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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツアカデミー2019 第4回

トークセッション「持続可能な運動部活動を考える」

 スポーツアカデミー2019第4回「持続可能な運動部活動を考える」

基調講演

講師
内田 良 氏(名古屋大学大学院 准教授)
会場
日本財団ビル会議室

パネルディスカッション

登壇者
柳見沢 宏 氏(長野スポーツコミュニティクラブ東北 理事長)
中塚 義実 氏(特定非営利活動法人サロン2002理事長、筑波大学附属高校教諭)
古杉 航太郎 氏(静岡聖光学院高校3年生、部活動サミット実行委員会リーダー)
内田 良 氏〈ファシリテーター〉

[第一部]基調講演:主な内容

「制度設計なき部活動の未来を考える ―リスクの見える化と持続可能性の追求」

内田 良 氏

内田 良 氏

講師:内田 良 氏

1.部活動の死亡事故

柔道の死亡事故を調べて分類すると、死亡事故は5~8月に集中していた。2011~2012年に数多くのメディアが報道し、多くの人がその事実を知るようになり、5~8月の指導を特に注意深く行ったことで現在の死亡事故はゼロになった。リスクを把握し、対策を取ることで、世の中は変わることが証明できた。組体操も同様のプロセスを辿り、名古屋市内では事故が9割減った。

2.部活動の持続可能性

かつての柔道や組体操のように多くの犠牲者の上に活動が成り立っているようでは持続可能とは言えない。未来志向で問題を解決していけば、持続可能性は高まる。そのために必要なのがリスクの見える化だ。自分が好きな競技で子どもが死んでいるという事実に直面するのは苦しい。しかし、そこに向き合って初めて明るい未来を切り開く可能性が生まれる。

3.教員の働き方改革と部活動改革

部活動の指導が教員の大きな負担になっている。教員はツイッターで部活動の苦しさを可視化した。こうした声が上がると、「それは一部ですよね。私は部活動の指導を楽しくやっています」という声が必ず上がる。マイナスの声を可視化するとプラス面の声が多く上がるのはよくある反応だが、それでマイナスがなくなることはない。部活動に負担を感じている教員が一部だと言うのであれば、ブラック企業もいじめも不登校も、自然災害で苦しむ人も一部。一部だからいいということにはならない。持続可能な部活動にするには、みんなで知恵を出し合い、マイナスだけを削っていくことだ。

4.部活動には制度設計がない

部活動には制度設計がない、という事実がさまざまな問題を生む大きな要因となっている。体育の授業で廊下は走らないが、部活動では廊下を走ったり、階段を上り下りすることはある。部活動の実施場所や施設が不足しており、複数の部活動が同時に行うために事故が起きる。部活動に制度設計がないことを示す具体例だ。部活動は教育課程外なので大学の教職課程でも授業がない。顧問の半数が競技経験なしというデータも制度設計がないがゆえである。
この10年間で中学校の休日の部活動指導が極端に増えた。保護者から期待されていると思う教員ほど休日を返上し、練習も長時間化する傾向がある。国語の授業で、「子どもたちの目が輝いていた。じゃあ土日も国語の授業をしよう」とはならない。なぜなら授業には制度設計があり、ブレーキのかかる仕組みができているから。部活動はそれがないから暴走する。自主的という領域にはブレーキがない。

5.新しい動き“闇部活動”

スポーツ庁は制度設計の一環として部活動の活動時間を制限するなどのガイドラインを発表したが、現在、闇部活動という新しい動きが起きている。これは「部活動ではない」と明確に定義して朝練習をしたり、自主練習をしたり、週末は保護者会という看板を掲げて、その競技の練習をすることもある。
闇部活動では事故やトラブルが起きたとき、責任は誰がとるのか。とても危うい傾向だと感じる。 部活動は過熱の一途をたどってきた。資源制約があるのだから、部活動は週3日くらいまでにするべきだろう。全国大会はできるだけ民間のクラブに任せる。週3日の部活動でも全国大会を目指すところは目指せばいい。週3日の中で努力して強くなる。緩くやるところは緩くやればいい。「闇部活動は一切なし」のルールを定め、みんながそれを守れば、ハッピーになれるのではないだろうか。

