、生活習慣、保護者の意識など、より実態に近いデータの収集ができた。

①子どもの運動・スポーツ実施と気持ちの変化

●2020年度調査同様、日常的に運動あそびを継続するような行動変容に至ったかの評価には、引き続きフォローアップが必要であるものの、運動あそび出前講座受講後の実施意欲や講座への参加希望は高い割合を示し、本事業が子どもたちの運動・スポーツ実施に対する気持ちに好影響を与えていることが確認された。

●出前講座前の運動・スポーツ実施頻度が高頻度のグループは、運動・スポーツに対してポジティブな感情を抱く割合が高い。また、運動・スポーツに対してポジティブな感情を抱く子どもは、ネガティブな感情を抱く子どもよりも運動・スポーツが好きな割合や講座参加後の気持ちの変化、実施意欲いずれも高い結果となった。運動・スポーツに対するポジティブな感情は実施意欲などとの関連が確認された。

②家庭での取り組みや保護者の意識や行動の変化

●家族との運動・スポーツ実施状況は「よくしている」「時々している」を合わせた割合が2020年度調査よりも高かった。講座参加後の家族との運動機会は2020年度の「やや増えた」9.6%に対し、2021年度は「増えた」2.8%、「やや増えた」22.2%と昨年度よりも講座の実施が家族との運動・スポーツ実施の増加に繋がったと考えられる。

●2020年度調査よりも意識や行動に変化があった保護者の割合は高い値を示し、変化があった者は変化のなかった者に比べ、子どもが家族と一緒に運動・スポーツを実施、会話する機会が増加した。講座の実施が保護者の意識等に変化をもたらし、家族との運動・スポーツに関するコミュニケーションの増加に寄与したと推察できる。

主な調査結果

①子どもの運動・スポーツ実施と気持ちの変化

■運動・スポーツの好き嫌い

図表1. 運動・スポーツの好き嫌いと講座への参加希望

ACP2021_1.jpg

今後も出前講座へ「参加したい」と回答した83.0%が運動・スポーツが好きであり、「どちらかというと参加したい」52.6%、「どちらかというと参加したくない」40.0%、「参加したくない」42.9%より高い割合を示した。

■運動あそび出前講座参加後の運動意向や気持ちの変化

図表2. 参加後の運動意向

ACP2021_2.jpg

講座参加後に運動・スポーツを「もっとしたい」と回答した割合は2020年度は82.2%、2021年度は75.8%と引き続き高い値を示した。

図表3. 参加後の運動に対する気持ちの変化

ACP2021_3.jpg

気持ちの変化においても「参加前よりも好きになった」は2020年度、2021年度ともに50%以上を示し、「参加前と同じくらい好き」と合わせた割合は2020年度98.9%、2021年度94.2%と運動あそび出前講座の実施は園児の運動・スポーツへの参加意向や気持ちに好影響を与えている。

■運動・スポーツについて感じていること

図表4. ポジティブ、ネガティブな感情と実施頻度の関係

SLD2021_4re.jpg

注)高頻度:1週間3回以上または1日1時間以上
  低頻度:1週間に2回以下かつ1日1時間未満
  出前講座実施前の運動・スポーツ実施回数・時間を示す

運動・スポーツについて感じていることをポジティブ、ネガティブ項目に分類し高頻度、低頻度グループで比較した。頻度別の差を見ると「からだを動かすので気持ちがいい」は13.0ポイント、「上手にできる・得意」は11.7ポイントとポジティブ項目の中でも差が大きい。

ネガティブ項目では「疲れる」が-16.5ポイント、「うまくできない・苦手」  -8.8ポイント、「できないと恥ずかしい」8.6ポイントであった。実施頻度が少ない子どものほうがポジティブ項目の割合が低く、疲れる、苦手といったネガティブ項目の割合が高い傾向が確認された。

図表5. ポジティブ、ネガティブな感情と講座参加後の気持ち

SLD2021_5.jpg

図表6. ポジティブ、ネガティブな感情と実施意欲

SLD2021_6.jpg

運動・スポーツについてポジティブな感情のみを持つ子どもと、ネガティブな感情を1つ以上もつ子どもを比較した。
講座参加後の気持ちが「参加前よりも好きになった」は「ポジティブ」58.3%、「ネガティブ」47.7%、実施意欲の「もっとしたい」は「ポジティブ」84.5%、「ネガティブ」65.9%であった。いずれの項目も「ポジティブ」の割合が「ネガティブ」を上回る結果となった。

