いまこそ選手自身が、発信するときだ。
「ようこそ、障害者スポーツへ」
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
いまこそ選手自身が、発信するときだ。
「ようこそ、障害者スポーツへ」
この本には、障害者スポーツにどのように向き合えばいいのか、また障害者本人にはアスリートとしてどのような意識改革が必要かということが書いてある。ここには、この夏開催されたロンドンのパラリンピックをめざす挑戦者たちの現場の様子が報告されている。私たちはすでにロンドン・パラリンピックの結末と感動を知っている。それでもこの本を、「君も読んでみないか」と老若男女、誰れ彼れとなくすすめたくなるのはなぜだろう?
「ほら、ここに立ってみろ。海の向こうに広がる世界が見えてこないか」。かつて旅の途中で、岬の突端に立つ「オーシャン・ビュー」という看板を見かけたことがあったが、「障害者スポーツ」という岬の突端に立つことで、これから広がるアスリートたちの興奮と喜びが聞こえてくるような一冊である。
著者は、障害者スポーツを「スポーツ」の枠組みでとらえようとしている人である。電動椅子サッカーの試合中に人口呼吸器がはずれ、その場にバタッと倒れた選手がいた。もちろん試合は中断。しかし人口呼吸器の再装着で選手が一命をとりとめると試合は再開された。すると今度は、その選手が再びフィールドに向かったのである。ここまで人を熱くするスポーツとはいったい何なのか?著者は、このよう試合模様を画像中継しようとNPO活動に奔走している人でもある。
障害者スポーツには長い間、関係者以外の観客がいなかった。障害者スポーツは厚生労働省の所管で、一般スポーツは文部科学省の所管。イベント、大会、活躍する舞台も頂点にも分け隔てがあった。ユニバーサル社会の実現をはばみ、健常者と障害者を分け隔てているものはもちろん私たちの気持の中にある。言葉にある。ルールにある。メディアにある。
しかし、こういう不満足な社会の現状に静かに激しく戦い続けてきた人たちがいたのだ。この夏のロンドンでは、ついにパラリンピックもオリンピックの枠の中に、と言う主張に頷きたくなる義足のランナーも誕生した。この本には、そういうことも書いてある。
障害という不自由をかこつ人々が、いつプレーできなくなるか、いつまで生きられるかもわからない中で人間の可能性に挑んでいる。これぞアスリートたちが子どもに伝えたいアスリート精神だろう。そんな風に読める本だ。
(掲載:2012年10月29日)