子どもを、園庭・運動場へ誘いだすとき、
大人が覚えておきたい、基本的な動作36
- 調査・研究
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子どもを、園庭・運動場へ誘いだすとき、
大人が覚えておきたい、基本的な動作36
タイトルがいい。まず書名に興味をそそられた。生徒や学生の多くは、自分の「記憶力」が悪いことか、「運動神経」が鈍いことか、そのどちらかに深いコンプレックスを抱きながら学校生活を過ごしているはず、だからである。
もし「記憶力が良かったら」、あるいはもし「運動神経が良かったら」、進むべき自分の進路は変わっていたかもしれない。この思いは大人になってからも消えることはない。選者などは、この運動神経コンプレックスのせいで人生の半ばまでゴルフクラブを握れなかった口である。もっと早くにこの書に出会いたかった。その意味でも、この本はまず大人が読むべき本である。育児期の親や、学校の先生方に読んでほしい。著者は、山梨大学教育人間科学部教授、中村和彦氏である。
「子どもたちの動きが何か変だ」「体は大きくなっているのに体力はどんどん落ちている」。このような現象は1985年頃からのことらしい。背景には、日本社会の環境の変化がある。子どもたちが発達段階で必要な人間の動きを獲得できていないでいる。動きの「未習得」が、子どもの「未発達」をもたらしているらしいのだ。こうなると問題は、もはや子どもの問題ではない、大人の問題、社会の危機、だ。著者にはまず、スポーツを越えた社会意識がある。
しかし、今回の論述はそこにはあまり深入りせず、現場での子どもたちの現実の運動場面をていねいに観察、調査、研究し、そこから子どもたちの動きを「36の動作」に分解、抽出している。この36の動作の解説が本書のねらい。36の基本動作を学習し、動作をつなげていくことで、子どもの「運動神経はよくなる」のだ。その実証と、指導要領が本書の役割であろう。
36の動作を紹介しよう。三つに大別できる。
■バランス系の動作
1.「立つ」 2.「起きる」 3.「回る」
4.「組む」 4.「渡る」 5.「ぶら下がる」
7.「逆立ちする」 8.「乗る」 9.「浮く」
■移動系の動作
10.「歩く」 11.「走る」 12.「跳ねる」
13.「滑る」 14.「跳ぶ」 15.「登る」
16.「はう」 17.「くぐる」 18.「泳ぐ」
■操作系の動作
19.「持つ」 20.「支える」 21.「運ぶ」
22.「押す」 23.「押さえる」 24.「こぐ」
25.「つかむ・つまむ」 26.「当てる」 27.「捕る」
28.「渡す」 29.「積む」 30.「掘る」
31.「振る」 32.「投げる」 33.「打つ」
34.「蹴る」 35.「引く」 36.「倒す」
3・11の震災、原発の放射能の影響から、外遊びが許されない幼稚園が出現している。子どもたちから運動場を奪うとどうなるか?
体重が増えないらしいのだ。運動と身体発達。もはや運動神経以前の問題として、問題である。
(掲載:2012年01月24日)