②家庭での取り組みや保護者の意識や行動の変化

運動あそび出前講座参加後の子どもと一緒に遊ぶ際の保護者の気持ちや内容の変化(保護者回答)

■家族との運動・スポーツ(保護者回答)

図表7. 家族との運動・スポーツ実施状況

SLD2021_7.jpg

図表8. 講座参加後の家族との実施状況の変化

SLD2021_8.jpg

2021年度の家族との運動・スポーツ実施状況は「よくしている」14.2%、「時々している」51.8%。「ほとんどしていない」27.1%、「全くしていない」6.9%であった。 「よくしている」「時々している」を合わせると2020年度47.9%、2021年度は66.0%と昨年度より高い割合を示した。講座参加後の家族との運動機会は2020年度の「やや増えた」9.6%に対し、2021年度は「増えた」2.8%、「やや増えた」22.2%と昨年度よりも講座の実施が家族との運動・スポーツ実施に繋がったと考えられる。

図表9. 保護者の気持ちやあそびの内容の変化

SLD2021_9.jpg

2021年度の調査では「子どもの運動能力に対して興味をもつようになった」が25.9%と最も高く、「子どもの運動あそびに関心をもつようになった」24.5%が続いた。2020年度と比べ、「子どもの運動能力に興味をもつようになった」が8.9ポイント(17.0%→25.9%)、「子どもと遊べる運動あそびのレパートリーが増えた」が7.2ポイント(5.3%→12.5%)増えた。

■講座参加後の保護者自身の運動に対する行動や意識の変化(保護者回答)

図表10. 保護者自身の運動に対する行動や意識の変化

SLD2021_10.jpg

2021年度は「体を動かすことは大切だと思った」32.4%が最も高く、「運動・スポーツをしたいと思った」16.2%が続いた。「日常生活の中で体を動かす機会」や「運動・スポーツをする機会が増えた」と回答した割合は2020年度より微増したものの、全体的には低い値であった。しかし、7項目のうち5項目は2020年度調査よりも高い割合を示し、運動あそび出前講座の実施が保護者の行動や意識の変化に効果をもたらしている。

図表11. 変化の有無と家庭での実施の増減

SLD2021_11.jpg

図表12. 変化の有無と家庭での会話の増減

SLD2021_12.jpg

講座参加後の子どもと一緒に遊ぶ際の保護者の気持ちや内容の変化と家族との運動・スポーツ実施・会話の増減について示した。家族との実施が「増えた」と回答した割合は、「変化あり」39.2%、「変化なし」7.3%、会話は「変化あり」28.0%、「変化なし」3.1%であった。家族との実施と会話の増減は変化の有無による差が特に大きかった。

課題解決に向けた今後の展開

子どもが運動・スポーツに対してポジティブな感情を抱く取り組みの実施

子どもが運動・スポーツを楽しい、もっとやりたいと思うようなプログラムを展開しポジティブな感情を抱いてもらうことにより、運動好きな子どもが増え、運動習慣の改善につながるのではないだろうか。その際、指導者や保育者、保護者の声かけなど周りの大人の役割は重要になると考えられる。運動・スポーツに対してポジティブな感情を抱く子どもの増加により、運動をしない子や苦手な子の減少につながり、角田市の子どものスポーツの課題のひとつでもある運動・スポーツをする子としない子の二極化の解消が期待される。

保護者への周知や親子講座の実施など家族を巻き込んだ取り組みの実施

運動あそび出前講座実施後に行動や意識に変化があった保護者の家庭において、子どもと一緒に運動・スポーツを実施したり、会話をする機会の増加するなど、講座実施が家庭での子どもとの運動・スポーツの関わりに変化をもたらした。角田市が抱える課題である「スポーツに親しむ家庭環境の醸成」「保護者が過度に怪我を恐れる風潮」の改善に向けて、子どもを対象とした講座に加え、親子で参加できるプログラムの実施や保護者に対する運動あそびの効果を周知するなど家族を巻き込んだ取り組みは効果的であると考えられる。

かくだ版アクティブ・チャイルド・プログラムの継続に向けた指導者の確保・育成

本事業は2年度目の実施となり、保育所、幼稚園との連携・協力体制や信頼関係が醸成され、講座の継続的な実施を希望する声も多い。一方、昨年度から「出前講座で実施するACPを総合的にプロデュース・指導できる人材の確保」が課題であり、運動あそび出前講座の講師を務める仙台大学教授原田健次氏による保育者を対象とした研修会なども計画されている。