釜石市総務企画部
ラグビーワールドカップ推進室 室長補佐
増田 久士 氏
2015年度の第1回スポーツアカデミーが5月29日に行われました。
今回は釜石市総務企画部ラグビーワールドカップ推進室室長補佐の増田 久士 様にご講義いただきました。
【当日の概要報告】
※以下の報告は、別掲の当日資料と合わせてご覧ください。
主な講義内容
1. 釜石市とラグビーワールドカップ
(1)釜石市の概要
釜石市は岩手県の南東部、三陸復興国立公園の中心に位置し、88%が山地と三方を山に囲まれ、東側は北太平洋をのぞむリアス式海岸の港町。さらに近代製鉄発祥の鉄のまちとしても知られ、新日鉄釜石ラグビー部が日本選手権7連覇を記録したこともあり、ラグビーはまちの誇りとして定着している。現在は新日鉄釜石を母体にしたクラブチーム、釜石シーウェイブスが活躍中。また2011年の東日本大震災では1,040人にのぼる死者行方不明者を出した被災地でもある。面積は横浜市とほぼ同じだが、人口は横浜市(370万人)の百分の一(3万6,500人)で、地理的には不便なところにある。
(2)ラグビーワールドカップの概要
1987年に始まったラグビー世界一を争う4年に1度の国際大会。スポーツイベントではサッカーワールドカップ、オリンピックに次ぐ規模を誇る。開催期間は6週間で、予選を勝ち抜いた20ヵ国が約10会場で48試合を行う。2019年の日本大会は2009年に決定。アジア初、ラグビー伝統国以外では初めての大会となる。
2. ワールドカップ開催地招致までの道のり
(1)東日本大震災が招致の契機に
2011年3月に東日本大震災が発生。釜石シーウェイブスのメンバーは外国人選手も含めて復興作業に全面協力。ラグビースピリットが連帯意識を高めた。2011年夏、ラグビーを通して東北復興を目指すNPO法人「スクラム釜石」の石山次郎氏(新日鉄釜石ラグビー部OB)らラグビー関係者が「ワールドカップ招致が復興のきっかけになるのでは」と考え、ワールドカップ招致を市長に提案。徐々に市民運動の輪が広がっていった。同年12月に市が「復興まちづくり基本計画」にワールドカップ招致を明記した。
財政的な裏付けを取るため、市議会、県議会への説明、市民の理解を得るためのタウンミーティングやシンポジウムを開催。計画がとん挫しそうな局面もあったが、2013年10月、森喜朗日本ラグビーフットボール協会会長(元総理)を地元での試合観戦と被災地視察にお招きすることに成功し、機運が盛り上がっていった。2014年11月の立候補を経て、2015年3月に開催地に正式決定した。
(2)ダイバーシティスタジアム計画
「スポーツの力」と「防災避難の知恵」を活かした新スタジアム建設計画を立案。スタジアムの建設地は、東日本大震災で津波の被害にあった鵜住居小学校、釜石東中学校の跡地となった。ここの小中学生は震災当時、600人が素早く避難し、多くが津波の被害を逃れた。このような防災を象徴するシンボリックな場所にスタジアムを建設することで、震災復興を世界にアピールする効果が期待される。また、当初の計画からメインスタンドに常設施設を追加し、低スペックの倉庫スタイルにしたうえで、大会時のメディアセンターを大会後は防災備蓄倉庫と簡易宿所として利用することなどを考えている。さらには震災体験などを通し、防災学習ができるようにする予定。これにより当初の常設1,000席、仮設1万5,000席から、新スタジアムは常設6,000席、仮設1万席となる。サブグラウンドはフル装備だったものを縮小版に変更し、経費節減に努めた。
(3)交通網の整備
震災復興道路の整備によりアクセスが向上。2018年には釜石市と仙台市が2時間強で結ばれる。JR山田線の復旧計画も始まり、三陸鉄道と1本につながる。
3. ワールドカップ招致による地域振興
スタジアムや体育館などのインフラを整えただけでは大会は成功せず、地域振興にもつながらない。ソーシャル・キャピタル・リレーションシップを育てることが重要。人と人とのつながり、心と心のつながり、コミュニティーを形成し、ワールドカップ以降につなげていく下地を作ることが今後の課題。
2016年の希望郷いわて国体、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、今後国内で催されるスポーツのビッグイベントを有効に活用していきたい。