[第二部]トークセッション(活動報告)

■活動報告①

「総合型クラブによる運動部活動支援 ~長野スポーツコミュニティクラブ東北の取り組み~」

柳見沢 宏 氏

柳見沢 宏 氏

柳見沢 宏 氏(第1回講師)
長野市立東北中学校では、少子化や教員の負担増などにより、これまで通りの運動部活動を維持していくのが難しい状況となった。そこで、地元の総合型地域スポーツクラブ「長野スポーツコミュティクラブ東北」が、部活動支援や地域の子供たちがスポーツを十分にできるような環境づくりに尽力してきた。現在は部活動のクラブ化によりスポーツ環境を確保する方向で活動をしている。

■活動報告②

「引退なし」「歯磨き感覚」「補欠ゼロ」の運動部活動を目指して ~スポーツに「遊び心」を取り戻せ~

中塚 義実 氏

中塚 義実 氏

中塚 義実 氏(第2回講師)
日本のスポーツ観を見直そうと、「歯磨き感覚」「引退なし」「補欠ゼロ」の理念を掲げ、負けたら終わりのカップ戦ではなく、弱いチームでも下手な選手でもたくさん試合ができるようなサッカーのリーグ戦「DUO リーグ」を創設。クラブ創設を皮切りに近隣でリーグ戦を行い、アソシエーションを作ろうとした。DUO リーグは一定の成功を収めたものの、当初の理念であった遊び心(スポーツマインド)が時代の変化により失われていった。本気の遊びが人を育て、社会を育てる。部活動の見直しも「ちゃんと遊ぶ」という観点が必要と考えている。

■活動報告③

「部活動の在り方を考える ~静岡聖光学院と部活動サミット~」

古杉 航太郎 氏

古杉 航太郎 氏

古杉 航太郎 氏(静岡聖光学院高校3年)

1.静岡聖光学院の部活動

(1)練習時間
部活動は原則週3日(火、木、土)。土曜日に学校がない週は週2日。練習時間は夏90分、冬60分。
こうした環境の中で、ラグビー部は何度も全国大会に出場している。練習時間が短いのは、学校の文武両道を目指す理念に基づいている。

(2)主体性と自主性
キーワードは主体性。主体性と似ている言葉で自主性があるが、同校ではそれを別なものと考えている。自主性とは、決められたテーマに対して自ら率先して取り組むこと。いわば昔の優等生型。主体性というのは、何をすべきか決められていないことを自分で考えて行動すること。今、求められるのはそのような人材像。
監督やコーチから「もうちょっと体力をつけなさい」と言われて、グラウンドをずっと走るのは自主性。もう一歩踏み込んで、試合の中で起こり得るシチュエーションを考えて全速力で走る、ある程度のスピードで走る、1回止まるというバリエーションを考えて、より実戦的な体力向上を自ら取り組むのが主体性。
部活動の時間が少ないので、より効率的で中身の濃い練習をしようと常に考えている。ラグビー部では朝礼の時間を使ってその日の練習内容、練習のポイントを確認しておく。昼休みに映像を見ながら試合の分析や反省をする。ミーティングでは、自分たちの良かったところ、悪かったところを全員で共有し、次に何をすべきかを明確にするよう強く意識している。
夏休みの勉強と部活動計画の進捗具合を知るために、夏休みに1日ごとのスケジュールを表にまとめる「成し遂げシート」を作っている。自分がどれくらい進んでいるのか、課題はどれくらい残っているのか、シートに書くことで可視化され、無駄がなく効率的な日常を送ることができる。

