辞書を読むように、地図を読むように、スポーツを読む。
「スポーツの世界地図」
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
辞書を読むように、地図を読むように、スポーツを読む。
「スポーツの世界地図」
それぞれの国には、それぞれの事情がある。それぞれのスポーツにも、それぞれの背景と事情がある。世界地図を広げてあるいは地球儀を回しながら、「世界のスポーツ最新事情」を知るための一冊。この本は、そういう本だ。
例えば、言葉が通じない国に旅したとしよう。その国の誰に対しても「スポーツ」という単語だけは、その意味するところをほぼ理解してもらえるはずだ。「スポーツ」と言えば、誰でも「ハハーン」と了解してくれる。これは珍しい現象だ。しかし、相手の思い描くスポーツが、あなたのイメージしているスポーツとは限らない。
例えば、民族構成が極めて複雑な国マレーシアという国。ここは13の州にそれぞれ王様がいて、全体をまとめる国の王は選挙で選ばれるという面白い国だ。ここではどんなスポーツがイメージされるだろう?中国系は陸上競技や卓球を、インド系はクリケットやホッケーを、それに対してマレー系の人々はフットボールに似た伝統的なスポーツを思い描くにちがいない。マレーシア国民の共通のスポーツはバトミントンなのだ。オリンピックのメダルはすべてバトミントン競技からのものである。
誰が、どこで、どんなスポーツを、なぜしているのか。その事情はさまざまだ。「国別スポーツプロフィール」(第4部)や「スポーツA to Z」(第2部)で、私たちはその国の文化、風習、歴史、宗教を考えることの入り口に立つ。
この本の奥行きは深い。オリンピックやワールドカップ・サッカーを引くまでもなく、スポーツは政治や経済と密接にからみあっている。地球儀を回しながら展開される世界戦略や収益は、私企業の比ではない。「国際スポーツ政治」(第1部)「スポーツの経済学」(第3部)。スポーツは今や、世界最大の産業の一つとなっている。そのブランディング化のマーケティングやマーチャンダイジングにも目を見ひらかされるだろう。その裏で、インドの少女が1個5ルピーで縫っているサッカーボールが1個100ルピーの売価になる裏事情も知ることになる。著者の目配りは正確で細部に及んでいる。
(掲載:2012年07月24日)