プライム建築都市研究所代表 田辺 芳生氏
2018年度第6回スポーツアカデミーが1月16日開かれました。
今回はプライム建築都市研究所代表の田辺 芳生 氏にご講義いただきました。
【当日の概要報告】
※以下の報告は、当日資料と合わせてご覧ください。
主な講義内容
スポーツをするためのグラウンド、体育館、クラブハウスといった施設が、ただスポーツを楽しむだけに利用されるのはもったいない。市民が交流したり、スポーツに興味がない人でも利用できる施設のあり方、これからの時代に求められる新たなスポーツ施設のつくり方を考える。
1.スポーツによる新しいパブリックスペースを考える
(1)スポーツに関わる人の幅を広げていく
スポーツを「する・見る・支える」以外の人を巻き込む。公園なら公園の利用者がおり、そうした人たちが違う形で参加できるように考える。また、公共施設は公共性が求められるため、誰もが自由に参加できさまざまなスポーツが実施できる必要がある。
(2)スポーツに何ができるか
スポーツの効用は健康増進、地域活性化、交流人口の拡大などさまざまあるが、パブリックスペースをつくる際は、地域のニーズ、地域の課題をとらえて施設の構想を練る。
(3)持続可能性
地方自治体の予算に頼らず、独立採算制を目指す。施設使用料だけでなく、それ以外の収益事業を行う。特に公共施設の場合は、公益性と収益性のバランスを考えて持続可能性を追求していかなければならない。
2.施設デザインのコンセプトを考える
設計をする際に重要な考え方は、LIAISON(多様な場をつなぐ)、MULTIFUNCTION(多目的な利用ができる)、UNIVERSAL(誰もが使える)、CO-CREATION(共につくる)の4つ。
3.施設整備のプロセスを考える
施設整備は構想→計画→設計→建設→運営というプロセスがある。設計事務所であれば計画や設計の段階から関わるケースが多いが、構想の段階からさまざまな専門家が参加するのが望ましい。
4.事例紹介
(1)陸前高田クラブハウスプロジェクト
陸前高田市は2011年の東日本大震災の影響で、学校のグラウンドが仮設住宅で埋まり、子どもたちが外で遊ぶ環境がなくなってしまった。それを解消し、街を元気にする拠点を作ろうと始めたプロジェクトで、芝生のグラウンドとクラブハウスを作った。
クラブハウスができた13年から、ここを拠点に早稲田大学サッカー部が地域の子どもたちとサッカー交流をスタート。Jリーグの川崎フロンターレも継続的に地元と交流を続け、16年にはこのグラウンドでJリーグチーム同士の試合を行った。
(2)ちふれ化粧品飯能研修センター
なでしこリーグのASエルフェン埼玉をサポートする企業、ちふれ化粧品が新工場、研修所を建設する際、研修所をASエルフェン埼玉のクラブハウスにも使える複合的な機能を持つように設計した。
施設はセミナールーム、カフェテリア、フィットネスルーム、ロッカールームに分かれ、研修をする社員とサッカーをする選手が同時に使える。セミナールームは研修所になったり、更衣室になったり、多目的な用途に対応でき、研修社員とサッカー選手の交流も生まれた。
(3)テラスポ鶴舞
愛知県サッカー協会(AIFA)の発案で、名古屋市にある鶴舞公園の中にスポーツ施設「テラスポ鶴舞」を整備し名古屋市に寄付、2018年にオープンした。土のグラウンドから生まれ変わった人工芝のグラウンド2面と、新たに建設したクラブハウスがある。
運営は名古屋市の委託(指定管理料なし)を受けたAIFAが担い、グラウンドを貸し出すだけでなく、各種教室やイベントを開催するなど、オリジナルのサービスも提供している。
クラブハウスが中央にあり、両側にグラウンドという構成。クラブハウスは中と外が連続するように設計され、すべての部屋が外から直接入れるようになっている。大きな屋根をかけて、夏の日差しや雨から人を守る場所が作られている。また、夜間照明付きの施設のため、夜には外に光があふれて見えるようにデザインされている。