効率的な時間の使い方

  • 練習メニューを確認する時間がない → 朝礼でメニューの確認を行う
  • 試合の反省・分析の時間が取れない → 昼休みにビデオミーティング
  • 問題解決の時間も確保できない → 1分間でGOOD-BAD-NEXT

古杉 氏 発表資料

2.部活サミット

2019年7月に第2回部活動サミットを開催。約30人の中高生と「部活動とはどう在るべきか」というテーマでディスカッション、研究発表、講演などを行った。開催資金はクラウドファンディングで調達した。
第1回部活動サミットの開催時期は日大アメリカンフットボール部のタックル問題が起きた時期で、部活動の改革が急務だと言われていた。部活動に必要なものを考えたとき、生徒一人ひとりが主体的に考え、活動することではないか、という答えが出た。
そして、第2回部活動サミットでは去年の収穫を活かし、生徒自身が主体的な部活動運営とは具体的にどのようなものかを考えるきっかけになってくれたらと願っている。

トークセッションの主なやりとり

活動報告についての印象

柳見沢 私はずっと体育教員をしていて、県の中体連会長も務めています。スポーツという概念がいつの間にか無くなり、強制された活動になっているのが部活動だなと強く感じます。

中塚 私が30年、同じ学校で定点観測をしている中で、ここ数年、スマホの影響なのか、本校の高校生のコミュニケーションの質の低下を感じ、危機感を覚えています。一方で、古杉さんのようにしっかりと人前で、自分の言葉で考えを述べられる、しかも、それを形にしていく人もいます。そういう人を、われわれ大人がしっかり支えていかないといけないと、改めて感じました。本校も部活動は週4日以内と昔から決まっています。彼の話は共感するところがあるし、時間が短くても工夫をすれば絶対にできるので、そういうところにエネルギーを注ぐべきだと思いました。

古杉 最初に感じたのが、このような機会があると、自分の知らないことをたくさん知ることができる、ということです。私は寮に入っていて、学校と寮の行き来で、外に出る機会がまったくありません。今でこそスマホなどでいろいろ調べ情報がたくさん入手できますが、こうやって人と会って、その言葉から学ぶということにすごく意義があると感じました。

週3日の部活動の実施

内田 私は古杉さんの静岡聖光学院高ラグビー部の佐々木(陽平)監督とあるテレビ番組でご一緒しました。私がずっと気になっていたのは、「週3日とか練習日数が少なくて、全国大会に行っています」というと、全国大会に出場したことが、週3日練習の免罪符になっているように聞こえる。「全国大会に行かなくたって、週3日でやってます」という答えが必要だとずっと思っていました。
佐々木先生に「ラグビー部は本当にすごいと思うんですけど、ほかの部活はどうなんですか」と聞いたら、「まさに、今、ラグビー部をモデルに広がっている」とおっしゃっていました。要は、「うち、みんな週3日だよ。全国大会に行かない部もたくさんあるけど、みんなそれでやってるよ」ということをおっしゃっていました。
これからは全国大会を目指すかどうかに関係なく、週3日ほどの活動日数で満足しているみたいなところがトレンドになっていくかもしれません。この辺りの動きをみなさんはどのように受け止めているのでしょうか。中塚さんのところは、週4日ぐらいで楽しさを追求したけど、結局、厳しい世界に戻っているというところでしょうか。

中塚 いえ、そうではなく、高体連の大会の形式は、負ければ終わりのノックアウト方式、一つの学校で一つのチームです。だから、もし年3回公式戦があったとしても、1回戦で負けると年3試合だけ。しかも多くの1年生は試合に出られず、3年生で引退します。これでは生活の中にスポーツがないじゃないか、というところからリーグは始まっています。レベル別のリーグをつくって、そんなに上手じゃない人たちも、上手じゃない人同士で定期的に楽しめればそれでいいじゃないか、上を目指す人たちは上を目指す人たち同士でやればいいじゃないか、ということです。
ところが、リーグ間の昇降枠ができ、みんな上を目指して、リーグのレギュレーションも一つ上のリーグのレギュレーションに合わせるようになった。DUO リーグでは「オーバーエイジ3名」というルールがあり、私も時々出場して、そういう遊び感覚がありましたが、だんだん遊びが入り込む余地がなくなってきているということです。

