スポーツを考えることは、社会の未来を考えること
- 調査・研究
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スポーツを考えることは、社会の未来を考えること
ふだん私たちは政治や経済、社会を再建することとスポーツを結びつけて考えることは少ない。新聞やテレビが「ニュース」とは別に「スポーツニュース」という時間を設け次元の違うものとして報道するせいか、スポーツもまた社会の縮図の一つであることを意識しない。
本書は、2011年5月の発刊であることから今回の「震災からの復興とスポーツ」というようなビビッドな切り口は用意されていないが、ページを追うごとに、震災復興の柱の一つに「スポーツ」という視点からの政策を加えるべきではないか、という衝動にかられる。つまり本書は、スポーツという『覗き窓』から私たちが生きる現代社会を考えるという視座を与えてくれる、教科書である。
実際、アメリカでは1929年に始まった大恐慌の後、まだルーズベルトのニューディール政策も始まっていない32年にはロスアンゼルスオリンピックを開催している。これがどれほど不況にあえぐ当時の人々の感情や行動に影響を与え勇気を与えたか。また東京オリンピックが、日本の戦後社会のファンファーレであったことを思い出すだけでも、スポーツと時代や社会、市場経済や地域産業との密接な関係が理解できるというものである。
「メガ・スポーツ・イベントの経済効果」(6章)と「その文化的、社会的意義」(7章)については、その評価方法から立案過程での注意事項まで詳述されている。2016年のオリンピック、2022年のワールド・カップの招致に日本が失敗したことは記憶に新しいが、賛否は別にして、これらの招致にはよほどの覚悟と戦略が不可欠であることを改めて考えさせてくる。FIFAとかIOCという団体がいかに独占的、強権的であり、かつ戦略的であることか、プランナーは心すべきである。
本書には、経験価値とか新しい公共とかソーシャルキャピタルとか、世界がグローバル経済化した後の世界、現在から未来を展望するときに必要なキーワードがちりばめられている。その意味で、先ずは町興しや市長選挙にでも出馬する元気のある若い読者に読んでもらいたい。
(掲載:2011年11月17日)