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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2018 第8回

ドイツに学ぶ地域スポーツの理想形
~群馬県・新町スポーツクラブの取組み~

新町スポーツクラブ・クラブマネジャー 小出 利一 氏

新町スポーツクラブ・クラブマネジャー 小出 利一 氏

2018年度第8回スポーツアカデミーが3月14日開かれました。
今回は新町スポーツクラブ・クラブマネジャーの小出利一氏にご講義いただきました。

【当日の概要報告】

※以下の報告は、当日資料と合わせてご覧ください。

主な講義内容

1990年代からドイツのスポーツクラブと交流している新町スポーツクラブのマネジャーが、現地視察を踏まえて最新のドイツスポーツ事情を紹介する。クラブ先進国ドイツの現状と課題とは。

1.新町スポーツクラブ

(1)群馬県初の総合型地域スポーツクラブ
1997年に日本体育協会(当時)からスポーツ少年団を核とした総合型地域スポーツクラブの育成モデル地区指定を受ける。準備期間をへて2000年11月、群馬県初の総合型地域スポーツクラブとして開設した。

(2)活動理念とドイツとの交流
青少年の健全育成と子どもの体力向上、中高年者の体力向上、国際・国内交流による地域愛の育成、地域の人材を地域で育成する─の4本柱を掲げる。

子どもたちがスポーツ、文化活動ができる環境を作り、ユースボランティア出身者が指導者を務めるスポーツクラブライフサイクルを実現している。

1993年度の指導者交流を皮切りに、1999年度からニュルンベルク市スポーツユーゲントとの交流を開始。3年に1度のペースで、日本の子どもたちがドイツを訪問し、ドイツの子どもたちを日本に招き、ホストファミリー形式で交流している。

2.ドイツのスポーツクラブの状況

(1)日本で誤解されているドイツのクラブ
ドイツのクラブはすべて総合型であり、自主自立していて有償のクラブマネジャーが存在し、行政からの補助金がない─というイメージが日本で浸透しているが、実態はこうしたイメージとは異なる。

事実は8割のクラブが無償の役員によるボランティア運営をしており、単一競技のクラブもある。会員数は300人以下が全体の63%で、300人から800人までが21%。800人以上は12%。2000人を超えているクラブは4%。ドイツ全体で約9万のクラブがあり、総会員数は約2740万人。27~40歳の会員は比較的少なく、この構成は日本に似ている。

(2)ヘッセン州のロトによる資金の流れ
国がロト(日本ならtoto)の収益金からヘッセン州に2000万ユーロ(約27億円)を支出。そのうち800万ユーロ(10億8000万円)がクラブに、同じく800万ユーロが競技団体に配分される。200万ユーロ(2億7000万円)は安全保険に支出。そのほか会員数に応じて競技団体に出す補助金がある。

クラブは800万ユーロを有資格指導者の活動費などにあてる。対象となる指導者は州内に約2万6000人いて、1人あたり1時間1.17ユーロ(157円)。これ以外に自治体やクラブが活動費を上乗せすることがある。有資格指導者は年間で約380万時間活動。

※1ユーロ=135円換算。以下同じ。

(3)クラブ登録制度
クラブは登録費として1人2ユーロ(270円、大人と子どもで金額は違う)を州スポーツ連盟に納める。州スポーツ連盟はこのうち9セントをドイツオリンピックスポーツ連盟に登録費として支払う。

2ユーロの登録費の中から安全保険をかける。安全保険の半分は州が負担し、クラブは50セント程度負担する。各クラブは毎年1月15日に会員数、男女の別、会員の生年月日、種目別競技団体を州スポーツ連盟に登録。

3.メルフェルデンヴァルドルフ市の事例

人口3万4000人の60%が文化系を含むクラブに所属。市の予算のうち30万ユーロ(4050万円)がスポーツクラブの補助にあてられている。地元のサッカークラブは6部リーグながら、地下1階、地上3階のクラブハウスを会員だけで建設した。

4.ニュルンベルク市の事例

(1)施設予算とクラブ支援予算
スポーツクラブに関わる予算は施設予算とクラブ支援予算がある。ニュルンベルク市は施設予算55万ユーロ(7425万円)を来年度は倍にすると表明。市内には50万都市にして体育館が113ヵ所もある。クラブ支援予算は年々積み立てたものから、各クラブに配布する。

(2)3つのクラブが合併
市内では3つのクラブが合併して新しいクラブができた。ドイツでもスポーツ離れが起き始めており、スケールメリットを求めて合併が実行された。このクラブでは保育園、学童保育も運営している。

(3)スポーツエリート校
市内にあるベルトルト・ブレヒト校は日本の小学校5年生から高校生まで、1500人の生徒が在籍。そのうちスポーツエリートは300人。2012年に国からスポーツエリート校に認定された。トップ選手を育てるスポーツエリート校はドイツ全土に38校ある。

日本との違いは一定の学業成績を求められること。また、スポーツエリート枠の選手は取り組む種目を嫌いになっては困るため、スポーツの楽しみを損なわないような指導が行われている。施設はサッカー場、陸上競技場、フットサル場、体育館5つ等。

(4)学校の支援を行う大規模クラブ
ニュルンベルグ市で最大のスポーツクラブは会員数1万2000人。このクラブは学校の授業をサポートし、体育の授業にクラブの指導者を派遣している。施設のプールを学校が授業で使うケースもある。

5.ドイツスポーツの課題

ドイツはかつて大半の学校が半日制だったが、近年では全日制が増えており、フルタイムで働く女性が増えた。これに伴いスポーツクラブとのかかわりに変化が生じている。また、ゴールデンプランで建設した施設の老朽化が、特に屋内プールで進んでいる。移民と難民の受け入れ、無償ボランティアの減少も課題。

質疑応答

Q.(フロア)ドイツの人たちが日本に来て何に刺激を受けるのか。
A.

(講師)ドイツ側が日本で興味を持つのは学校の部活動。指導者の間でも中学校の部活動の視察をさせると評判がいい。
部活は日本国内でとかく批判されるが、視察するドイツ人の評価は高い。日本での生活体験では、旅館で畳の部屋に布団を敷いて寝る、雑魚寝するという体験はとても喜ばれる。
日本の子どもがドイツに行くと、ドイツの子どもたちがドイツの歴史(近代史)をよく知っていることに驚く。交流の中で歴史を学ぶ時間があり、教える人がうまく、生徒たちとキャッチボールしながら話を進めていく。スポーツ指導では、ドイツの指導者はあまり口を出さずに見守る。ここは日本との違いだ。

Q.(フロア)いまの日本の現状で理想形に近いクラブ、あるいはクラブライフを実現しようと思ったら、何から手をつけるべきか。
A.

(講師)ニュルンベルグ市の体育協会長からは「もっとロビー活動してほうがいい。もっと政治に言わなくちゃダメだ」と言われた。ドイツでもクラブの8割はボランティアが支えていて、理想的に動いているクラブは必ず行政と歯車を合わせている。行政とのコミュニケーションは大事だと思う。
私たちのクラブではナイター照明の使用料を払っていたが、スポーツクラブとスポーツ少年団の小学生から高校生までの使用料を減免する、という条例ができた。行政とのコミュニケーションの成果のひとつである。

日本での体験会の様子1
日本での体験会の様子2