内田 静岡聖光学院は今、すごくうまく回ってるけど、そのうちみんなラグビー部みたいに全国大国へ行こうよ、みたいになる気配はないですか。

古杉 スポーツをやる以上、勝ちたいという気持ちは普通かなという気がします。ただ、勝ちたいからといって、練習を週4日に増やすという話は出ず、週3日でどうやって工夫するか、どうやって強くするか、空いている時間をどう活用するかを考えています。大人の働き方改革に口を出すつもりはありませんが、時間を短くしたらいいというわけではなくて、時間を短くして、余った時間を何に使うのか、というとことも含めて活動しています。

内田 本当に高校生ですか?その視野の広さには感激します。まさに考える高校生をつくっていますね。

トークセッションの様子1

地域でのスポーツ活動環境

内田 地域のクラブ活動は2種類あると思っています。学外で一所懸命やって全国大会に出たり、トップアスリートに育ったりする一方でゆとりを持ってやっていくというのもあるでしょう。現状はどうなっているのでしょうか。

柳見沢 今、どうしても中体連の大会がメインで動いています。その枠組みはなかなか変えられません。そうした中で、種目によってはU-15とかU-14という枠組みが出てきて、学校の枠ではないチームを編成して試合をするという傾向が見られるようになりました。子どもたちの数が減って、学校の中で今まであった部活動が成立しないため、必然的にこのような傾向が出てきたと思います。

内田 中塚さんのDUO リーグにしても、柳見沢さんの地域活動にしても、それは部活動の代替なのでしょうか。部活動をたくさんやって、そのあと夜7時から地域クラブでやってくださいという話なのか。それとも部活動とは違う組織として、部活の受け皿になるような新しい姿を作ろうとしているのでしょうか。

中塚 私たちの活動で当初想定していたのは、部活動とは別というか、試合を定期的にやる、あるいは場所を押さえる、それを継続してやっていく仕組みをつくろうとしました。多世代型のクラブにして、アマチュアに引退なしという形にしようとしました。放課後の活動は、興味のある子がグラウンドに集まるという形です。あるいはレベルの高い子は、レベルの高い子がいるところへ移籍する。
学校としては、平日は筑波大付属高校にいるけど、リーグ戦は本郷高校のメンバーで出るような形です。このようなイメージを描き、実際にみなさんに参加してもらおうとなったときに、こちらのメッセージが伝わりきらなかったところもあって、みなさん学校として参加をしようとしたわけです。
このような経緯があって2004年の公認化を断念する事態になりました。このあたりの問題は解決しないままです。今はリーグの上のほうでは、資金が潤沢にある私立の学校と、J リーグのクラブの下部組織がトップリーグをやっています。一方で下部では、学校の先生が手弁当で「えらいこっちゃ」と言いながらやっているわけです。当初はこういうイメージではありませんでした。

柳見沢 中学校の大会は中体連が中心です。3年生が地区大会とか、県大会とか、一つ終わればそこで引退です。ですから部活に代わるU-15とかU-14というカテゴリーの中で活動することが、これから競技団体の動きとして出てくると思います。
それを、中学校の先生たちがどう受け止めてやっていくかということが大きな課題になるはずです。中体連がいずれそういうことに気付いていかないと、自分のやりたいスポーツをやっていくことが難しい状況になるかと。

トークセッションの様子2

内田 そういう枠をちゃんと作って守っていくということですね。部活のガイドラインで練習は週5日までと示されたのに、それを破る人がいると他校も破ってしまう。そういった意味では、静岡聖光学院は週3日を守っていますが、内部から「もうちょっと増やせよ」という声は出てこないのでしょうか。部活をたくさんやっている学校の先生方に聞くと「子どもたちがやりたがってるんだ」とよく言います。

