大山 加奈 氏(スポーツキャスター)
主な講義内容
小、中、高校で日本一となり、日本代表選手としてアテネ五輪に出場。そのキャリアは多くの栄光に彩られながら、スポーツ指導の問題点や矛盾をいくつも感じる現役時代を送った。引退後の経験も踏まえ、ジュニア世代の指導の在り方を問う。
大山 加奈 氏(スポーツキャスター)
小、中、高校で日本一となり、日本代表選手としてアテネ五輪に出場。そのキャリアは多くの栄光に彩られながら、スポーツ指導の問題点や矛盾をいくつも感じる現役時代を送った。引退後の経験も踏まえ、ジュニア世代の指導の在り方を問う。
小学2年生から始め、多くの財産を手にした。
(1)健康
子どもの頃、重度の喘息で医者から激しい運動を止められていた。両親を説得してバレーボールを始め、体が強くなった。
(2)仲間
喘息だったこともあり、家で本を読むなど友人が少なかったが、多くの仲間ができた。
(3)成長
自分は体が弱い、運動が得意じゃないからできなくてもしょうがないと思っていたが、妹が先にレギュラーになり初めて悔しいと感じた。以来、「妹に負けたくない」という気持ちを原動力に成長できた。
(4)自信
小学3年時の「得意なもの大会」でバレーボールの対面パスを披露。それまでは自己肯定感の持てない子どもだったが、友人から褒められ「バレーボールでもっと認められたい」と思うようになった。
(5)経験
小学6年時に全国大会で優勝。表彰式で、当時日本代表の大林素子さんに「早く全日本に来てね」と声を掛けられ、日本代表が夢から目標に変わった。大人の言葉が子どもの人生を左右することがある。
多くの財産を得たと同時に失ったものもあった。
バレーボールから得たもの
(1)健康
小学校では、休日は朝から晩まで練習試合。身長175cmだが、充分でない筋力でスパイクを打ちまくり、小学6年生で腰と膝に痛みを抱えた。
高校2年生で日本代表に選ばれ、成人と同じ練習量をこなして体にさらに負担がかかった。足がしびれ出し、卒業後にヘルニアが判明した。
中学、高校を過ごした成徳学園の指導者は選手を否定せず、怒鳴ったり、殴ったりは一切なし。「バレーボールを嫌いにならないこと」をモットーとし、体づくりを重視し、休みも週2日程度あった。
けがを抱えながらもプレーを続けられたのはこうした環境のおかげ。
(2)自信・成長
日本代表で長時間練習が連日続き、精神的に追い込まれ、マイナス思考に陥り、自信を失っていった。
慢性的な腰通治療が夜遅くまでかかり、睡眠時間も削られた。幼少期から期待され、逃げる選択肢はなかった。その結果、薬を常用しなければならないほど精神的に追い詰められた。
北京五輪を断念して手術を受け、484日かけて復帰したものの感覚が戻らず、フェードアウトするように26歳で引退した。親友・日本代表の荒木絵里香選手は幼少期にさまざまなスポーツを経験していた。
今年で36歳になる現在も、6歳になる娘を育てながらV リーグでプレーしている。私は結婚して5年目になるが子供はいない。腰の手術をした影響が大きく、現役時代の過剰な服薬も妊娠しにくい原因だと考えられる。
(3)経験
小学校からバレーボール漬けで、家族旅行、友達と遊ぶ経験がほとんどない。家族との思い出は作っておくべきだし、友達とも遊んでおくべき。そうした経験が競技終了後の人生に役立つ。
人とつながり、自分を大切に思う心がなければならない。これらは指導者の行き過ぎた指導によって簡単に壊されてしまう可能性がある。
現在のバレーボール界には不幸な子どもたちがたくさんいる。こうした状況改善にはメダル至上主義からの脱却が求められる。試合までの過程や失敗しても起き上がる姿に価値を見出してほしい。
私の目標は、バレーボール界の意識改革を行い、すべての子どもに「バレーをやってよかった」と思ってもらうこと。指導者の方々には、子どもたちの人生を豊かにするような指導者になってほしいと願う。
大山 氏 発表資料
(講師)私は今、バレー界を変えたいと思っている。そのためには全国大会を無くす必要性を感じている。
反対意見は多いと思うが、そうした指導者や保護者の意識が変わるまで全国大会はいらない。全国大会があるせいで子どもたちをコマのように扱う行き過ぎた指導が出てきてしまうと思う。
練習を休めない環境を変えるためには、先生と連携をとって子どもたちの状態を見るとか、周りにいる人たちをうまく利用しながら選手を守る体制が必要。
(講師)成徳学園の恩師は「ずっとバレーを好きでいてほしい、ずっとバレーを続けてほしい」という思いが強かった。
だから日本代表よりも、卒業してもこれだけバレーを続けている子がいる、指導者になった子がいる、というのがやりがいだったと思う。
強豪校の学生でも多くは高校でキャリアを終える。その後の人生を考えれば、授業をしっかり受けることは大切。
(講師)小学校の体験授業では試合をしない。試合をすると苦手意識を持っている子はバレーボールを嫌いになってしまう可能性がある。
最初はだれでもできることをやり、劣等感を持たない練習メニューを意識する。すべてができなくても、できている部分を見つけてほめてあげる。そうするとスポーツが苦手そうな子もニコニコしながら楽しんでくれる。