笹川スポーツ財団は、2023年11月8~10日に、全国に居住する3~6歳の幼児の保護者3,144名を対象として「幼稚園・保育園以外における幼児の運動実施の実態調査」を行いました。
これまで、家庭や地域といった「園外」での幼児の運動実施状況の全国的な把握はなされてこなかったことから、本調査は幼児の園外での外遊び・室内での運動遊び・運動の習いごとの3つの側面から運動実施状況を把握し、生活習慣や生育環境(保護者の関わり方など)との関連を分析することを目的としました。
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
笹川スポーツ財団は、2023年11月8~10日に、全国に居住する3~6歳の幼児の保護者3,144名を対象として「幼稚園・保育園以外における幼児の運動実施の実態調査」を行いました。
これまで、家庭や地域といった「園外」での幼児の運動実施状況の全国的な把握はなされてこなかったことから、本調査は幼児の園外での外遊び・室内での運動遊び・運動の習いごとの3つの側面から運動実施状況を把握し、生活習慣や生育環境(保護者の関わり方など)との関連を分析することを目的としました。
・1週間のうち園外で「1日も外遊びをしていない」幼児は8.1%(p.21)
・平日に園外で「全く外遊びをしない」幼児は46.6%(p.22)
・幼児の7割が「物を打つ動き」、6割が「逆さまになる動き」を十分に経験していない(p.59)
・運動実施頻度が高い幼児ほど、平日の「スクリーンタイムが2時間以上」の割合は低い(p.66)
・両親ともに週1日以上の運動・スポーツをしている家庭の幼児は、運動時間が長い(p.80)
・親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度が多いほど、幼児の園外での総運動時間が長い(p.81)
・親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度が多いほど、他者を思いやり協力的に行動できる、いわゆる社会性が高い傾向(p.94)
*こちらに記載の「ポイント」は調査結果のごく一部です。( )内は報告書本紙におけるページ
子どもの体力・運動能力低下は低年齢化の傾向にあり、幼児期からの身体活動の重要性が指摘されるが、わが国には子どもに関する調査・研究データを一元的に蓄積する中心的機関は存在せず、これまで幼児の運動実施状況を詳細に把握できる全国的なデータはなかった。本調査から得られたデータは、子どもの運動習慣形成および体力向上のための施策への活用が期待される。現代の幼児は、幼稚園・保育園以外では半数が平日に外遊びをしておらず、約12人に1人は1週間のうち1日も外遊びをしていなかった。また、幼児の運動実施と社会性との関連性が明確だったのは「親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度」であった。親が子どもと一緒に体を動かして遊ぶ機会を確保できるよう支援していく取り組みが特に重要である。
笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 シニア政策オフィサー 武長 理栄
(1)1週間のうち園外で「1日も外遊びをしていない」幼児は8.1%(p.21)
図表1に1週間における園外での外遊び日数を全体、年齢別、性別・年齢別に示した。全体では、週2日が32.8%と最も多く、次いで週7日が30.3%であり、外遊びの日数が週に2日と7日を合わせるとおよそ6割を占めた。1週間のうち「全く外遊びをしない」幼児の割合は8.1%であった。
注1)園にいる時間や運動の習いごと以外で体を動かす外遊びを行った日数
注2)過去1ヵ月、ケガや病気などで運動に支障があった幼児(n=241)は除外した(1週間以内で治るケガや風邪などは含まない)
(2)平日に園外で「全く外遊びをしない」幼児は46.6%(p.22)
図表2に平日における園外での幼児の外遊び時間を全体・年齢別に示した。過去1ヵ月間で月曜日~金曜日に行った1日あたりの外遊び時間の平均値を算出した。全体では「0分」が46.6%と最も高く、およそ半数の幼児が外遊びを全くしていなかった。次いで「30分以上45分未満」12.8%、「1分以上15分未満」12.2%、「15分以上30分未満」11.1%であった。30分以上外遊びを行っている割合をみると30.1%であった。
注1)園にいる時間や運動の習いごと以外で体を動かす外遊びを行った時間
注2)過去1ヵ月、ケガや病気などで運動に支障があった幼児(n=241)は除外した(1週間以内で治るケガや風邪などは含まない)
(3)幼児の7割が「物を打つ動き」、6割が「逆さまになる動き」を十分に経験していない(p.59)
本調査で園外での運動遊びの「質的な実態」として、運動・スポーツにつながる12種類の基本的な動作の過去3ヵ月間における経験状況を確認したところ(図表3)、
①「走る動き」は比較的よく経験できている
②幼児の7割が「物を打つ動き」、6割が「逆さまになる動き」を十分に経験していない
③体のバランスをとる遊び(平衡系)や物を操作する動き(操作系)は経験の機会が限られている
などの実態が明らかとなった。幼児期は「走る」「跳ぶ」「投げる」などの基本的動作が身につき、それらの動きが上達する時期であり、遊びを通して様々な動きが経験できるような機会が必要である。園での取り組みとして、家庭や地域では経験されにくい動きが含まれる遊びを意識的に取り入れるほか、園舎や園庭で過ごす中で様々な動きが出現するような環境の設定なども有効であるといえる。
注1)園にいる時以外で、経験した基本的な動きの種類。習いごとでの活動も含む