古杉 練習は火・木・土なので、月・水・金はなしです。「じゃあ(全国大会に出場するラグビー部は)月・水・金はラグビーをしないのか」と言われると、そうではありません。一人でできるトレーニングをやったり、監督はいないけれどみんなでサインの確認をしたり、そういう時間にうまく使っています。他にも委員会だったり、他の活動を月・水・金にやることはあります。
例えば、僕が火付け役になって、学校で使わなくなった紙をトイレットペーパーにリサイクルして、それを学園祭で売って、集まったお金でまた何かしよう、みたいなこともやっています。「やっちゃおうぜ」が本当にやれちゃうのが、学校の特色かなと思います。僕は知らなかったですけど、クックパッドとコラボして、男子校で男子が料理をするという企画もやっています。
自分たちで考えて、やりたいことをやっていこうと。それをサステナブル(持続可能)にする。ただの遊びじゃなくて、学びに変えようと言う学校の雰囲気なのかなという気がします。

5年、10年先に目指すもの

内田 氏 発表資料

内田 氏 発表資料

内田 お話ししていて、私が最近一番大事にしている言葉は、古杉さんも言ってくださった「サステナブルなもの」、犠牲の上に何か成り立つのではなく、みんなが生涯続けていくにはどうしたらいいかということです。図らずもほぼみなさん同じことをおっしゃっています。持続可能性というのはこれからもっと高めていかなければなりません。そのためにこれから5年、10年先、どういうところを目指していけばいいのか。最後にこれをみなさんに質問します。

柳見沢 私は中学生のトーナメントをやめるべきではないかとずっと思っています。トーナメントは勝利が主な目的になります。勝つと当然喜びますが、中学生期にトーナメントでナンバーワンを決めるのはどうかと。もっとブロックの中でのリーグ戦というのをベースにしながら、ゲームをやることを楽しめる、そんな環境をぜひつくっていきたいと思っています。

中塚 リーグ戦は遊びだということで、これを定期的にやる仕組みとしてリーグ戦は考えられたものだし、それを自分たちで、例えば高校生自身でマネジメントしていくようになったら理想的だと思います。練習して強くなるという部分だけではなく、自分たちの遊びの場を自分たちで作り上げるという訓練をやるのが本当の部活なんじゃないかと思っています。
学校で昼休みにサッカー部がフットサル大会を企画するという取り組みをずっとやっていました。これをやると準備は結構大変だけど、非常に達成感があります。我々もティーチャーズで出場したりして、その遊びで繋がりがまたできてきます。本当はそういうことをもっともっとやっていくべきだろうなと思います。我々の指導の力点もそちらのほうにもっと置いていっていいんじゃないか、という気がしています。

内田 私はスポーツの専門家ではありませんが、部活動の問題を訴え始めた頃、私のところに来てくださるのは苦しんで倒れそうな人ばかりでした。
でも、この2年ぐらいで「部活大好きだ」「スポーツ大好きです」と言う人が「でも、少しおかしい」と言って来てくださるようになりました。輪の広がりというのを感じます。なぜ広がったのかと考えると、みんながこういった情報をこういう場で共有したり、また、職場に帰って隣の人に言ってみる。自分のことを理解してくれそうな人に言ってみたからだと思います。「実は、自分も部活おかしいと思っていた」「あ、でしょう?」というように。ですからサステナビリティーを高めるという意味では、私たちの活動そのものをサステナブルしていく必要があります。
みなさん、これから職場に帰ったら、ぜひ自分に近い人に、「昨日こんなことがあったんだよ」と伝えていただけると、また大きな輪が広がっていくのかなと思っています。

古杉 私は学校の生徒という存在が一番サステナブルにできるのではないかと思っています。会社なら5年とか10年のスパンですが、部活は3年生が一番上に立って、1年生にしてみれば、3年生がいなくなると会社でいえば取締役とか、専務がごっそりいなくなって、平社員が急に社長になるみたいな組織だなと思っています。
そうなるとがんばっていた3年生がいなくなって、誰がそれをやるのかとなったときに、その道標というか軸になるのが制度だと思っています。そのルールは学校ごとに違うと思いますが、その軸をしっかり持っておけば、誰が社長になろうが、誰がサポート役で平社員に回ろうが関係なく持続していくのかなと思います。

質疑応答

Q.(フロア)古杉さんのお話の主体性と自主性ですが、高校で教わったのか、どうやって身につけたのかをお聞きしたいです。残りの3名には、持続可能な制度設計ということで、人とお金の部分をどのようにお考えになっているのか。物でいえばスポーツ施設、学校の施設をどう使うのか、というところもお伺いしたいと思います。
A.

(古杉)一言で言ってしまえば、厳しさかなと思います。制限をされた中で工夫して、それを最大限使えるかという、そんなずる賢さみたいなのがあるかなと思っています。

(内田)部活動はこれだけ過熱しながら指導者はただ働きです。だからどこか外に出すのも非常に難しい。指導者の質、あるいはお金の問題はどういう課題があって、どのようにクリアしていけるのでしょうか。

(柳見沢)私も教員をずっとやっていて管理職になる前は、部活動で子どもと関わることが非常に大好きでした。それはお金とかということではなくて、クラス経営とか、学校経営を度外視して、自分のカラーを子どもに直接出せるということが最高の魅力でした。その中でどのように改革していくのかは非常に難しいですが、一番は多面性をどう持つかを考えていく必要があると思います。部活動を一所懸命やっていることに価値がないと私は思いません。だけど「ほかにもあるよ」「こういうこともあるよ」ということを伝えながら、部活動の意味を考えていく必要があるのではないかと思っています。

Q.(フロア)指導をしていて全国大会に出場すると「すごい」と言われますが、本当は全国大会に連れていかなくても、子どもたちがいきいきとプレーして、大人になって力を発揮できれは、それは素晴らしい指導者だと思います。そのあたりの世間の評価をどうやったら変えていけるのでしょうか。
A.

(中塚)部活動は何を育んできたのか。何となく実感としてはあります。だけどエビデンスとして見えてはきません。
東京都高体連(東京都高等学校体育連盟)研究部が今年、「社会人基礎力」という経済産業省が出した指標を調査項目に入れて、部活をやっている子、部に入っていない子、あるいは委員会を張り切っている子、張り切っていない子、それぞれどういう力が育まれているのかというデータを発表しました。こういう数字でエビデンスを示していくことを、現場はもっとやっていく必要があると思います。
もう一つは数字にならない質的なデータです。「勝った・負けた」とは違うところで子どもたちが育ってきた様子は、我々も見ているわけで、実は頭の中にあります。みなさんもあると思います。それをもっともっと表に出しながら、部活の良さというか、そういうのも違った角度でもっとクローズアップしていくべきだろうなと感じています。
ブラックの方向ばかりでなく、やっぱり良さもあって、本当にやりたい子もいるし、実はやりたい先生もいる。「だけど、やり過ぎはおかしい。もっとほかに高校生としてちゃんとやることがある」ということを、大人としてちゃんと言っていく、それが指導だと思います。そのあたりのバランスを考えながらやっていきたいですね。

トークセッションの様子3
トークセッションの様子4

第4回スポーツアカデミー当日は時間的制約もあり、参加者からの全ての質問に対応することができなかったため、いただいた質問の中から、後日、講師の方にご回答をお願いした。主な回答について、以下に紹介する。

セミナー終了後の質疑応答

Q.(参加者)部活動に関わるステークホルダー(生徒、指導者・コーチ、学校・教育委員会、保護者など)にとって部活動を「ハッピー」なものとするためには、どのような心持ちや取り組みが求められるのかにつきまして、ご教授いただけますでしょうか?
A.