注2)過去1ヵ月、ケガや病気などで運動に支障があった幼児(n=241)は除外した(1週間以内で治るケガや風邪などは含まない)
(1)運動実施頻度が高い幼児ほど、平日の「スクリーンタイムが2時間以上」の割合は低い(p.66)
図表4に運動実施頻度群別にみた平日のスクリーンタイムを年齢別に示した。
「スクリーンタイムが2時間以上」の割合をみると、年少では運動非実施群28.6%、低頻度群27.2%、中頻度群21.1%、高頻度群21.4%、年中では運動非実施群32.4%、低頻度群27.0%、中頻度群19.3%、高頻度群21.9%であった。年長では非実施群38.2%、低頻度群26.6%、中頻度群26.1%、高頻度群21.4%であり、運動頻度が高いほど「スクリーンタイムが2時間以上」の割合は低かった。また、年長の運動非実施群においては「スクリーンタイム5時間以上」が8.8%を占めていた。
注1)園(幼稚園・保育園など含む)の活動以外で、テレビやDVDをみたり、パソコン、ゲーム(テレビ、パソコン、携帯式のゲーム機などを含む)、 スマートフォンなどを使用したりする1日あたりの時間
注2)Wii Sportsなどの体を動かすゲーム、YouTubeなどの動画をみながら体を動かす時間は含まない
注3)非実施群:園以外の時間に全く運動をしない、低頻度群:週に1~2日実施、中頻度群:週に3~6日実施、高頻度群:週7日(毎日)実施
(1)両親ともに週1日以上の運動・スポーツをしている家庭の幼児は、運動時間が長い(p.80)
図表5に両親の運動・スポーツ実施頻度と幼児の総運動時間との関連を示した。両親ともに週1日以上の運動・スポーツ実施頻度がある家庭の幼児の総運動時間が長かった。ひとり親世帯の幼児は、親の運動・スポーツ実施頻度にかかわらず、両親ともに週1日未満の家庭と同水準の総運動時間であった。
両親のどちらかだけではなく、両親ともに週1日以上の運動・スポーツ習慣をもつことができるような環境の整備やサポート体制は、幼児の運動時間の増加につながる重要な要因となる可能性がある。
注1)値は共分散分析の調整平均(共変量:子どもの性別、年齢、就園状況、きょうだい人数、世帯年収、親の学歴、運動・スポーツの習いごと)
注2)多重比較:両親とも週1日以上 > 母親週1日以上・父親週1日未満、父親週1日以上・母親週1日未満、両親とも週1日未満、どちらかが「わからない」と回答
(2)親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度が多いほど、幼児の園外での総運動時間が長い(p.81)
図表6に親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度別にみた幼児の園外での総運動時間を示した。
幼児の年齢や就園状況、世帯年収や親のスポーツ実施頻度にかかわらず、親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度が多ければ多いほど、幼児の園外での総運動時間が長かった。全てのカテゴリー間で統計的に有意な差が認められ、親子で一緒に体を動かす機会の重要性が確認された。
一律に高い目標を目指すのではなく、現状よりも少しでも良いので、子どもと一緒に体を動かす機会をつくることで、子どもの運動時間に良い影響がある可能性が示唆された。家庭への啓発だけではなく、社会全体で親子が体を動かす機会を確保できるような環境や子育て世帯へのサポートが必要である。
注1)値は共分散分析の調整平均(共変量:子どもの性別、年齢、就園状況、きょうだい人数、世帯年収、親の学歴、親のスポーツ実施頻度)
注2)多重比較:ほとんど毎日 > 週に3~4回 > 週に1~2回 > 月に1~3回 > 全くしなかった
(3)親子で体を動かす遊びの頻度が高いほど、向社会的行動の強さの得点が高い傾向(p.94)
全体として、体を動かす遊びの頻度・時間が多いほど、友達との関係が良好で、他者を思いやって協力的に行動する傾向が強いことが明らかになった(p.90-92)。図表7に、特に明確な関連がみられた「親子で一緒に体を動かして遊ぶ頻度」別にみたSDQ日本語版の「向社会的行動の強さ」得点を示した。「向社会的行動の強さ」は、得点が高いほど他者を思いやって協力的に行動する傾向が強い、いわゆる社会性の発達状況を示す指標である。体力・運動能力といった身体的側面だけではなく、目に見えにくい「社会性」に関わる資質にも体を動かして遊ぶこと、中でも親子での運動遊びが強く関わっている可能性がある。
今後は、体を動かす遊びが子どもの心や社会性の発達に及ぼす長期的影響とその背景を調べることと並行して、親子が一緒に体を動かして遊ぶ時間や機会を確保する取り組みも必要である。
※「向社会的行動の強さ」の図を抜粋
注1)値は共分散分析の調整平均(共変量:子どもの性別、年齢、就園状況、きょうだい人数、世帯年収、親の学歴、回答者の性別)
注2)F値、p値、効果量、および多重比較の結果はSDQ得点のlog変換値を用いた分析に基づく
注3)SDQ日本語版(子どもの強さと困難さアンケート:Strength and Difficulties Questionnaire)は、子どものメンタルヘルス全般をカバーするスクリーニング尺度として開発された指標である。幼児の情緒・行動特性を25項目の質問でたずね、日常生活への適応のしやすさ・しづらさを評価できる。
※図表の数値(%)は、小数点第2位以下を四捨五入しているため、文中の数値(%)の合計値とは一致しない場合があります。
全文(PDF:9.94MB)
子どものスポーツ
2023年度
公益財団法人 笹川スポーツ財団