(柳見沢氏:第1回、第4回講師)
部活動とスポーツは価値観が違うと思っています。スポーツの持つ多様な価値観の中に「部活動」の意義が包括されています。
この意識改革が環境の整備と共に実施していくことが必要だと思います。先ずは、区分けした活動を実施していくことだと思います。

Q.(参加者)IT企業に勤務をしています。今後の運動部活動の運営に関して、ITを活用することで効率化できることがありそうな気がしております。ITで解決できる(と想定できる)領域はございますか?
A.

(中塚氏:2回、第4回講師)

  • 指導者と現場のマッチング
    指導者を求める(学校)現場と、指導の場を求める指導者のマッチングサービスがあるとよい。
    すでにJFA ではこのようなサービスをHP 上で展開しており、成果を上げている。「部活動指導員」の制度を有効活用するためにも必要だろう。
  • 日々の活動(指導)へのIT導入
    これはすでに多くの指導現場で導入されている(ただしトップレベルの現場や勉強熱心な指導者がいるところが中心)。
    感覚的な言語だけで指導するよりも、現象を“みえる化”して指導に生かすことは重要。映像や数字、図や表など、見せる方法は多様であり、工夫の余地は多々ある。
    ただし部活動の現場では、できるだけ簡単にできるのがよい。大掛かりな装置が必要になったり、器械の操作に手間がかかるようではだめ。
    またITに依存して「自分の目で観察し、言語化し、肉声で(face to face で)伝える」ことを放棄してはならない。ここが重要。
Q.(参加者)子ども(生徒)にとって、最良なスポーツ環境とは、どんな環境でしょうか?
A.

(古杉氏:第4回講師)私が考える子どもにとって最良なスポーツ環境とは『子どもの心の安心・安全が守られている環境』を作り出すこと、だと考えております。
確かに一見すると、スポーツをするにふさわしい人工芝のグラウンドやナイターなどの施設、ボールやウエアなどの道具、コーチやトレーナー、栄養管理士などのスタッフ、日本中から集められたエリートな仲間などが整っていれば充実した環境と言えるのかもしれません。
しかし、その全てが完璧に整ったところで子どもたちにとって最良なスポーツ環境と言えるのでしょうか。そもそもすべての日本の子どもたちにそんな環境を提供できるのでしょうか。私はそれよりも子どもたち一人ひとりの心の安心・安全を確保し、心置きなくスポーツに打ち込める環境を作り上げるのが大人のできる環境づくりだと考えます。
『心の安心・安全が確保されている』とは「私はお父さんやお母さんからテニスをすることを応援してもらっている」と感じることができたり、「私はサッカーを楽しんでいいんだ」と心から思ったり、「もっとバスケがうまくなりたい」と練習場に行きたくなったりする気持ちが自然と湧き上がる状態だと考えております。
そのために子どもたちに関わる大人(学校関係者、保護者、スポーツクラブならそのコーチ)は、子ども一人ひとりに寄り添い、常に的確なサポートができるように子どもを観察しなければなりません。すべての子供たちに同じように接するのではなく、ある子には大勢の前で褒め、またある子には一対一でこっそりと褒め、さらにまたある子には直接伝えず、間接的に評価が伝わるようにする、といったようにやり方は十人十色であります。子どもに合った接し方を見つけることで次第に子供と大人との心理的距離感は近づいて、信頼関係も深まってくるものだと思っております。
さらに大人間での情報の共有も重要になってくると感じています。子どもに限らず、人間はその場のコミュニティに合った振る舞い方を自然にとります。
したがって、その子どもを多角的に観察し、より合理的な判断を下すためには家庭や学校とのコミュニケーションは必要不可欠となります。しかし最終的には大人が教育者としての自覚を持ち、目の前にいる子供の心の安心・安全をどう守るのかにすべてを注ぐ覚悟ができていればどんな方法でもきっと子どもに伝わるはずです。
言葉では表せなくても感覚的に染み込んでいれば、それは次のステージで必ず活きてくると確信しています。

部活動イメージ